「特別条項の3つの条件」への対応が鍵に
「時間外労働の上限規制」の特別条項では、次の3つの上限時間をすべて満たすことが求められる。(2)時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
(3)時間外労働と休日労働の合計について、複数月の平均が1ヵ月当たり80時間以内
そのため、本規制に対応するための最大のキーポイントは、「特別条項の3つの上限時間」にどのように対応するかになる。
上記の定めを見ると、(2)と(3)はいずれも1ヵ月の上限を示している。そのため、より上限時間が少ない(3)の基準を踏まえ、1ヵ月の時間外労働を「80時間以内」となるように社員の労働時間管理をおこなえばよいように思える。しかしながら、「80時間以内」を基準に管理しても労働基準法に違反するケースがあるので、注意が必要である。
「80時間以内」で時間外労働を管理すると失敗することも
前回(第2回)紹介した【事例2】のケースで考えてみよう。実は、この事例は1ヵ月の時間外労働を「80時間以内」になるように管理した企業の一例だ。そのため、「時間外労働時間」の欄を見ると、すべての月が「80時間以内」に収まっている。その結果、時間外労働と休日労働を合わせた「合計A」欄は、すべての奇数月で「80時間以内」になった。
このケースについて、「特別条項の3つの条件」を満たしているかを確認してみよう。まず、特別条項の(2)「時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満」は、「合計A」欄を見れば満たしていることがわかる。また、特別条項の(3)「時間外労働と休日労働の合計について、複数月の平均が1ヵ月当たり80時間以内」についても、特別条項の対象月が隔月のため、隣接するなどの複数月の平均をとっても80時間を超えることはない。
ところが、1年間の時間外労働時間の合計は「合計B」欄にあるとおり「730時間」であり、特別条項の(1)「時間外労働が年720時間以内」の条件を満たしていない。つまり、本ケースは1ヵ月の時間外労働を「80時間以内」に収まるように管理しているにもかかわらず、法違反の状態となる。
時間外労働は1ヵ月「75時間以内」を原則に管理する
1ヵ月当たり「45時間」の時間外労働を6ヵ月行うと、時間外労働の合計は270時間(=45時間×6ヵ月)になる。このケースで1年間のうちの残りの6ヵ月を特別条項の対象月とする場合、特別条項の(1)「時間外労働が年720時間以内」の条件をクリアするには、残り6ヵ月の時間外労働の合計は450時間(=720時間-270時間)以内でなければならない。残り6ヵ月の時間外労働を450時間以内にするには、その間の1ヵ月当たりの時間外労働の平均を75時間(=450時間÷6ヵ月)以内にする必要がある。そのため、1ヵ月の時間外労働を「80時間以内」を原則として管理したのでは、年間の時間外労働が720時間の上限を超えてしまうケースも出るわけである。
以上のとおり、時間外労働は1ヵ月当たり「75時間以内」を原則として管理することで、法違反が起こりづらくなる。これが「時間外労働の上限規制」に対応するための、実務上の大きなポイントとなる。
「法定休日」を明確化する
また、「時間外労働の上限規制」では、会社が定めた休日に社員を働かせる場合に、その労働が「休日労働と時間外労働のどちらに該当するのか」も重要になる。休日に社員を働かせても、すべて休日労働になるわけではないからである。「労働基準法」では原則として、会社は社員に対して毎週少なくとも1日の休日を与えなければならないと定めている。この“週に1日の休日”のことを「法定休日」といい、その日に労働させることを「休日労働」という。
例えば、毎週土曜日と日曜日を休日と定めている会社の場合、土曜日と日曜日のいずれか1日が「労働基準法上」の「法定休日」に該当し、もう一方は該当しない。仮に、このケースで日曜日を「法定休日」と定めている場合には、土曜日に社員を働かせても「法定休日」に労働させたわけではないので、休日労働には当たらない。ただし、月曜日から土曜日までに労働した時間の合計が40時間を超えた場合に、超えた時間を時間外労働としてカウントする必要がある。
このように、会社が定めた休日に社員を働かせる場合には、その日が「法定休日」か否かにより、休日労働と時間外労働のいずれに該当するのか、結果が異なることになる。そのため、「時間外労働の上限規制」への対応を適切におこなうには、「法定休日」がいつなのかを明確にすることは実務上の大きなポイントといえる。
各社とも、「時間外労働の上限規制」の定めと趣旨をよく理解し、適切な対応を心掛けていただきたい。
大須賀信敬 コンサルティングハウス プライオ 代表
組織人事コンサルタント・中小企業診断士・特定社会保険労務士
https://www.ch-plyo.net