マネジメント人材には「幹部人材」と「経営人材」がいる
できる経営幹部人材、できない経営幹部人材の違いは何だろうか?経営幹部人材に求められる共通項とは?
当社では、こうした問いを長らく考え続け、様々な場面で議論し、研究し、仮説を検証し続けてきました。その結果、明らかになったものを整理したのが「経営者力」方程式です。これを深堀ることにより、経営組織のコンサルティングやエグゼクティブサーチ、経営者育成カリキュラムなどを展開してきました。大元の公式はシンプルなものなので、皆さまにもぜひ覚えていただければと思います。◎経営者力=(「描く力(構想力)」+「決める力(決断力)」+「やり切る力(遂行力)」)×「まとめる力(リーダーシップ力)」×「学び続ける力(学習力・習慣化力)」、これら5つの力を発揮し、日々の現場に当たれる人が、経営者力の高い人です。私たちは、「経営者力」をこの方程式で捉えて、さまざまな支援をしてきました(下図参照)。
「幹部人材」とは、会社の「問い」に答える人です。経営陣は、常に課題を抱えています。それらを託され、成果を出すことにコミットするリーダーが幹部人材です。一般的には部長や課長の立場にある人たちがこれに当たります。
一方の「経営人材」は、会社の「問い」を立てる人です。「自身の会社では今、何をすべきか」「今後、何を目指してどこへ向かうべきなのか」といった、目的や方向づけを行うリーダーを指します。当然、社長がその任を負いますが、社長だけでなく、事業部門の長、組織の最終責任者である立場の人が、この立ち位置で思考し動ければ、会社はなお強くなるでしょう。
他に、組織上の役職・立場が組織の最終責任者でなくとも、その問題意識や市場、顧客を見る視座の高さから、自社の今後の取るべき舵取りについて提言し、新たな事業の提案をするなどで自社を大きな変革に導く若手リーダーもいます。彼らこそ、実は「真の経営人材」と言えるのです。
さて、では「幹部人材」「経営人材」、それぞれのあり方を見ながら、先述の「経営者力」の5つの力から、求めるべき経営幹部人材を見抜くポイントをご紹介しましょう。
「幹部人材」は「やり切る力」と「まとめる力」の有無を見よ
「やり切る力」とは、業務遂行力のことです。絵に描いた餅で終わらせず、決めたことを徹底的に実行することが求められます。物事は、当初描いた通りに進むとは限りません。むしろ、そうはいかないことのほうが多いでしょう。そのときに「やっぱり駄目だった」「あいつの意見は違うと思うんだ」などと投げ出してしまったり、他人に責任をなすりつけたりする管理職・リーダー職も少なくないように思います。
できる管理職、成果を出しているリーダーは、こういう局面での踏ん張りが素晴らしい。「そうか、やっぱり、ここはうまくいかないか。では、こうしてみようじゃないか!」と速やかにチューニングを行い、軌道修正した施策を実行に移します。まるで、ゲームを楽しむように事業ステージをクリアしようとする力は、現場を勇気づけ、成功への道を切り開きます。
初動も非常に大事です。できる人ほど、スタート、つまり取り掛かりが早い。これは思考力と相関関係が強いことを意味します。考える力が高い人は、これ以上考えても仕方ない臨界点へ到達するスピードが早く、物事を展開させるには行動した方が早いことを知っています。合理的な人ほど腰が軽く、PDCAを回す力に長けています。
我々は、この「やり切る力」の有無を評価するポイントとして、「戦略を分かりやすく説明、周知、浸透させているか」「戦略を果断に遂行しているか」「業績への強いコミットがあるか」を見ています。
「まとめる力」は、リーダーシップ力のことです。ビジネス上、一人でできることなど限られています。そもそも組織で行うビジネスとは「人を動かして、ことをなす」ことだと言ってよいでしょう。「まとめる力」が高い人が組織や事業を大成させます。
戦後世代の日本を代表する経営者には、この「まとめる力」がとにかく突出している人たちが多く見られました。それが戦後の日本経済を世界第2位までひきあげてくれたことは間違いありません。
その後、バブル崩壊を経て21世紀に入り、日本経済の停滞によってなのか、個の時代によるものなのか、この力は総じて日本人経営者・リーダー層で弱くなったという感が強いです。平成はある意味、「まとめる力」の衰退期でしたが、令和のこれからは、改めて「まとめる力」の重要性が増してくると私は予想しています。
我々は、「まとめる力」の有無を評価するポイントとして、「信頼を獲得しているか」「組織を組成、場づくりに気を配り、チームをリードしているか」「メンバー個々の個性、主体性を活かし、人材開発・育成に務めているか」を見ています。
ここまでお伝えしたとおり、「問い」に答える「幹部人材」とは、特にこの「やり切る」と「まとめる力」の2つの力を発揮できる人材を指すのです。
