最近の副業事情はどうなっているのか
厚生労働省は平成30年1月、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日)を元に、副業・兼業についてのガイドラインを作成した。そして、企業も働く人も安心して副業・兼業を行うことができるようルールを明確化するため、上記の通り今年9月に本ガイドラインを改定している。コロナ禍でテレワークが浸透して会社員の働き方に対する意識が変わってきたことや、企業の業績悪化の影響などもあり、多くの企業において副業を解禁する動きが活発になってきている。
では、企業にとっての「副業のメリット/デメリット」には、どのようなものがあるのか。具体的には、以下の点があげられる。
【メリット】
(1)労働者の知識・スキルの向上
(2)労働者の自律性・自主性の促進
(3)優秀な人材の獲得・流出の防止
(4)事業機会の拡大
(5)経費削減
【デメリット】
(1)労働時間管理の負担
(2)過重労働の懸念
(3)情報漏えいの懸念
(4)本業への支障の懸念
(5)人材流出
労働時間管理については、「労働基準法」第38条第1項において、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されている。この「事業場を異にする場合」とは、事業主を異にする場合も含む(昭和23年5月14日基発第769号)。
労働時間は、自社のみならず社外での勤務についても管理が必要となるので、煩雑なイメージがある。実際、副業については「労働時間の通算が不要な、個人事業主といった非雇用形態での副業」で、さらに「健康上の問題が生じない就業時間の範囲内」でのみ許可する企業が多かった。
例えば、全日本空輸株式会社(ANA)の場合、これまでは家庭教師といった個人事業主について副業を認めていた。しかし、今後は副業範囲を広げて、他社とも雇用契約を結べるようにする方針を固めた。
副業を解禁するメリットはさまざまだ。コロナ禍による業績悪化の影響もあり、従業員の副業を認める企業はさらに増えるだろう。
企業として必要な実務上の対応について
それでは、社員に副業を認める場合、企業としてどのような対応が必要だろうか。1.就業規則の改定について
まずは、自社の「就業規則」を確認してほしい。おそらく副業を「全面的に禁止している」か、「事前許可制としている」場合がほとんどだと思われる。それぞれのパターンで、就業規則の改定について確認していきたい。
(1)副業を全面的に禁止している場合
基本的に副業を認めるか否かは、企業側が自由に決定できる。しかし、過去の裁判例によると、企業機密が漏えいしたり、企業の信用を害したりするといった「副業を禁止するのに合理的な理由」がない場合は、規則で副業を禁止していたとしても認められない可能性がある。
よって、次のように不許可事由を具体的に列挙し、「許可制」へと変更することを検討したい。
(2)副業を「事前許可制」にしている場合
厚生労働省が以前発表した「モデル就業規則」では、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」として副業を原則的に禁止していた。しかし、平成31年の「モデル就業規則」の改定では、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」と修正され、「副業は従業員の権利である」という定め方をしている。
この改定にしたがって、企業も同様の規定を設ける必要があるか、ということについて考えてみよう。企業としては、自社の経営や業務に支障のない範囲で副業を認めるべきである。したがって、改定については「各社の判断による」といえるが、副業で生じる経営・業務への支障を考えると、「許可制」という流れは必然だろう。よって、企業は事前許可制を継続しつつ、不許可事由についても再度検討し、具体的に規定を定める必要がある。
2.副業許可申請書等の見直しについて
上記「1」の(2)によって副業を「許可制」とした場合、「許可申請書」といった書類提出を求める場合が一般的だ。内容については、以下の項目が網羅されていると、実務上も対応がスムーズである。
・副業の形態(非雇用か、雇用か)
・副業先の情報(企業名、電話番号等)
・業務内容
・勤務場所
・勤務期間
・就労日・時間帯
また、就業規則の不許可事由や誓約事項も記載し、「誓約書」を兼ねる形にすることなども、情報漏えいといった懸念事項対策に有効である。
3.副業後の対応
副業を解禁した後も、企業は労働時間や健康管理などの対応が必要である。
(1)労働時間の管理について
自社の社員が副業先で雇用される場合、「労働時間の通算」が必要である。自社が後から労働契約をした場合は、たとえ自社で時間外労働がなくても「割増賃金」が発生する可能性もあるので注意が必要だ。そうでない場合でも、「副業先での労働時間数の把握」は必要である。
また、副業先との労働時間の通算で規制される個人の時間外労働の上限は、自社と副業先が従業員とどのような「36協定」を結んでいるかに関わらず、「単月で100時間未満、複数月平均80時間以内」となる。ガイドラインにおいて詳しく説明されているので、一度確認しておきたい。
(2)健康管理について
「時間管理」とあわせて「健康管理」も必要となってくる。副業をする社員には、定期的に自らの健康状態を報告させることも検討したい。
(3)採用時の確認について
採用後に社員が副業していることが発覚してトラブルとならないよう、今後は採用時に副業先の有無についての確認が必要といえる。
Withコロナ/Afterコロナの時代において、企業として副業解禁は避けられない課題かもしれない。この機会にぜひ検討していただきたい。