「社長、8月末で退職させていただきます。来週からは、有給休暇を取らせていただきます。」
「そんな!急に困るよ、君・・・」

退職予定の従業員に退職日まで有給休暇をまとめて請求されて、引継ぎに困ったことはないだろうか。
特に、従業員の少ない中小零細企業にとっては、大きな問題である。
有給休暇の消化~計画的付与の活用~

夏季休暇と有給休暇

退職予定である場合、会社を退職したあとに有給休暇を与えることはできないので、申請通りに与えざるを得ない。
このような問題を発生させないためには、日頃から従業員が有給休暇を消化できる状態を作らなければならない。しかし、簡単に解決する問題ではないだろう。現に、有給休暇取得率は全国平均で50%(業種によっては約30%)ほどしかない。
以下では、有給休暇消化の方法の一つとして、「夏季休暇に有給休暇をあてる」方法を見ていくことにする。

まずは、夏季休暇と有給休暇の違いについてであるが、
夏季休暇は、一般的には会社が法定休日とは別に指定する休日であり、「会社が決めた労働免除日」という位置づけになる。一方、有給休暇は、従業員からの申請によって発生するもので、従業員が自ら、労働日を指定して取得するものとなる。

言い換えれば、有給休暇取得日とは「実際は労働日だが、申請により労働の免除された日」となる。
本来、有給休暇は従業員が指定する時期に取得する権利(時期指定権)を有している。
有給休暇は従業員のリフレッシュのために設けられている制度であり、会社が一方的に有給休暇の取得日を決定することはできない。
原則として、従業員の申請により取得させる必要がある。


■有給休暇の計画的付与
しかし、会社ごとの事情により、有給休暇を取りやすい時期と取りにくい時期がある。
そのため、会社と従業員が協定を結ぶことで、有給休暇をあらかじめ決めた時期に指定することができる。
これを『年次有給休暇の計画的付与制度』という。
この仕組みを使えば、夏季休暇時期に有給休暇をまとめて取得させることが可能となる。

実際に計画的付与を行う際、従業員の過半数で組織する労働組合または従業員の過半数を代表する者との間で、書面による協定を締結する。
労使協定で定める項目は次のとおりだ。

①計画的付与の対象者(あるいは対象から除く者)
②対象となる年次有給休暇休暇の日数
③計画的付与の具体的な方法
④対象となる年次有給休暇休暇を持たない者の扱い
⑤計画的付与日の変更


ただし、計画的付与として消化させることができるのは、従業員が持っている有給休暇の内、5日を超える日数分のみである。

おわりに

夏季休暇が1週間の会社であれば、5日は有給休暇とすることができるだろう。さらに冬期休暇も計画的付与とすれば、年間で10日近くの有給休暇消化が可能となる。

但し、会社の「所定休日」として夏季休暇を与えていたものを廃止した場合、年間休日数は変わらないものの、厳密に言えば、「所定の休日が減った」ことになる。従業員からすれば、労働条件が不利益に変更されたと見えなくもない。

しっかりと従業員の合意を取り、後のトラブルにならないように導入しなければならない。


社会保険労務士たきもと事務所
代表 瀧本 旭

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