店主「今夜は徹夜だぞ!」
弟子「はい!深夜手当は出ますよね!」
店主「馬鹿野郎、そんなもんあるか。」
弟子「しかし労働基準法(以下労基法)では……」
店主「あのな、労基法ってのはウチみたいな個人事業には関係ないんだよ!」
弟子「そうだったんですか!」
店主「さあ、わかったら仕事だ!」
弟子「はい!」
よってこのラーメン店の弟子は労基法上の労働者であり、深夜割増の賃金(深夜手当)が支払われることになる。(労基法37条4項)
労基法上の労働者であれば、労基法の保護受ける。一方、労基法上の使用者であれば、労基法を守る義務が生じ、違反した場合は処罰の対象となる。このため、労働者と使用者の定義を理解することは大切である。
しかしながら、前述のような労働者の定義については割と良く知られているものの、使用者の定義のほうは今一つ知られていないようである。一般的には「社長」のことだと思われているが、実は労基法の定める使用者の範囲はもっと広い。以下、労基法上の使用者の定義について、見ていきたいと思う。
労基法上の使用者(以下単に使用者)には次の3種類がある。(労基法10条)
(1)事業主
会社その他法人組織の場合はその法人そのものを指す。個人事業においては、事業主個人である。よって、上記ラーメン店の店主は使用者として労基法を守る義務があることになる。
(2)事業の経営担当者
法人の代表者や取締役などである。一般的な使用者のイメージはこれだろう。
(3)事業主のために行為をするすべての者
労働条件の決定や労務管理の実施などに関して、一定の権限を持っている人のことである。部長、課長など中間管理職がこれに該当すると考えられる。
ここで注目したいのは、(3)である。
これによると、一定の人事権を持つ上司は全て使用者ということになる。もし、あなたに部長、課長といった肩書が無かったとしても、単なる「責任者」であったとしても、従業員のシフト管理などをしていて、出退勤の命令権があったとしたら、立派な「使用者」である。
「何かあったとしても、罰せられるのは社長などずっと上の役職の人だろう」などと思っていないだろうか。だとしたらそれは大間違いで、あなた自身の両手が後ろに回る可能性だって十分にあるのである。これは知っておくべきポイントだろう。
なお、たとえ部長などの肩書きがあったとしても、一定の人事権を持たなければ、使用者とはならない点も付け加えておきたい。(S22.9.13基発第17号)つまり、実態で判断するということである。
最後に、「両罰規定」についても押さえておきたい。
前述の通り、労基法では一定の人事権があれば使用者となり、労基法上の責任を問われる訳であるが、そのとき、社長など経営トップの責任はどうなるのか、ということが問題になる。
この場合、もちろん社長も罰せられる。(労基法121条1項ただし書)
「すべて、部下が勝手にやったことです。」
と、トカゲのしっぽ切りをして逃げることはできない。
労基法に言われるまでもなく、コンプライアンスの問題は、経営トップが率先して取り組まなければならない問題であると言えるだろう。
出岡社会保険労務士事務所 出岡 健太郎