株式会社パーソル総合研究所は2023年6月27日、「男性育休に関する定量調査」の結果を発表した。企業調査の実施期間は2023年1月17日~20日で、全国の20~60代の正社員と会社経営者および会社役員(経営・経営企画、総務・人事の主任・係長相当以上)の1,162名にスクリーニング調査を行い、うち800名から本調査への回答を得た。従業員調査の実施期間は2023年1月20日~2月6日で、従業員規模51人以上の企業(第一次産業・国家/地方公務除く)に勤める20~50代の正社員(代表取締役・社長を除く)のうち男性育休取得者500名と、女性育休取得者500名、上司550名、同僚1,600名より回答を得ている。今回は調査結果の前編として、企業における男性の中長期育休取得率の実態や課題などを伝える。

【男性育休定量調査・前編】人事は「職場の負担増」、個人は「同僚への迷惑」を懸念か。中長期取得における男性育休特有の課題とは

中長期の育休取得者がいる割合は「取得率20~50%未満」の企業を頂点に逆U字カーブ

2023年4月、従業員1,000名を超える企業において、男性育休取得率の開示が義務化された。政府主導で男性の育休取得が進められているが、企業が男性の育休取得を推進するにあたっては、どのような課題があるのだろうか。

まずパーソル総合研究所は、人事・経営層全体(1,162名)を対象として、男性育休(産前・産後休業や育児休業および企業独自の特別休暇や有給休暇も含む)取得率ごとに、「1ヵ月以上の中長期取得者がいる企業の割合」を調べた。すると、「育休取得率1~5%未満」が37.1%、「5~20%未満」が48%、「20~50%未満」が60.6%、「50~80%未満」が53.8%、「80%以上」が36.8%だった。

「20~50%未満」を頂点として、逆U字カーブを描くように割合は推移し、「取得率80%以上の企業で、かつ長期取得者がいる」とした割合は、4割未満にとどまった。この結果により、育休取得率が高いほど、中長期の取得率の高さにつながるわけではないことがわかった。
取得率ごとの1ヵ月以上の中長期取得者がいる企業の割合

育休取得率5%未満の企業は「全社方針の発信」や「取得勧奨」実施率が低い傾向に

続いて同社は、人事・経営層を対象に、育休取得率ごとの「男性育休施策の実施率」を調べた。すると、「全社方針の発信」の実施率は、取得率5%以上の企業ではそれぞれ5割以上となった一方で、「取得率5%未満」の企業は「取得率5~20%」の企業より22.3ポイント低い35.5%、「取得率0%」の企業は「取得率5%未満」の企業より15.3ポイント低い20.2%だとわかった。

また、「対象者への取得推奨」の実施率を見ると、「取得率5~80%未満」の企業で5割以上、「取得率80%以上」の企業で4割以上だった一方で、「取得率5%未満」の企業は「取得率5~20%」の企業より18.5ポイント低い39.3%、「取得率0%」の企業は「取得率5%未満」の企業より18.5ポイント低い20.8%、「取得率5%未満」の企業は「取得率5~20%」の企業より18.5ポイント低い39.3%だとわかった。取得率5%未満の企業では、男性育休に関する施策の実施率が低い実態が明らかとなった。
育休取得率ごとの男性育休施策の実施率

男性育休の人事課題は「不在時の対応」。男性特有の課題は「事例や希望の少なさ」

次いで同社が、人事・経営層(800名)を対象に「男性育休を推進する上での企業の人事課題」を調べたところ、「仕事の穴埋め方法」、「取得者が出た職場の負担増大」、「仕事をカバーした社員の評価・処遇」といった“不在時の対応”が上位だった。

男性で懸念が大きい上位10項目のうち、男女差が特に大きかったのは、「取得事例の乏しさ」(17.4ポイント)、「取得希望者の少なさ」(16.5ポイント)、「長期での取得希望者が少ない」(16.1ポイント)、「周囲のメンバーの理解不足」(10.6ポイント)、「取得社が出た職場の負担増大」(6.5ポイント)だった。男性育休の課題として、特に取得事例や取得希望者の少なさ、周囲のメンバーの理解不足があることがわかった。
男性育休を推進する上での企業の人事課題

個人の懸念点は「同僚への迷惑」や「育休中の収入減少」。女性との差は?

次に、子どもがいない20~40代の男性(351名)に対し、「男性が育休を取得する上で懸念していること」を同社が質問すると、「同僚への迷惑」や「育休中の収入の減少」、「仕事能力やポジションといった中長期的キャリアへの影響」が上位であることがわかった。

あわせて、男性で懸念が大きい上位10項目のうち、女性(578名)と比べて男女差が特に大きいものを見ると、「上司がいい顔をしない」が7.9ポイント、「自社に制度があるかわからない」が7.2ポイント、「上司に迷惑がかかる」と「顧客に迷惑がかかる」が同率の6.6ポイントだった。男性は特に、自社の制度の有無や上司・顧客への迷惑について懸念していることがうかがえる。
男性が育休を取得する上で懸念していること

「育休をとってほしい」と考える上司・同僚の割合は長期間では少なくなる傾向に

さらに、子どもがいない20~40代男性(351名)に「本人が感じている育休のとりやすい期間」、男性上司(400名)に「男性部下に育休を取ってほしい期間」、同僚(1,600名)に「同僚男性に育休をとってほしい期間」をそれぞれ質問したところ、「数日間」は本人が50.4%、上司が68.5%、同僚が70.4%、「1ヵ月」は本人が24.2%、上司が49.3%、同僚が59%、「3ヵ月」は本人が12.8%、上司が31%、同僚が45.9%、「1年」は本人が5.1%、上司が23%、同僚が35.5%だった。それぞれ期間が長くなるほど、部下や同僚に育休をとってほしいと考える上司・同僚は少なくなることが見て取れた。
本人が感じている育休のとりやすい期間と上司・同僚の態度

中長期取得へのネガティブ要因は「男性優遇」、「定期異動」、「短時間での成果創出」

最後に、同社は「中長期の育休の取りやすさ」に影響する要因を調査した。すると、「男性優遇」、「定期異動」、「短時間での成果創出」の要因が、中長期の育休の取りにくさに強く影響していることがわかった。一方で、「労働時間の限定性」、「勤務場所の柔軟性」、「役割の明確性」は、取りやすさに好影響を与えていることが明らかとなった。
中長期の育休の取りやすさに影響する要因
本調査の結果、「1ヵ月以上の中長期取得者がいる割合」が「育休取得率の高さ」と比例しないことや、取得に関する企業課題には「取得事例の少なさ」や「周囲の理解不足」があることがわかった。男性育休の推進を目指す企業では、社内制度を整備するとともに、制度を社員に周知・徹底するなど取得しやすい環境の整備も重要となるだろう。

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