メンタルヘルス不調は業務内・業務外要因の相乗作用によって起こる
従業員の、性格傾向や私傷病などの「個体側要因」、離婚や借金などの業務外要因、同僚との軋轢や配置転換など単体では「業務上」と認定されないが心理的負荷を生じさせる職場での要因、これらが相乗作用を引き起こしてメンタルヘルスの不調を発生させることがあると先ほど述べた。現状、こういった要因で生じたメンタルヘルス不調に起因する降格や解雇、職場復帰時の減給や退職をめぐる裁判が増えている。裁判までにはいたらなくても、職場では、業務内にて精神障害の労災認定を満たす基準の「強度III」の心理的負荷よりも、単体では労災認定されない「強度II」以下のケースを扱うことが多いと思われる。ストレス「強度II」でも、メンタルヘルス不調者にとってはストレス要因となることから、企業の対応は難しいものとなる。
裁判にいたってしまった例から傾向に鑑みると、「業務外要因は企業側に原因がない」とか、「<強度II>以下の業務による出来事やストレス要因は労災認定されないから問題ない」といった楽観視は許されない。「労働契約法」第5条が定める「安全配慮義務」は、労働者の就労場所や業務内容だけでなく、年齢や健康状態などの個人的な事情も踏まえて具体的に決まるので、特定の労働者に対して企業が負う義務は状況によって変化するものなのだ。過重労働に従事させていなくても、健康状態の悪化を認識できるならば(現に認識している必要はない)、その悪化を回避・軽減するための安全配慮義務は発生するのである。
例えば、アスペルガー症候群が疑われる労働者に対してパフォーマンスが低下したことを理由に業務改善プラン(PIP)を実施したり、うつ病により休職した労働者が職場復帰する際に配置転換したりする場合、こういった企業の対応が心理的負荷要因となって疾病が増悪して労働者間トラブルが発生して裁判にまでいたってしまったケースが実際にある。PIPや配転自体が直ちに安全配慮義務違反と評価される、とはいえないものの、具体的状況によっては同義務違反となり、労働トラブルに発展するリスクがあるのだ。
それでは、企業の人事労務管理スタッフは、こういったケースにどのように対応すればよいのだろうか。