会社は、採用情報サイト、新聞、雑誌、就職情報誌、チラシ、など様々な媒体を利用して人材を募集します。募集するには、仕事の内容から労働時間・給与などの待遇を告知し、一人でも多くの人に応募してもらいたいと情報発信をします。この情報発信の時点から、職業安定法その他の法律が求める要件を守らなければいけません。
実は大事な労働契約

採用募集から様々な法律の制限を受けている

 会社は、採用情報サイト、新聞、雑誌、就職情報誌、チラシ、など様々な媒体を利用して人材を募集します。
 募集するには、仕事の内容から労働時間・給与などの待遇を告知し、一人でも多くの人に応募してもらいたいと情報発信をします。この情報発信の時点から、職業安定法その他の法律が求める要件を守らなければいけません。

① 従事する業務内容
② 雇用期間(正社員、契約社員など)
③ 就業する場所
④ 始業と終業時刻、時間外勤務があるか、休憩時間、休日や休暇
⑤ 賃金(賞与等を除く)の額に関する事項
⑥ 健康保険・厚生年金保険・労災保険・雇用保険に加入しているか
これらの労働条件は、採用時にも労働者に対して明示するよう求められています。(労働基準法15条)

 上記の募集要件以外にも、求職者が提供する個人情報の取り扱いについて、目的の範囲内での収集、保管、使用を制限されます。(職安法5条の4)
 特に、人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地など社会的差別の原因となる事項や、思想・信条、労働組合への加入状況に関する情報の収集を禁止しています。

雇用をしたら労働条件の明示をする

 企業(使用者)が社員(労働者)を採用する=雇用するという行為は、法的には使用者と労働者が労働契約を締結する事を意味します。
 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこの労働に対して賃金を支払うことについて、労働者と使用者が合意することにより成立するとされています(労働契約法)6条)ので、労働契約は口頭で成立しますが、実際には、トラブル防止のため、労働契約の内容について、書面により取り交わしをします。
 この時、一定事項については、書面を交付して明示することが、労働基準法により義務付けられています。

採用内定と試用期間

 採用が決まったら採用の内定を出します。
 この採用内定、特に新卒採用では多くのプロセスを経て採用に至りますので、ここにも法的な制約があります。
 法律の考え方では、採用内定を通知することで労働契約が承諾されたとされ、これにより労働契約が成立したとされます。とはいえ、内定によって労働契約が成立するといっても、通常の正社員の労働契約と同じではなく、卒業できなかった場合や経営が悪化するなど、内定当時予測できなかった事由が発生した場合のために、使用者による解約権が留保され、かつ、入社予定日を就労を開始する時期とする労働契約(始期付解約権留保付労働契約)とされています(大日本印刷事件最高裁判決S54.7.20)。

 内定を取り消しするという行為は、一旦成立した労働契約を反故にする事になるため、慎重な扱いが求められます。
 内定期間中は、まだ働いていないものの、すでに労働契約が成立していると認められる場合があります。労働契約である以上、労働契約法が適用になり、内定の取消には、解雇権濫用法理が適用になりますので(労働契約法16条)、企業だけではなく内定者(学生)の双方がこれを守らなければいけません。従い、企業側の事情により内定を取り消す場合には、きちんとした合理的理由および社会的相当性が必要とされます。
 なお、内々定のように労働契約が成立していないとされる場合でも、内定の期待が高いと判断されると、取り消しするにあたり民法709条に定める不法行為に基づく損害賠償が請求されることがあるので、注意する必要があります。

 入社した日から、多くの会社で、3~6か月程度を従業員としての適性を判断するための試用期間として設けます。
 会社は、この試用期間中に、特に問題がなければ本採用しますが、従業員としての適性を欠く、または健康に問題があるときなどは、本採用を拒否することもあります。この場合、試用期間の満了を持って労働契約を解消するという形になります。
 試用期間中も使用者と労働者は労働契約関係(解約権留保付労働契約)にありますので、本採用拒否も解雇として扱われ、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ無効とされます(労働契約法16条)。

正社員雇用か契約社員か

 使用者が労働者と新たに労働契約を締結する時には、労働基準法による制限があります。このうち、使用者にとって重要なのは、労働契約の期間と労働条件の明示義務です。
 労働契約は、契約自由の原則により、期間を定めても構いませんし、定めないこともできます。契約期間を定めた場合は、期間経過後に再度更新することもできます。ただし、契約期間を定め、更新を繰り返している場合、ある時点に更新を拒否する(雇止め)としたときは、解雇と同様に客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められることになりますので注意が必要です(労働契約法19条)。
 労働契約の期間を定めるときは、原則として最長3年ですが、高度な専門的知識等を持っていたり、満60歳以上の者との契約は、最長5年を契約期間とすることができます
(労働基準法14 条1項1 ~2号)。
 なお、1年を超える有期労働契約の場合、労働契約の初日から1年経過した日以降は、労働者は使用者に申し出て、契約期間の満了前でも、いつでも退職することが認められています。

労働契約の締結時には、労働基準法により労働条件の明示を義務付けられています(労働基準法15条)。このうち、(*)がついている事項は、書面の交付が必要とされます。

1. 労働契約の期間(*)
2. 有期労働契約を更新する場合の基準(*)
3. 就業の場所、従事すべき業務(*)
4. 始業及び終業の時刻、時間外労働の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換(*)
5. 賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払時期、昇給の有無(*昇給以外)
6. 退職(解雇の事由を含む)(*)
7. 臨時に支払われる賃金、賞与及び1ヶ月を超える期間に対する精勤手当、奨励手当・能率手当、勤続手当、最低賃金額
8. 労働者に負担させる食費、作業用品など
9. 安全衛生
10. 職業訓練
11. 災害補償
12. 表彰および制裁(懲戒)
13. 休職(制度がある場合)

上記のうち、個別要件以外については、就業規則に定めておき該当する部分を明示するという形で対応しても構いません。また、パート労働者に対しては、昇給・退職手当及び賞与の有無についても書面での明示が必要になります。

次回は、「就業規則の役割」についてお伝えします。


※本文中の法律についての記載は、平成28年6月7日現在の情報です。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!