背景の説明が“雑務”を“業務”に変える
若手社員が在籍するセクションでは、よく「これ○○部、コピーして」などと先輩社員が若手社員に業務を命じている姿を見かける。しかし、こうした指示の仕方を繰り返すと、命じられた若手社員の中に「また、俺がコピー取りか」と“マイナスの感情”が生まれてしまうことがある。その結果、“前向きな態度”で業務に臨ませることができなくなることがあるので注意が必要だ。このような状況を避けるために大切なポイントがある。それは若手社員に命じる業務がたとえ些細な業務であったとしても、その“背景”や“趣旨”を事前に説明してから業務に取り組ませることである。たとえば、若手社員にコピーを命じる際には、単に「これ○○部、コピーして」と命じるのではなく、「この書類は○○時から使用する役員会議の資料だから、○○部コピーして」などと説明して命じるのである。
すると、「役員会議に使用する資料をコピーする」ということを理解した若手社員の心の中に、組織や業務への“参画意識”が芽生えやすくなる。何の書類かというわずかな説明があることにより、命じられた若手社員にとっては「コピーを取る意義」が明確になり、コピー取りが単なる“雑務”から“業務”に変わる。その結果、同じコピーを取るにしても、「また、俺がコピー取りか」などの“後ろ向きな感情”が生まれにくくなるのである。
さらに、「○○時から使用する役員会議の資料だから~」と“背景”を伝えることにより、コピー取りのような単純な作業に対しても、若手社員なりの創意工夫を凝らす余地が生まれるようになる。たとえば、「見やすさに配慮してコピーを取る」「乱丁、落丁を確認してから提出する」などのひと工夫が生まれやすくなるのである。
後輩指導には“2つの目的”があることを教える
また、若手社員に新入社員の教育を任せるときの指示の出し方にも十分な注意が必要である。単に「新人にこの仕事を教えるように」とだけ指示を出すと、命じられた若手社員が「忙しいのに、何で俺がやらなければいけないんだ」「私にはまだ無理なのに、新人教育を押し付けられた」などの“マイナスの感情”を持つケースが出てくるためでる。その結果、前向きな態度で後輩指導を行わせることができず、後輩指導の成果もままならないことが少なくない。このような状況を回避するためには、事前に「後輩指導の2つの目的」をよく理解させることが重要である。後輩指導の目的のひとつは業務を教わる後輩社員のスキルアップであり、もうひとつは業務を教える側である先輩社員のスキルアップである。仕事は人に教えるようになると格段に教える本人の知識・スキルが向上するものである。「仕事を教えることは、教わる側だけでなく教える側のスキルアップのために行うものであること」を事前に説明して取り組ませることにより、積極的に指導にあたるなどの“前向きな態度”を引き出すことが期待できるものである。
若手社員の典型的な退職理由のひとつに「仕事内容が面白くない」というものがある。このような話を耳にしたベテラン社員の中には「最近の若い者は我慢することを知らない」などと考える方もいるようである。しかし、ベテラン社員の業務の命じ方自体に問題があり、若手社員が“業務への参画意識”を持つことができないまま、“自分自身の成長”を実感できずに勤務継続に終止符を打つケースがあることも忘れてはならない。
若手社員に業務を命じる際には、事前に“背景”や“目的”を理解させることが重要である。“背景”や“目的”の説明を受けて業務を命じられた経験を持つ若手社員は、自身が指示を出す立場になったときにも、同様に“背景”や“目的”を説明するものである。その結果、職場の業務指示の好循環を生むことが可能になる。ぜひとも心掛けたいものだ。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)