著者は、日本で数人しかいないディズニーとUSJの両方で人材開発に携わった人財育成のプロであり、現在も大企業から海外の企業まで幅広く人財開発を行っています。同書で紹介されている人財育成に必要なリーダーが知っておくべき原理原則の一部を紹介。『部下が変わる』『チームが変わる』『お客様が輝く』『自分が変わる』という4つのテーマにわけ、毎回Q&A形式で分かりやすく解説します。
部下にアドバイスをしますが響きません。どうしたらいいでしょうか?
(第3章「部下が変わる!リーダーの原理原則」より)
<回答>
現場のリーダーは職種を問わず、その立場上、忙しい日々を送っています。
そんななかでも、なんとかスタッフとの信頼関係を築き、円滑に仕事を進めたいと願っているはずです。ところが、ゆっくりと面談をする時間、仕事の後に食事へ行き、心を通わせる時間はなかなかつくれない現実もあるでしょう。
その積み重ねによって、現場のリーダーとスタッフの関係は「理解する前に決断する状態」になりがちです。
「この仕事はこうだから、こうやればいい」
「今の悩みはこんなところだろ、俺もあったよ。こうしてみたら」
理解=スタッフの話を聞かず、あるいは聞き流し、
決断=自分の考えでアドバイスしてしまう。
あなたが新人の立場で、上司に同じことをされたら、とんでもなくモヤモヤするはずです。ところが、現場では忙しさゆえに、さらには愛情深い一見、部下思いの上司がいると
「理解する前の決断」が頻発しています。
あなたは、スタッフのことを本当に理解していますか?
「訊く」のではなく「聴く」ことが大切
目の前のスタッフのことを今まで以上によく知るためには「聴く」ことが大切です。相手の話に耳を傾け、コミュニケーションを取っていきましょう。しかし、ここで相手よりも経験が豊富な人ほど、つい失敗してしまいます。
それはパワーをかけて、相手を変えようとしてしまうのです。
理解=「俺はお前(新人)のことはすべてわかっているぞ(これはリーダーの思い込み)」
決断=「お前の話はわかったけど、今のままだとダメだぞ」
そう言った瞬間、目の前のスタッフはこう考えます。
「俺のこと、現場のこと知らないくせに」「いつも見てないくせに」「最後まで話を聞きもしないで」。でも、そこでリーダーはこうたたみ掛けてしまいます。
理解=「そういう風に言うお前(新人)は経験がまだないから、そこまでの答えしか出ないんだな」
決断=「お前のことを想って言っているのだから……」
スタッフを想う気持ちは本当でも、自分の価値観、枠組みで考え、自分のやりたい方向に相手を引き込もうとしてしまう。「きく」が「訊く」の状態になっていきます。
「訊く」は、辞書で調べると、
1.たずねる 2.問いただす 3.とがめたずねる
と、あります。
あなたの「聴く」は「訊く」になり、自らの考えのもと、自分自身の答えにはめたがる「2」、もしくは「3」の「俺の言っていることをわかってくれ」という想いから、「とがめ問いただしてしまう」になってはいませんか?
スタッフの本音、在り方を引き出す前に、リーダーが導きたいリーダーの中にある正解のゴール、そして、それに基づいたやり方を変えようとする。その結果、お互いの関係がおかしくなってしまうのです。
誰もが持っている、その人の正義に耳を傾ける
では、どういうコミュニケーションなら相手の心を動かすことができるのでしょうか。そこでキーワードなるのが、「エンパサイズ」=「相手の在り方に意識を向ける共感力」です。
人は誰もが、自分の正義を持っています。リーダーの立場から見ていると、クエッションマークが浮かぶスタッフの言動にも、本人のなかには必ず動機があり、それが最善の選択となった正義があります。
その正義に目を向けず、リーダーが自分の正義を振りかざした途端、相手の心のシャッターはガシャンと下りてしまいます。
理解=「なぜそうしたの?」というところに、まずは立ってみること。
決断=そうすると、共感力を発揮しながら聴ける状態ができあがります。
そして、スタッフのことをしっかりと向き合えたからこそ相手の立場に立って、「自分から行動できる」のです。
つまり、聴くコミュニケーションの後に、取るべき対応は……
◯ 共感する=エンパサイズ
↓
エンパサイズを何度も経験することによって、相手の世界の中に入り込み、その人の立場になりきる=シンパサイズ
となります。
スタッフの正義に共感し、話を聴くこと。しっかりと理解すると、決断の仕方も変わってきます。相手の在り方を理解しようと努力することで、あなたが発するやり方のアドバイスも変化するのです。
□部下が変わる! リーダーの原理原則③
スタッフを変えようと「処方」するのではなく、
まずは「診断する」(聴く)ことから始めよう。
- 1