就業規則を用意する意味と役割
就業規則にはどんな意味があり役割があるのでしょう。法律で決められているから用意している、社員が働く上でのルールだから、何かトラブルがあったときに困るから…様々な目的をもって用意されているものと思います。
就業規則とは、労働時間や休日などの労働条件、働く上でのルールなどの服務規律などについて、会社(使用者)が作成した文書をいいます。
多くの労働者を雇用し事業活動を行うためには、労働者の労働条件を統一的・画一的に決める必要がありますし、また一定の秩序を維持することも必要です。そのための文書が就業規則です。
就業規則は、法律で決められた内容が盛り込まれている必要はありますが、それ以外は自由契約の下に自社のルールを盛り込んでも構わないのです。
もちろん労働各法を下回る条件を定めた場合は無効となりますが、「うちの会社ではこういう働き方をして欲しい、これはやってはいけない」事を社員に示すためのルールブックの役割をもっているのが就業規則だと考えています。
多くの企業では、詳細な労働条件を定めています。就業規則に定めた内容が合理的なものであり、そして労働者に周知されている場合は、就業規則に定めた内容は労働契約の内容となり、使用者・労働者ともその内容に拘束される事となります(労働契約法7条)。
つまり、就業規則に定めた労働条件により、労働契約上の権利と義務が形成されるという事であり、労働者も自分の労働条件を知りたいと思えば、まず就業規則によって確認することになります。
近年、労働各法の改正が多く、企業は法改正に対応するように就業規則を改正する必要があります。仮に既存の就業規則で定めてある内容が法律の基準を下回っている場合には、その部分の就業規則は無効とされ、改正法の基準が適用になります(労働基準法92条)。
就業規則の作成・変更には一定のルールがある
就業規則は使用者が作成するものですが、法律による一定の制限が設けられています。【作成義務】
まず、事業場で常時10人以上の労働者を使用している場合、就業規則を作成しなければいけません(労働基準法89条)。
この「常時10人」は、会社単位ではなく場所単位で考えます。また、10人には正社員以外に、契約社員など有期雇用の労働者や、パート労働者など、直接雇用する労働者をすべて含めます。派遣労働者は、派遣元企業に含みますので除きます。
なお、労働基準法で就業規則の作成が義務付けられていない労働者が10人未満の職場でも、就業規則を設ける事はできますので、労働条件を明確にするために就業規則を作成するのも一考です。
【記載する事項】
就業規則に記載する事項は、以下の3つに分けられます(労働基準法89条)。
この事項は、就業規則に必ず記載しなければならず、これらの事項の記載がないと、労働基準監督署に届け出たときに、内容の補正を命じられます。これを「絶対的必要記載事項」といいます。
① 始業と終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて就業させる場合は就業時転換に関する事項
② 賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給に関する事項
③ 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
次に、以下の事項は、使用者が制度化する場合には、就業規則に記載しなければいけません。これを「相対的必要記載事項」といいます。
例えば、退職金や懲戒制度などを制度化するときは就業規則に記載し、制度化しないときは記載は不要となります。
① 退職手当
② 臨時の賃金・最低賃金
③ 労働者の食費・作業用品の負担
④ 安全衛生
⑤ 職業訓練
⑥ 災害補償・業務外の傷病扶助
⑦ 表彰・制裁
⑧ 配転、出向など、その事業場の全労働者に適用する事項
なお、就業規則の作成目的や会社の意義など、絶対的必要記載事項にも相対的必要記載事項にも含まれない事項があります。これを記載するかどうかは使用者の自由とされます。
【労働者代表の意見を聴く義務】
就業規則を作成し変更する場合に、該当する事業場の全労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません。労働者の過半数で組織されている労働組合がある場合は、その労働組合の代表者から意見を聴きます。
この意見を聴くという義務は、労働者側の意思を反映させるのが趣旨ですが、過半数代表者の同意を得る事まで求めているわけではありませんので、過半数代表者の意見を聴いたという書面を添付して届出をすることになります(労働基準法90条1項)。
【届出義務】
使用者は、作成・変更した就業規則を管轄の労働基準監督署に届け出なければいけません(労働基準法89条)。複数の事業場で同じ就業規則を適用していた場合は、それぞれの事業場から労働基準監督署長に届け出る必要があります。届出をするときは、前述の過半数代表者の意見書を添付します(労働基準法90条2項)。
ちなみに、CD-ROM等の電子媒体で提出する事もできますし、全事業場の就業規則を一括で届け出する事もできます。
【周知する義務】
就業規則は、従業員に周知されなければいけません。(労働基準法106条)。
周知の方法はいろいろあり、①事業場に掲示したり備え付ける、②従業員に配布する、③グループウェアなど全員が確認できるもので公開する、などで行います。(労働基準法施行規則52条の2)。
社長の机の引き出しの中にしまったままや、金庫に入れたままの「就業規則」には、法的効力が一切認められないことはいうまでもありません。
なお、就業規則だけではなく、36協定などの労使協定の書面についても周知する義務を負っています(労働基準法106条)。
就業規則の効力は違反内容により異なる
前述の就業規則を作成する義務・労働者からの意見聴取義務・届出義務・周知義務に違反すると、法律では罰則が定められてます。では、これらの手続違反があった場合に、就業規則自体の効力はどうなるのでしょうか。この点について判例では、周知義務違反には、労働契約内容への効力がないと否定的に解釈され、労働者からの意見聴取義務違反や届出義務違反には、就業規則の効力自体を容認する傾向にあります。これは使用者の義務違反を理由に、労働者に不利益な結果を認めることが適当ではないとの判断によるものです。
労働契約からみた就業規則に与えられた役割
労働契約は、就業規則に2つの役割を与えています。一つは、使用者が合理的な労働条件を定める就業規則を労働者に周知した場合、その労働条件が労働契約の内容になるというものです(労働契約法7条)。
つまり、就業規則に規定された労働条件は、よほど社会的にみて不合理でなければ、労働契約の内容である労働条件となります。
二つ目に、就業規則に定める労働条件は、労働契約との関係で、最低基準としての効力を有します(労働契約法12条)。これは労働条件のうち、就業規則に定めてある労働条件の基準に達しない部分を無効とし、それを就業規則に定める基準で補充することが認められているからです。
例えば、労働者が10人未満で就業規則がない事業場で、時給1,200円の労働者に時給1,000円にして欲しいという使用者からの提案に合意した場合、労働者の時給は1,000 円となります。
しかし、これが就業規則で時給1,200円と定められている場合には、このような合意は無効になります。この場合は、使用者が労働者と時給1,000円で合意したとしても、時給1,000円は就業規則に定める時給1,200円に達していないので、1,000円という合意が無効となります。結局、この労働契約の時給は、1,200円となります。
このように就業規則を変更しないで、労働者と使用者が個別的に労働条件を不利益に変更しても、その効力は認められないという事になります。
次回は、「賃金と処遇との関係」についてお伝えします。
※本文中の法律についての記載は、平成28年6月21日現在の情報です。
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