少子高齢化が加速する日本。どの企業でも人材不足は大きな課題だ。せっかく採用できたとしても定着せず、早期離職に至ってしまうケースが少なくない。「うちの会社では、人材確保は至難の技だ」と頭を悩ませている人事担当者も多いのではないだろうか。対策として有効なのが「人材確保等支援助成金」の活用だ。人材を確保するには、まずは従業員が働きやすい環境づくりが不可欠となる。「人材確保等支援助成金」は、労働環境の向上に向けた取り組みを支援する助成金制度である。本稿ではその概要を解説する。
「人材確保等支援助成金」とは? テレワークや介護福祉機器への助成など9コースの詳細と廃止コースを解説

「人材確保等支援助成金」とは

「人材確保等支援助成金」とは、労働環境の向上を図る事業主や事業協同組合などに対し、厚生労働省が支給する助成金のこと。魅力ある雇用創出を図ることによって、人材の確保・定着を目指すものである。

サービス業や建設業をはじめ、多くの業種では人材不足が顕著だ。人材を募集しても集まらない、または人材が職場定着しない企業の雇用創出に向けて、設備・機器の導入や体制づくりなどの取り組みを支援する制度の一つである。

●雇用関係助成金における「生産性要件」の廃止

これまで「人材確保等支援助成金」を申請するにあたっては、生産性要件(企業の生産性が向上しているかを評価する指標)を理解しておく必要があった。だが、2023年3月31日までで「生産性要件」は廃止となり、代わりに「賃金引き上げに関する要件」が適用されることとなった。その背景として、厚生労働省は企業の付加価値の向上を労働者に賃上げとして還元することと掲げている。つまり、同省は今後の制度実施において、企業の付加価値の向上の評価にとどまらず、「向上した企業価値を労働者に賃上げとして還元し、さらなる雇用の安定を実現すること」を重視する意向だといえる。

「人材確保等支援助成金」のコース

「人材確保等支援助成金」には、2023年8月現在、9つのコースがある。それぞれの概要を下記に説明する。

(1)雇用管理制度助成コース 

(2023年8月現在、整備計画の新規受付を休止中)

雇用管理制度を導入・実施し、従業員の離職率の低下に取り組む事業主に対して助成している。離職率の目標値を達成した際に助成金として57万円が支払われる。主な要件としては、雇用管理制度の導入や離職率目標の達成が挙げられる。ただし、同コースは2022(令和4)年4月1日以降、整備計画の新規受付を休止している。 

(2)介護福祉機器助成コース

新たな介護福祉機器を導入して従業員の離職率の低下に取り組む介護事業主に対して助成している。離職率低下などの目標を達成した際に、助成金として導入費用の20%(賃金要件を満たした場合は35%)が支払われる。主な要件としては、介護福祉機器の導入が挙げられる。ただし、同コースに関しては2021(令和3)年3月31日をもって「機器導入助成」が廃止となり、「目標達成助成」のみとなっている。

(3)中小企業団体助成コース

計画の認定を受けた中小企業団体が構成員である中小企業者のために、人材確保や従業員の職場定着を支援するための事業を行った場合に助成している。要した費用の2/3が助成金として支払われる。主な要件には、事業協同組合などが構成員である中小企業の人材確保や職場定着支援の事業を実施することがあげられる。

(4)人事評価改善等助成コース

(2023年8月現在、整備計画の新規受付を休止中)

定期昇給だけによらない賃金制度を設けることを通じて、生産性の向上や賃金アップ及び離職率の低下を図る事業主に対して助成している。離職率低下や賃金アップなどの目標を達成した際に、助成金として80万円が支払われる。主な要件には、従業員の賃金アップを含む人事評価制度の導入が挙げられる。ただし、同コースは2022(令和4)年4月1日以降、整備計画の新規受付を休止している。

(5)建設キャリアアップシステム等普及促進コース

建設事業主団体が構成員である中小建設事業主などが実施する、以下の事業に対して助成している。

1)建設キャリアアップシステム(CCUS)の事業者登録、技能者登録、能力評価(レベル判定)または見える化評価の登録費用の全部、あるいは一部を補助する事業

2)CCUSの事業者登録、技能者登録、能力評価および見える化評価の事務手続を支援する事業

3)CCUSの就業履歴蓄積に係るカードリーダーなどの各種機器やアプリといったソフトウェア等の導入を促進する事業

いずれも、中小建設事業主団体には支給対象経費の2/3、同団体以外の建設事業主団体には支給対象経費の1/2が助成金として支払われる。主な要件としては、事業者登録や技能者登録、能力評価および見える化評価の事務手続の実施があげられる。

(6)若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)

若年および女性労働者の入職や定着を図ることを目的とした事業を行った建設事業主や建設事業主団体、または建設工事における作業についての訓練を推進する活動を行った広域的職業訓練を実施する職業訓練法人に対して助成している。

