非正規雇用の従業員は、正社員に比べて労働者としての権利が弱いように思われがちだが、実際には労働基準法以外に、パートタイム労働法や労働契約法などで守られており、正社員の雇用管理とは、また別の注意が必要な部分も多い。

本稿では、契約期間に定めのある有期雇用契約の従業員について、労務管理上のNG行為を見てみたい。
有期雇用契約5つのNG

【NGその①】契約期間の途中で解雇する
契約期間を定めて雇用している場合、その期間が終わるまでは、やむを得ない事情がなければ、会社の側からも、労働者の側からも、契約を解除することはできない。

会社側からの契約解除は解雇ということになるが、解雇を言い渡してトラブルになった場合、いわゆる正社員の解雇よりも、会社側に厳しく判断される。
能力不足や勤務状況が悪いなどの理由では、まず解雇できないと考えておいたほうがよい。

【NGその②】何度も自動的に契約更新している
これは、ふたつの面から問題である。

ひとつは、雇止めに解雇と同じような規制がかかること。
有期契約であるから、契約期間が終わればいつでも後腐れなくサヨナラできると考え、そのために短い契約期間を何度も更新している場合は、要注意だ。

ほとんど自動的にずるずると契約が反復更新されていたり、「次もまた更新されるだろう」という期待を有期契約社員が持って当然のような状態であれば、雇止めであっても、通常の解雇のときと同じく、理由の合理性や社会的相当性が問われることになる。

もうひとつは、労働契約法に定められた、無期転換の問題である。
平成25年4月以降に締結された有期雇用契約が更新され、契約期間が通算して5年を超えることになった場合、現に締結している契約期間中に労働者が「無期転換」を申し込めば、次の契約期間からは無期契約になるというものである。

たとえば、25年4月に締結した契約の期間が3年の場合、今年の3月末に契約更新時期を迎えたはずだ。そのときに、同じく3年の契約を結ぶと、この契約期間中に5年を超えることになるので、労働者は無期転換の申し込みができるのである。

無期転換しても差し支えないのであればよいが、そうでなければ、無期転換に関する条件を頭に入れて、契約を更新するかどうかを検討する必要がある。

【NGその③】雇用保険、社会保険に加入させない
雇用保険に関しては、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがあれば、加入させることになっている。
社会保険に関しては、契約期間が2ヶ月以上であれば、強制適用である。
マイナンバー制度がはじまり、社会保険の未加入は摘発されやすくなっている。

【NGその④】就業規則が、正社員用の1種類しかない
これは、有期契約に限らず、非正規従業員を雇用している場合、共通する注意点だ。
正社員以外については、雇用契約書などで労働条件を定めているからだいじょうぶ、と思っていても、実はそうではない。

労働契約法第12条を見ると、次のようになっている。
「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」

雇用契約書にある労働条件よりも、就業規則の条件のほうが労働者に有利な場合、就業規則の条件のほうが適用されてしまうのである。

【NGその⑤】産休、育休、介護休業などは最初から対象外としている
産前産後の休業については、労働基準法に定めがあり、すべての労働者が対象になっている。また、男女雇用機会均等法で、妊娠・出産を理由とする不利益な取扱をしてはならないと定めている。

妊娠が分かる前は、契約更新を前提として働いていたのに、妊娠したからといって、契約期間の終了とともに雇止めしようとすると、「不利益な取扱」ということになり、違法である。

とくに、マタハラが問題になっている現在、厚生労働省から通達が出ており、妊娠・出産などから1年以内に不利益取扱があれば、自動的に違法とされ、違法ではないという証明は会社の側でしなくてはならない。

また、育児休業、介護休業については、次の条件を満たす場合は、有期契約労働者にも取得させなくてはならない。
・同じ会社で1年以上継続して働いている。
・(育児休業の場合)子が1歳になった日後も、引き続き働くことが確実である。
・(介護休業の場合)介護休業の開始予定日から93日後も引き続き働くことが確実であること。


仕事自体はずっと続いている場合、雇用する労働者を有期契約にしていても、「いつでも雇止めできる」というメリットは、事実上なくなっている。毎回1回きりの更新で新しい従業員を雇うという考え方もあるが、人手不足の現在では、あまり現実的ではない。

ほんとうに契約期間の定めが必要なのか、その点から考えて見るべきだろう。
メンタルサポートろうむ代表
社会保険労務士/産業カウンセラー/セクハラ・パワハラ防止コンサルタント
李怜香(り れいか)

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