「経営人材」は、「描く力」と「決める力」の「質×量×スピード」で見抜け
「描く力」とは構想力のことです。まず、しっかりと自社の事業ビジョンや、個々のサービスの到達点、目指すべき姿を描けるかどうかが問われます。できる経営者の人たちがよく口にするのが、「頭の中でくっきりと絵を描いて、それを社員や社外のステークホルダーに説明する」というフレーズです。これは「見えていないものは、成し遂げ得ない」という信念から出てくるものでしょう。
描く力でよく言われるのは、『鳥の目』を持つことです。自分の2つ上ぐらいの役割になったつもりで、自分の仕事をとらえ直すことができるか。課長であれば事業部長クラス、部長であれば役員か経営者、若手であれば部長クラスの目になって、自分の立ち位置や仕事内容を俯瞰(ふかん)してみる癖を身につけているかが問われます。もちろん、どのような立場であれ、究極は「社長の目」に立つことです。将来の後継者候補足る人材は、日々、社長の目から自社の事業や日々の業務を見ているものです。
我々は、「描く力」の有無を評価するポイントとして、「広く市場の動き、事業環境に目配せできているか」「自分なりのビジョンを創出しているか」「ビジョンや構想を戦略や組織に落とし込んでいるか」を見ています。
「決める力」とは、決断力です。リーダーというのは毎時間、毎分、毎秒が決断の連続。その決め方にもその人の個性が出ます。一人で決める人、衆知を集め合議する人、さまざまです。決められないトップやリーダーがいると、組織は混乱や停滞をきたします。向かうべき方向を得られない組織は、迷走するか、動けなくなるかのどちらかです。
昭和型の大企業トップに多いのが、決断の段階での「意思決定のタライ回し」です。「あの役員は、どう言っているんだ?」「皆がよいというなら」「先に副社長に聞いてみてくれ」では、決断力があるとは言い難いでしょう。決めないということも一つの意志決定です。しかし、それがどんな災いをもたらすかは、世間を騒がせてきた偽装問題、粉飾問題や大型倒産などに見てとれますね。どれも、意思決定の先送りがもたらした悲劇です。
また、そもそもの偽装問題や先の粉飾決算の発生自体は「間違った決定」による悲劇です。
ただ決めればよいというわけではないのは、当たり前のことです。決断できる人とは、自分のなかに正しい判断基準を明確に持っている人のことです。
我々は、「決める力」の有無を評価するポイントとして、「事業や経営での意思決定への主体的な参画があるか」「多様な意見・利害関係の中でも最適な判断をすべく動いているか」を見ています。
問いを立てる「経営人材」とは、先の「やり切る」「まとめる力」の2つの力に加えて、「描く力」と「決める力」が抜群に優れている人材です。この部分での質と量とスピードを評価してください。
抜擢したいのは、学び続ける力「学習力・習慣化力」を持つ人材
「5つの力」の最後の1つは「学び続ける力」。学習力であり、習慣化力です。そもそも、どのような仕事、事業、組織、経営にも、これで終わりという完成形はありません。時代ごとに変化や対応を求められます。何らかの責任を負う立場のリーダーであれば、「日々勉強」を生涯、自らに課すことになります。おごらず、過去の成功に縛られず、あらゆる事象や世代から学び続ける力が求められます。言われたことだけをやるのであれば勉強不要かもしれませんが、一般に言われる通り、人工知能(AI)に駆逐されてしまうでしょう。
自分の専門性や経験を「方法記憶化」できるまで、徹底的に繰り返し反復する習慣化力が必要であることに私は気がつきました。これは意外に見過ごされている点のように思います。
できる経営者は、事業においてもプライベートにおいても、自分はまったく苦に思っていないのに、周囲から見ると「えーっ、そんなことを、そんなにやっているんですか?!」という驚きの習慣をいくつか持っていることが多いですね。自分が時間とお金を一番使っているところに、その人の持ち味、強みが潜んでいます。経営幹部候補人材が一番、時間とお金を使っていることは、何でしょう?チェックしてみてください。(あなたご自身は、何ですか?)
我々は、「学び続ける力」の有無を評価するポイントとして、「過去の蓄積に留まらず、常に外部からの新たな知見を吸収しようとしているか」「常に学んだことを現場に活かし、現場で沸いた疑問や不足事項を学びに行っているか」を見ています。
「描く力」「決める」「やり切る」「まとめる」「学び続ける」――。経営者力を決定づける「5つの力」を鍛え上げ、日々の業務で使いこなせる人こそ、御社の明日を担ってくれる、採用すべき・抜擢すべき経営幹部人材なのです。
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