前者の場合、中小建設事業主には支給対象経費の3/5、中小建設事業主以外の建設事業主には支給対象経費の9/20、中小建設事業主団体には支給対象経費の2/3、中小建設事業主団体以外の建設事業主団体には支給対象経費の1/2が支払われる。また、後者の場合には支給対象経費2/3が支払われる。主な要件としては、技能の向上を図るための取組みの実施があげられる。

(7)作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)

以下に対して助成している。
1)被災三県に所在する作業員宿舎、作業員施設、賃貸住宅を賃借した中小建設事業主
2)自ら施工管理する建設工事現場に女性専用作業員施設を賃借した中小元方建設事業主
3)認定訓練の実施に必要な施設や設備の設置、または整備を行った広域的職業訓練を実施する職業訓練法人

助成金額は1)の場合に支給対象経費の2/3、2)の場合に支給対象経費の3/5、3)の場合に支給対象経費の1/2が支払われる。主な要件として、作業員宿舎等の確保があげられる。

(8)外国人労働者就労環境整備助成コース

外国人特有の事情に配慮した就労環境の整備を通じて、外国人労働者の職場定着に取り組む事業主に対して助成している。助成金額は、支給対象経費の1/2(上限57万円)。ただし、賃金要件を満たした場合は2/3(上限72万円)となっている。主な要件としては、就労環境整備措置の導入・実施や離職率目標の達成があげられる。

(9)テレワークコース

2021(令和3)年度に新設された。良質なテレワークを制度として導入・実施することにより、労働者の人材確保や雇用管理改善に向けて効果を上げた中小企業事業主に対して助成している。助成金額は機器等導入助成の場合は、支給対象となる経費の30%、目標達成助成の場合は、支給対象となる経費の20%となっている。主な要件としては、機器等導入助成の場合に評価期間(機器等導入助成)において、1回以上テレワーク実施対象の労働者全員がテレワークを実施する、目標達成助成の場合は、評価時離職率が計画時離職率以下であることがあげられる。

このテレワークコースの直近の改正は下記の通りである。

▼2021年12月21日の改正
テレワーク勤務を試行的に導入、または試行的に導入していた事業主も対象となった。他にも、テレワーク用サービス利用料も助成対象とされた。

▼2022年度の改正
事業主に対し、全労働者に向けて「企業トップからのメッセージ発信・社内呼びかけ」や「事例収集及び社内周知」が助成金の利用の要件として追加された。

▼2023年度の改正
テレワーク用端末(PC、タブレット、スマートフォン)のレンタル・リース費用が助成対象に追加された。対象となる経費は最大6ヵ月分、合計77万円まで。また、賃金要件を満たした場合、目標達成助成の助成率を割り増しして支給する一方、生産性要件は廃止された。


なお、2021(令和3)年3月31日には下記の3つのコースが廃止されている。

・設備改善等支援コース
・働き方改革支援コース
・介護・保育労働者雇用管理制度助成コース

「人材確保等支援助成金」の申請の流れ

基本的には、計画書を作成して事業を実施する、その後目標の達成を確認した上で助成金申請を行えば完了となる。具体的な流れとしては以下の通りだ。

1)各都道府県労働局への雇用管理制度計画の提出
2)実施
3)目標達成の確認
4)各都道府県労働局への助成金の支給申請書の提出(終了後2ヵ月以内)

「人材確保等支援助成金」の注意点

最後に、「人材確保等支援助成金」に関する注意点も理解しておきたい。

●計画書提出の期間が限られている

前章で「人材確保等支援助成金」を申請するには、まずは雇用管理制度計画を提出すべきことを解説した。実は、これはいつ提出しても良いというわけではない。計画開始日の1~6ヶ月前の前日までと期限が限定されている。
例えば2024年1月1日に開始するなら、申請期限は2023年7月1日から11月30日までに提出しなければならない。このタイミングを過ぎてしまうと計画開始を延長せざるをえないので注意を要する。

●受給要件を満たす制度整備と継続的な運用が必要

●単に助成金を受給するだけの目的で労働環境改善に取り組むのでは意味がない。離職率を改善するには、従業員の正当な評価制度と継続的に運用していける体制作りが必要不可欠であるからだ。それだけに、長期的な目線で働きやすい環境づくりに取り組んでいかなければいけない。


「離職率を改善したい」、「従業員の頑張りに賃上げで報いたい」、「業務の効率化を図りたい」……といった考えをもつ事業者は多いはずだ。何らかの施策を打ちたいと意図しているのであれば、「人材確保等支援助成金」の活用を推奨したい。離職率の低下や賃上げが実現したら助成金が受給できる。仕組みとしてもわかりやすく、経営負担も軽減できる。

「人材確保等支援助成金」には9つのコースがある。自社にフィットしているコースがあるかもしれないので、しっかりとチェックしてみてほしい。時には、コースの廃止や休止が行われる可能性もあるため、活用したい内容があれば早めに申請に取り組んでみるといいだろう。

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