経営幹部の使命は、集団で事業や組織の目標を達成すること。そのために、仕事を部下に適切に任せつつ、全体の管理を行うことが主な役割となります。「権限委譲」、英語で言えば「デレゲーション」。いかに上手く部下たちに権限を渡して動いてもらうか、読者の皆さんも日々工夫されていることと思います。しかし実は、それだけでは部下たちを効果的に動かすには足らないのです。今回は、権限委譲を通じて部下たちの力を最大限に発揮させる方法をご紹介します。キーワードは「エンパワーメント」です。
第22回:正しい「権限移譲」で部下の力を無限大に発揮させる。「エンパワーメント」の効力と“7つのステップ”とは

正しい権限委譲は「丸投げ」と「マイクロマネジメント」の間に存在する

そもそも、権限委譲とはどのようなことでしょう?

正しい権限委譲とは、範囲を明確にし、ゴールを達成するための一式を託すことです。「任せる範囲を明確に決め、伝えていること」と、「ゴールを達成するための一式を託している(任せている)こと」の2つが満たされて、はじめて権限委譲と言えるのです。

権限委譲のしかたについて、対極にあるのが「丸投げ」と「マイクロマネジメント」ですが、正しい権限委譲はどちらに寄るのでもなく、両者の“中間”を狙うことです。まずはそのことを意識していただくと、上司の皆さんにとっても仕事が進めやすいかと思います。

例えば、職場で以下のような会話はありませんか?

部下「この件、どこまでやればよいでしょうか?」
上司「任せたから好きにやっていいよ」

部下「これで間違っていないでしょうか?」
上司「いいと思うよ」

たとえ、部下のやる気と主体性を尊重したかったとしても、これでは「権限委譲」ではなく「丸投げ」ですね。「任せる範囲を明確に決め、伝えているか」が、正しい権限委譲と丸投げの境界線です。

一方、次のような言葉を投げかけている上司の方もいるかもしれません。

「あー、ダメダメ。そのやり方じゃあ、絶対に失敗するぞ」
「前回のプレゼンあっただろう。今回もあの時のように資料を作ってね」

上司としては、「部下に具体的にやり方を教えてあげたい」、「失敗させたくない」といった親心を抱くこともあるかもしれません。あるいは、「部下より自分の方が優れている」、「細かいところまで自分の考え、やり方で通したい」というプライドやエゴが拭いきれていないケースも考えられます。これらはいずれにしても、「権限委譲」ではなく「マイクロマネジメント」です。

ここで、冒頭で述べたキーワード「デレゲーション」に触れたいと思います。デレゲーションとは、本来の意味は「遠くへ代表団を派遣すること」。いったん送り込んだら、自分の目や手の及ばないところに派遣しているため、任せ切りとなり、遠くから応援・支援するしかないのです。「ゴールを達成するための一式を託している(任せている)か」が、権限委譲と丸投げ・マイクロマネジメントの境界線です。

権限委譲だけでは足りない? エンパワーメントの“真の効力”とは

ここまで、正しい権限委譲について確認しました。しかし、今回のテーマは「権限委譲だけではなく、エンパワーすることが理想的である」ということです。それは一体どういうことでしょうか。

権限委譲が、大前提として「縦の関係(上下関係)」のもとに行われる行為であるのに対し、エンパワーメントは「横の関係」と言えます。エンパワーメントとは、「チームメンバーに自律的に行動する能力を与え、独り立ちを助けること」を意味するのです。

『エンパワーメントの鍵「組織活力」の秘密に迫る24時間ストーリー』の著者、クリスト・ノーデン・パワーズは、「エンパワーメントとは、自ら行動ができるようにパワーを解き放つことだ」と言います。上司はエンパワーする(部下の能力を開花させる)ことで、部下たちを管理・支配するよりも、はるかに大きな「組織力」とも言える力を手に入れることができるのです。

エンパワーする上司は部下たちに対して目標を明確に示します。ここは権限委譲と同じですね。その上で、目標を自分で達成できる「能力」と「意欲」を与えるのがエンパワーメントです。いわば、権限委譲は「セットアップ(お膳立て)」の段階を指しますが、エンパワーメントは「実行能力の提供」(レッドブル的に言えば“翼を授ける”)を意味します。
権限を与えた上でエンパワーすることで、はじめて部下の能力が発揮され、最強のチームへと進化するのです。

パワーズはエンパワーメントの手順として、次の7つのステップを挙げています。

(1)信頼関係の構築
(2)不満点の明確化
(3)望むことの明確化
(4)実現方法の考察
(5)行動の選択
(6)手順の見極め
(7)コミットして実行

この7ステップを見ると、部下たちに任せるものについては、「WILL(やりたいこと)」と「CAN(できること)」を満たすことが必要だと認識できます。こうして、権限委譲とエンパワーメントが、WILL・CAN・MUSTの「3つの輪」(※)と結びつきました。

※3つの輪:人は、「やりたい(WILL)」こと、「できる(CAN)」こと、「やるべき(MUST)」ことの3つが可能な限り重なるところにあるテーマや課題に、最もやる気を発揮し取り組むことができる

エンパワーメントが上手くいくと、そのチームはメンバーたちの主体性とやる気で活性化し、そのチームを率いるリーダー自身のリーダーシップも自然なかたちで効果的に発揮される状態となるのです。企業を率いる経営幹部自身がパワーを持っているからこそ、各部門にエンパワーでき、その各部・各課のマネジャーやメンバーたちにエンパワーできます。上司が自分の部下たちをエンパワーし、彼らの力を解き放つことで、その部下たちが彼らにとっての部下や後輩たち、関係者をエンパワーし、その人たちの力も解き放ちます。企業におけるエンパワーメント・パワーは、経営幹部を同心円にして波状に現場の裾野、社外パートナーへと無限に広がっていくのです。
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