「職務成果」や「ワークエンゲージメント」などにおいてプロアクティブ人材のスコア高
人的資本経営が注目される現在、従業員一人ひとりが自律的なキャリア形成を行えるようサポートを行う企業も増加傾向にある。そうした中、キャリア構築を目指し自発的に行動する「プロアクティブ人材」は、企業にどのような影響を与えるのだろうか。なお日本総研とアビームコンサルティングでは、「プロアクティブ行動」の構成概念を、キャリアを自ら築いていくための自律的なカテゴリーとなる「革新行動」、「外部ネットワーク探求行動」、「組織化行動」、「キャリア開発行動」の4つとしている。本調査では、これらのプロアクティブ行動の実践度合いを5段階で測定し、数字が大きいほど「プロアクティブ度」が高いと定義した。このプロアクティブ度が4.0以上の人を「プロアクティブ人材」、2.0以下の人を「非プロアクティブ人材」として調査を行った。
はじめに同社は、プロアクティブ人材が企業にとって有益な人材であるかを分析するべく、「プロアクティブ度」と「アウトカム(社会や業績に与える影響)」の関係性を調べた。アウトカムの3つの要素として、組織内における自身の評価を示す「職務成果」、自身のキャリアの実現度合いを示す「自己実現」、仕事に対する意欲・熱意などを示す「ワークエンゲージメント」について、それぞれプロアクティブ人材および非プロアクティブ人材ごとに数値の調査を行った。
すると、「職務成果」はプロアクティブ人材が4.02であるのに対し、非プロアクティブ人材は2.28、「自己実現」は4.01に対し1.93、「ワークエンゲージメント」は4.03に対し1.7と、3要素全てにおいて、プロアクティブ人材のほうが非プロアクティブ人材の2倍程度の数値を示した。プロアクティブ度の高さがアウトカムの高さに直結することが認められる結果となったことから、プロアクティブ人材の育成自体が企業価値向上につながるといえる。
プロアクティブ度は年代によって変化か。40代が最も低い傾向に
次に同社は、プロアクティブ度について年齢別および男女別の違いを調査した。その結果、プロアクティブ度は20代から40代に向けて降下しており、その後60代に向かって持ち直していく傾向があることが明らかとなった。特に、業務において中核的な存在であることが多い40代は、「男性」が2.88、「女性」が2.89と最も低い結果となった。また、20代からの低下幅を男女で比べると、「男性」が3.06から0.18ポイント、「女性」が2.94から0.05ポイント減少した。女性より男性のほうが、プロアクティブ度に大きな差があることがわかる。
これに対し同社は、「入社当初はプロアクティブだった人材が年齢を重ねるにつれて非プロアクティブな人材に変容することを示す」としており、「プロアクティブの減少に直面しているミドル層に対していかにプロアクティブ度を維持・向上させていくかが、今後の重要な経営課題の一つになるのではないか」との見解を示している。
プロアクティブ度の高さが「定着率」にも影響することが明らかに
続いて同社は、「転職回数」を尋ね、プロアクティブ人材と非プロアクティブ人材で比較した。その結果、「転職回数が0回」とした人は、プロアクティブ人材で47.2%、非プロアクティブ人材で40.7%だった。対して、「転職回数が4回以上」とした人は、プロアクティブ人材で7.3%、非プロアクティブ人材で9.5%となった。このことから、非プロアクティブ人材よりもプロアクティブ人材の方が、定着率が高いことが明らかとなった。この結果を受け、同社では「プロアクティブ度の向上施策を打っても人材の流出にはつながらず、むしろ企業価値の向上に貢献するのではないか」と推察している。
“やりがいのある職務”ほどプロアクティブ行動は活発化
最後に同社は、「プロアクティブ度は環境によって変化する可能性があるのか」を、サポートがありチャレンジを認めてくれる職場であることを示す「職場特性」と、裁量がありやりがいのある職務であることを示す「職務特性」という観点から調査した。なお、職場・職務に関する各質問項目を5段階尺度で尋ね、その平均数が4.0以上の人を職場特性・職務特性が「高い人」、平均値が1.0以下の人を「低い人」と定義している。その結果、「職場特性」においては、職場特性・職務特性の点数が「高い人」が3.57、「低い人」が2.14となった、また、「職務特性」においても、同点数が「高い人」が3.59、「低い人」が1.98だった。チャレンジを認めてくれる環境や、やりがいのある職務であるほど、従業員のプロアクティブ度は高くなることが判明した。