『第1回 社長はどんな年金をもらうのか』(平成30年7月9日付)では、個人オーナーは、国民年金という“1つの制度”から年金を受け取り、法人の代表取締役は、国民年金と厚生年金保険の“2つの制度”から年金を受け取ることを説明した。第2回となる今回は、具体的に踏み込んで、「個人オーナーと法人の代表取締役で、老後にもらえる年金はいくら位違ってくるのか」について考えてみる。
第2回:社長は“いくら”年金をもらうのか

個人オーナーの老後の年金は年額約78万円

国民年金の制度から支払われる老後の年金を、老齢基礎年金という。これは「加入期間の長さ」に比例して受け取れる額が変わる仕組みになっており、国民年金に40年間加入し、その間もれなく保険料を納めていると、満額の老齢基礎年金がもらえるものである。

現在、老齢基礎年金の満額は779,300円なので、保険料の納め忘れがない個人オーナーの場合には、原則としてこの779,300円が老後の年金の受取額になる。この額は1年間に受け取れる額なので、1ヵ月に換算すると年金額は約65,000円になる。

この額について、「年金だけでは生活できない」などと不十分さを取り沙汰されることが多く、制度の欠陥のように論じるケースも散見される。

しかしながら、そもそも日本の社会保障制度は、年金収入だけで老後に必要な金銭の全てを賄えるような制度設計を採用していない。わが国の社会保障制度は「自助」、「共助」、「公助」の組み合わせにより形作られている。

「自助」とは、人は“自ら”働いて生活の糧を得、その健康を“自ら”維持していくという考え方をいう。わが国の社会保障制度はこの「自助」を基本としている。

この「自助」を補完する制度として、社会保険制度のように生活リスクを相互に分散する「共助」の仕組みや、「自助」や「共助」で対応できない困窮などに対応するための生活保護制度など「公助」の仕組みが用意されている。

つまり、自身の老後生活に対する適切な「自助」が行われることを前提としているのが、わが国の年金制度の特徴である。従って、「年金だけでは生活できない」という主張は、厳しい言い方をすればわが国の社会保障制度への理解不足の裏返しに他ならない。

とはいえ、老後の年金額は多いに越したことがない。よって、個人オーナーの老後の年金を考える場合には、満額の老齢基礎年金をもらえないオーナーであれば、「どうすれば受給額を満額に近づけられるか」が大きな課題となる。

また、満額受給ができる個人オーナーの場合には、「受給額を満額よりも大きくする方法はないのか」について工夫、検討することがポイントといえよう。

一般社員の給料並みの年金受給も期待できる法人の代表取締役

法人の代表取締役の場合は、国民年金の老齢基礎年金に加えて、厚生年金保険の制度からも老後の年金を受け取れる。厚生年金保険の制度から支払われる老後の年金を、老齢厚生年金という。

前述の老齢基礎年金は「加入期間の長さ」に比例して金額が決まるものであったが、老齢厚生年金は「加入期間の長さ」と「給料額の多さ」の両方に比例して金額が決定される、という特徴がある。

つまり老齢厚生年金は、基本的に給料が高く、その分保険料も高い人のほうが、金額が多くなる仕組みである。当然、役員報酬が高ければ高いほど、老後の年金額も多くなるというわけである。

民間企業に勤務していた人の老後の年金の平均受給額は、老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせると月額約15万5千円である(平成28年度厚生年金保険・国民年金事業の概況/厚生労働省)。

これは老齢基礎年金のみを受け取っている人の平均受給額である月額約5万1千円の3倍近い金額であり(同概況/厚生労働省)、老齢基礎年金の満額を受け取っている場合と比べても2倍以上の額になる。

なかには、老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせると現役社員の給料並みである月額30万円近くの年金を受給する人がいるのも事実である(同概況/厚生労働省)。この金額は平均受給額の倍近い金額である。法人の代表取締役であれば、このような額の年金受給も夢ではないことになる。

このように見てくると、法人の代表取締役の年金は個人オーナーに比べて、かなり多額であることが分かる。ただし、法人の代表取締役の年金にはいくつかの注意ポイントが存在する。たとえば、
・役員報酬や役員賞与の金額が、年金の増額に結びつかないケースがある。
・社長業を営んでいる間は、老後の年金がカットされてしまうことがある。
などである。

個人オーナーがこのような事態に陥ることはないので、法人の代表取締役ならではの注意点といえる。これらを見落とすと、「思っていたよりも年金が増えない」、「受け取れると思っていた年金が受け取れない」などのトラブルが発生する可能性もある。その詳細は次の機会に説明しよう。
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