現代は「ストレス社会」といわれ、厚労省の調査によると、仕事や職業生活に関することで強いストレスを感じている労働者の割合は、約6割にのぼるそうです。そのため、職場におけるストレスをどうやってマネジメントしていくかということが大きな課題となっています。今回は、産業医が、どのような視線で労働者のストレスに対応しているかをお話しします。
仕事のストレス

職場でのストレスの4大要因は「仕事の量」、「仕事の質」、「人間関係」、「将来への不安」

2015年12月から職場におけるストレスチェックが義務化され、3年が経とうとしています。高ストレス者と判断された場合は、産業医との面談を勧められるのですが、産業医はどんなことを考え、高ストレス者と面談しているのか、気になるところだと思います。

産業医である私は、ストレスの問題を扱うとき、「仕事の量」、「仕事の質」、「人間関係」、「将来への不安」といったように大きく4つに分けて、その要因を考えます。そしてそこから見えてきた最も効果的な解決方法をご本人や職場に提案します。

一番分かりやすいのは「仕事の量」です。仕事の量が極端に多く、残業時間が長くなれば、当然ストレスも大きくなります。ですから解決方法は、仕事量を減らすことです。社会的にも今、働き過ぎに対して理解が進みつつあります。

2018年6月、働き方改革法案が通過し、月100時間以上の残業は原則罰則つきで禁止されることとなりました。また、月におおむね160時間以上残業した場合、強度の精神的負荷と見なされ、その後に発症した精神疾患は労働災害として扱われるのが通例になっています。今後こうした労働時間の正確な算定に関する規制も、ますます厳しくなると予想されます。

「仕事の質」は、仕事の量に比べて、定量的な評価が難しいことや、人により苦痛と感じる仕事・感じない仕事が全く違うことから、あまり理解が進んでいない状況ですが、やはり大きなストレス要因になりえます。

典型的な例としては、飛び込み営業があげられます。自らの天職と言わんばかりに飛び込み営業を生き生きとこなすセールスマンがいる一方で、そのつらさを切々と訴える人もいます。前者にとってはストレスではありませんが、後者にとっては大きなストレス要因です。

また看護師のように、人の死を扱ったり、他人の強い感情にさらされることの多い仕事は、必然的にストレスが強くなることが知られており、燃え尽き(バーンアウト)症候群になりやすいと言われています。

こういった仕事の質から生じるストレスに関しては、本人が自覚していないケースもあります。ですから周囲が気づいて人事担当者や産業医に相談してもらうことも大切です。よりその人に合った働き方を提案することが、ストレス軽減への近道となります。

実際、産業医として高ストレス者との面談をしていて、一番多いと感じるストレス要因は「人間関係」、特に上司との関係です。これは必ずしも上司あるいは本人に問題があるのではなく、単なる相性の問題であることも多いです。部下が上司にマイナスの印象を持っている場合、逆に、上司も部下にマイナスの印象を持っている場合が少なくありません。

このとき一番役に立つのは、上司のそのまた上司へ、産業医から働きかけるという方法です。上司の上司という職場全体を見渡せる立場の人を仲介役にすることで、両者を仲良くとまでいかなくても“何とかお互いを許せる程度”に調整していくのも、産業医の腕の見せ所と言えます。

最も解決が難しいのは「将来への不安」によるストレスです。これは大きく2つに分けて、この会社では自分に出世の道がないのではないかという「自分自身の将来への不安」と、勤めている会社が倒産するかも知れないといった「会社の将来性への不安」があります。

こういった問題に関して産業医が直接的に解決できることはまずありません。しかし、“そのつらさに寄り添っていく”という対応をするだけで楽になる人がいます。

より多くの手段を持つことがストレス軽減のカギ

社会人として成長していく上で、適度のストレスは必要です。しかし、大き過ぎるストレスはその人自身をつぶしてしまいかねません。その予防策として、今回は主に産業医の対応について述べましたが、他にもさまざまな対策方法があります。

自分自身のケア、上司からのケア(ラインケア)、職場内外の他の専門職によるケアなどがそれに当たります。ですがこれに関しては、また別の機会に詳しくお話ししたいと思います。

シンプルな方法ですと、同僚や家族などに愚痴を言うだけでもずいぶん違います。愚痴を言うのを苦手としている人もいますが、他人に少しでも悩みや不満を話してみると、楽になることもあります。

ストレスを軽減させる手段を多く持っている人ほど、うまくストレス発散ができているようです。ぜひ、さまざまな手段を使って、よりよい社会人生活を送りましょう。


合同会社DB-SeeD
日本医師会認定産業医 労働衛生コンサルタント
神田橋宏治

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