新卒入社した若手が早期離職すると、「最近の若者は根性がないから、すぐに会社を辞める」と嘆いたり、「ゆとり教育が若者を甘やかしたからだ」などと結論付けてしまっていたりする声がある。果たして「最近の若者」に原因があるのだろうか?若者の早期退職原因をデータと照らし合わせながら解説し、効果的な対処方法をお教えする。
上司の褒め方ひとつで部下は8割残る?

あなたは、部下をよく褒めますか?

退職者に辞めた理由を尋ねると、「自分の成長が感じられない」とか「評価が平等でない」、「やりがいが感じられない」などと返事が返ってくる。(出典:エン・ジャパン「退職のきっかけ」2019年)
上司の褒め方ひとつで部下は8割残る?
しかし、じっくりと彼らの話を聞いてみると、表向きの理由の背後に隠れた本音が伝わってくる。「自分では精一杯やっているつもりなのに誰も評価してくれない」とか、「せっかくいろいろな提案をしても相手にしてもらえない」と言ったことに真剣に悩み、それが自分と会社との距離を遠ざけてしまっているのだ。「自分は何をやってもダメだ」と投げやりな言葉を口にする者もいる。周囲から認めてもらえなかったので会社を辞めたと答えることは、自分の弱さ、みじめさをさらすことになる。だからアンケートには表向きの理由しか書かないのである。要するに、彼らは他人からの承認が得られず自分自身の存在意義も見い出せないので、孤独感、無力感に苛まれ、やがてドロップアウトしていくのである。

上司が褒めることにより部下の離職は果たして減るのか?

仕事をしている20~40代の会社員男女100人に対し「仕事の成果を誰に褒められると一番嬉しいか?」の調査結果では、1位:上司40%、2位:お客様23%、3位:同僚11%と、自分の身の回りにいる人から褒められるのが一番うれしいと言っている。

仕事を良く分かってくれている存在に褒められるからこそ、自分が認められた、成長できたと感じることで承認欲求の高まりを実感できるのである。このように、上司や会社に関係する存在から褒められ、認められることが重要だということが読みとれる。(出典:マックスプロデュース)
上司の褒め方ひとつで部下は8割残る?

本当に「褒める」と部下の離職が減るのか?

次に20~60代の600人を対象に行った調査では、約61%の部下が、上司に理解されていると仕事のパフォーマンスが上がると言っている。また、20代に限れば約80%にものぼり、若者ほど承認欲求が高いことがわかる。(出典:カオナビHRテクノロジー総研)
上司の褒め方ひとつで部下は8割残る?
このように職場に満足をしている部下が離職することはまず考え難いことから、褒める(理解する)ことによって、部下の定着につながることは明らかである。上司が褒めることで「上司から理解されている」と部下に感じさせることが、とても重要だということがお分かりいただけたと思う。まさに、部下の承認欲求を満たす取り組みを行うことこそが、辞めさせない一番の近道なのである。では、上司がどのように褒めると効果的に部下の承認欲求を高め、離職を防ぐことができるのだろうか?

1.「褒める」効果を知る

相手を褒めることには、相手から好意に思ってもらえる力がある。これは人が持つ心理「好意の返報性」から来るものだ。例えば、女性から男性に好きという気持ちが伝わると、男性も「あれ、彼女って俺に気があるのかも」と勘違いして、そのまま好きになったりすることが好意の返報性である。それと同様に部下の良いところを褒めることは、上司から部下へ好意を示すことになり、褒められた部下は上司から「信頼されているかも」と思い、上司のことを好意的にみることになる。また、この好意こそが部下の承認欲求を満たすことにもなるのである。

2.部下の離職を防ぐ、3つのポイント!

部下を褒めたくてもどのように褒めればいいのかがわからないと話す上司が多い。そんな上司は、得てして部下のことを「見ていない」「さほど関心がない」ことが多い。
そんな上司の方には、次の3ポイントの実践をお勧めする。

<ポイント1/1日1回、声掛けをする>

3分でいいから1日1回ヒアリングすることをお勧めする。「調子はどうだ?」「うまく進んでいるか?」などと、ちょっとした声掛けレベルでも部下は「見てくれている」「気にかけてくれている」と思え、安心感が芽生えるからである。また、上司としては部下の価値観や考え方を理解することにもなるからだ。実際に上司とのヒアリングを定期的におこなうと、定着率が良くなるとの調査結果も出ている。参考にしてほしい。
上司の褒め方ひとつで部下は8割残る?
<ポイント2/部下の行動を観察する>

部下のことを褒めるためには、まず部下が1日どんな行動をしていたのかを観察し記録することが重要だ。また、1日1件、それも1行で簡単に記録するだけでいい。「○○君、企画書の提出が早くて良い」これで十分。記録にかかる時間は1分もかからない。すごく簡単である。しかし、毎日つけることが大切でもある。毎日付け続けることが、部下を理解することにつながり1か月も記録しつづければ、部下を褒めるべき望ましい行動が見えてくるようになる。そうなれば、褒め言葉を部下へ掛けることも自然とできるようになるからだ。

<ポイント3/部下の望ましい行動を褒める>

褒めると言っても「今日は髪形がキマッてるね」とか「ファッションセンスいいね」などと、仕事とは関係のないことや精神的なことを褒めてはダメだ。お世辞だと思われ逆効果にしかならない。褒めるべきところは、部下の仕事における「望ましい行動」に対してである。例えば、部下が「お客様との打ち合わせ前に不明な点などを電話にて確認していた」場合には、「お客様への確認が適切で良かった」と具体的な行動を褒めるのである。決して「近頃、やる気があっていいじゃないか」などと、部下の精神面を褒めてはならない。このように「3つのポイント」を続けるだけで、適切な褒め言葉を部下にかけることが上手くなり、部下との信頼関係が築け、働きやすい職場だとも感じてもらえることで、離職する部下を無くすことにつながるのである。

このように「褒めること」を意識すると、上司と部下、社員同士でのコミュニケーションが向上し、社員の定着に寄与することは事実である。みなさんも部下の望ましい行動に気づいたときは、「いいね」「さすがだね」と一声かけるところから、始めてみるのはいかがでしょうか。


佐野浩之
採用に強い ひと・しくみ研究所
社会保険労務士
http://www.hitoshikumi.com/

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