本音を聞き出す「過去」→「現在」→「未来」の質問
そもそも「人が本音を言わない場合」には、主に以下の3つのパターンが考えられます。1.売り込まれたくないとき
2.相手を警戒している・好きでないとき
3.自分が話をしたくないとき
問題は、これをどう突破するかということです。
営業マン教育を行う渡瀬謙氏(有限会社ピクトワークス 代表取締役)は、著書『本音を引き出す「3つの質問」』(日経ビジネス人文庫)で、「本音を引き出すためには【過去】→【現在】→【未来】の順に質問をすればよい」と紹介しています。
しかし私たちは多くの場合、相手のニーズを聞くときには「未来の質問」をします。「未来の質問」とは、「何が欲しい?」、「これからどうしたい?」、「将来どうなりたい?」といったものです。これらはストレートな質問ですが、部下としてはこうしたことをいきなり聞かれても答えにくいことが多いのです。部下に突然、「次は、どんな仕事を担当したい?」と聞いても、戸惑ってしまうことが少なくないでしょう。
そもそも、先のような本音を言わない状況では、上司に問われたことに対して本音を話そうという気にならないことがあります。「ここで何かをやりたいと言ったら、部長は自分をどう評価するんだろう」、「役員がいきなりこんなことを聞くなんて、何かの前振りだろうか」など、無用な勘ぐりをされてしまうこともあるでしょう。
また、いきなり“未来”(どうしたいか)を聞いても、“表ニーズ”(表面的なニーズ)しか出てこないことが多く、“裏ニーズ”(本音ニーズ)には本人も気づいていないような場合も少なくありません。「次はどんな仕事を担当したい?」に対して、「今の業務をさらに極めます」など、本人も他意なくパッとイメージできる無難な回答をするものです。
この状況を覆し、部下の本音を聞き出すには、まず過去から現在までを聞くことが必要です。すると“裏ニーズ”を自然と聞き出すことができ、そこから展開すれば本音の“未来”が聞き出せるのです。
「過去から現在を聞く」ためには、例えば次のような会話の流れが考えられます。
部下「下町エリアの中小企業担当の営業でした」
上司「そうか。そこから自己申告で営業企画に来たんだったね」
部下「はい。希望が叶って嬉しかったです」
上司「現場をよく理解した上で販促の企画を立ててくれているから、営業部の評判もとても良いし、新商品の販売も順調に伸びているね」
部下「ありがとうございます。顧客のニーズをイメージしながら、どう商品特性を伝えればよいか工夫するようにしています」
上司「いいね。次はどんな仕事を担当したい?」
部下「そうですね、いまの仕事をやってみて、マーケティングについてもっと深く理解してプランを立てられると、より成果を出せるのではないかと感じています。なので、可能であれば一度、マーケティングを担当してみたいです」
上記の会話では、自然な流れで部下のやりたい仕事についての本音を聞くことができました。このように、部下の過去・現在を聞いた上で未来の希望を聞き出すことで、上司としても腑に落ちて理解できるのです。
質問には「リアクション」、「意図」、「気持ち」をプラスせよ
質問することは、「相手への興味・関心」を表します。質問すること自体に本音を聞き出すトリガーがあるのですが、渡瀬さんは“尋問型の質問”は三流、“リアクション付きの質問”が一流だと言います。尋問型の質問とは、次のようないわゆる「一問一答型」の聞き方です。例として、中途採用入社で担当部門に配属された新任部長と担当役員の会話を見てみましょう。
部長「輸出関連で海外に長らく赴任していました」
役員「その前は何をしていたの?」
部長「国内の業務用食材のルートセールスです」
役員「学生時代は何を選考していたの?」
部長「米国文学選考です」
これでは会話が無機質で、いまひとつ盛り上がりません。
対して、リアクション付きの質問とは、次のような「相手の話にリアクションしながら深掘りしていく」ことを含んだ聞き方です。
部長「輸出関連で海外に長らく赴任していました」
役員「おお、そうなんだね。ちなみにどちらの国に?」
部長「インドです」
役員「いいね! 僕は行ったことないけど、カレーが大好物なので羨ましいよ」
部長「あはは、そんなに毎日カレーばかり食べませんよ」
役員「あ、やっぱり(笑)」
部長「でもバリエーションが多く、辛いのが多いですね。僕は日本の食卓のカレーのほうが好きですけど(笑)」
あまり脱線しすぎてもいけませんが、リアクション&深掘りで相手の好みや意外な事実、さらには、ふとした本音まで知ることができます。
この“リアクション付きの質問”について、更に効果的に会話を展開するには、「意図+質問」をして、「気持ち+質問」で盛り上げるのがよいそうです。「意図+質問」とは、「なぜその質問をするのか」の理由を添えること。例えばクライアントとの会話などで、アイスブレイクに「御社の創業はいつでしたか?」ではなく、「社長の原体験があって御社を創業されたのですよね? その創業はいつでしたか?」などと聞けば、社長は創業に至った背景や起業に至る決断、創業時のご苦労なども喜んで話してくれるでしょう。
「気持ち+質問」とは、「話を感想で受けて更に質問で深堀る」という会話の流れです。例えば、クライアントの社長が「いやー、何としてもこの商品が必要だと思って起業したけど、最初は誰も真に受けてくれなくて大変だったよ」といったのに対し、あなたが「そうだったのですか、ご苦労されたんですね。それが現在の規模にまでなるなんて、本当に凄いです。ターニングポイントはどのようなことだったのですか?」などと質問する形ですね。こうすることで、社長はあなたが自分や自社に強く興味を持ってくれていることを感じ、好印象を抱くでしょう。この後の商談もスムーズに進むことは間違いありません。
部下であれ、取引先であれ、人は本音を共有できる相手を求めています。経営幹部たるもの、相手に「答えがいのある質問」をして、本音を引き出すことが楽々とできる人であって欲しいですよね。
今回はテクニック的にご紹介しましたが、大事なことは、相手に素直な興味・関心を寄せた上で、「3つの質問」をすることです。そうすれば必ず、部下やクライアントの本音を聞き出し、信頼を獲得できるのです。ぜひ、皆さんの会社の経営幹部、あるいはマネジメント陣全員にインストールしてみてください。
- 1