“役職の上がり方”と“精神的ストレスのかかり方”は、間違いなく正比例します。役職が上がるほど、そして責任が重くなるほど、累進的・乗数的にストレス負荷のかかり方は増大していくのです。では、なぜ社長になる人は、次から次へと襲いかかるストレス攻撃に対して平気でいられるのでしょうか? それには「ものの捉え方」の違いが関係しています。今回は、実践できる「ストレスフルな出来事の中和方法」を紹介します。
第30回:“デキる経営者”はなぜストレスに強いのか? 『ABC理論』から学ぶ、成果を出すためのポジティブな思考法

「競合コンペで負けた」ことを、どう捉えるか?

例えば私たちが、競合コンペに参加して負けてしまった場合、「失注してしまった…失敗だ」と考え、落ち込んでしまうこともあるでしょう。しかし人によっては、「競合コンペで負けた」→「残念だけど、なぜ負けたかを分析して次のコンペに活かそう」、「クライアントの考えに合わなかったのだな。そうであれば取り引きすべきでなかったから、負けてよかった」などと考える場合もあります。この差は、どこからくるのでしょうか?

これを説明してくれる心理学理論に、「ABC理論」があります。

「ABC理論」は、アルバート・エリスが1955年に提唱した「論理療法」の中心概念で、出来事(Activating event)、信念(Belief)、結果(Consequence)からなる“認知”に焦点をあてた考え方です。これは、人の行動について、「ある出来事(A)に対して、こういう結果(C)が発生している。それは、その出来事に対する信念(B)を持っているからである」という捉え方をしてみる見方です。

要するに、まったく同じ場所で同じ経験をしても、人それぞれで異なった受け取り方や感じ方をしているため、ある人は喜び、ある人は悲しむといった違いが生まれるということです。

先のケースであれば、「競合コンペで負けた」(A)→「負けは失敗で、辛く恥ずかしいことだ」(B)と考える人は、「失注してしまった…失敗だ」(C)と結論付けるわけです。しかし、「競合コンペで負けた」(A)→「負けは自分に足りない部分に気づき、学べるチャンスだ」(B)と考える人は、「なぜ負けたかを分析して次のコンペに活かそう」と言う結論を出しますし、「負けは、自分との相性が合わないということ」(B)と考える人は「相性の悪い顧客と付き合わずに済んでよかった」との結論に至ります。

起きている出来事はあくまでも中立的なもので、それをどう解釈するかで私たちの感情や行動は180度変わります。その解釈のしかた次第で、仮に2人の人間が同じ出来事が起きる人生を歩むとしても、一方は不遇な人生になり、ある人は超ハッピーな人生になる。そのように、大げさに言えば人生も大きく変わるのです。

「刺激」と「反応」の間には“選択の自由”がある

“経営者は概ね楽観的である”とよく言われるのは、同じトラブルが起きても、普通の人が「ああどうしよう、困った。もうだめだ…」と捉えるところを、経営者の場合は「おお、これは挽回と成長のチャンスだ。さて、どうクリアしてやろうか!」とポジティブに捉える習性を身につけているからなのです。

筆者のリクルート時代の上司でもあった、リンクアンドモチベーション社の小笹会長が講演などでよく話されていたアドバイスがあります。何かトラブルが起きたときに、「そうか、ちょうど良い。これを機会に~」と捉えることで、次に繋がる改善・改革アクションとしよう、というものです。“できるリーダー”に共通する出来事の捉え方や解釈力は、こうした部分に表れると思います。「災い転じて福となす」というのは、実際の日々の物事の捉え方にあるのです。あるいは、「転んでもただで起きない」とも言いますね。

筆者自身がこの考え方を初めて学んだのは、20代の頃に会社で受けた「7つの習慣」研修でした。

コヴィー博士は『第一の習慣:主体性を発揮する』において、「刺激と反応の間には選択の自由がある」と言っています。<刺激→反応>ではなく、<刺激→選択→反応>というように、間に「選択」がある。刺激に対して自分がどう思うか、捉えるか、行動するかは自分しだいだというのです。「我々は、刺激と反応の間に『選択の自由』を持っている」との考え方に当時の筆者は衝撃を受け、「なるほど!」と思いました。その研修、あるいは元となる書籍『7つの習慣』においても明示はされていませんが、これはまさにコヴィー博士がABC理論を引用したものでしょう。
「雨が降っても喜ぼう」
「顧客クレームが起きたら、サービス改善のチャンス」
「部下が不満を言ってきたら、職場活性化の具体的ヒントをゲット!」

このような考え方が重要なのです。物事は全て、自分自身の捉え方しだい。ただし、単なる前向きは“能天気な人”にはならないよう、念のため要注意ですね。
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