人事のミッションは 何であったか?
人事の仕事は大きく「確保」「育成」「評価」の3 つに分かれます。会社によっては採用・教育・制度・労働環境の整備など分野別に専任を置いている場合もありますが,多くの中小企業は兼務や少数精鋭で編成されています。よく人事担当者から聞く話として「人事部門の人手不足への不満」があります。しかし,ある小売企業では数名の人事スタッフで,1,300名の正社員を人事考課しながら,今年は125名の新卒採用を行い,定期的な教育訓練を実施し,制度構築や労働環境の整備を行っています。しかも,この会社は低迷する小売業界にありながら20年以上にわたり増収増益を続けているというから驚きです。ここで考えさせられるのが「人事のミッション」です。前出の小売企業の人事部長がおっしゃった言葉がすべてを物語っています。それは,「誰のための人事なのか?」「何のための人事なのか?」という問いです。
組織である以上,ある目的を持ち全員が一丸となって進んでいくのは当たり前ですが,会社の原理で人事業務を行った場合,その組織は高い確率で衰退するか最悪の場合は崩壊します。企業は資本主義や経済活動のなかでシェア争いや企業間競争に日々さらされていますが,その構図をそのまま一緒に働くかけがいのない仲間に強要してしまうと,仮に短期的な成長や成果を残せたとしても持続的な成長や成果は無理です。疲弊する企業と同様に,働く個人が疲弊してしまい,とても持続可能とはなりません。しかも,その先陣を人事部門が担うとしたら本末転倒です。
「組織のための人」か 「人のための組織」か
私が経営者や人事の方と面談した際に必ず確認する二択に「組織のための人なのか?」それとも「人のための組織なのか?」という究極の質問があります。組織としての目標が同じだったとしても,この2つは目標までのプロセスが全く正反対になります。プロセスが正反対ということは必然的に採用・教育・制度など人事にまつわる業務も似て非なるものになってきます。前者は“会社の原理”で人事業務を行い,後者は“人の原理”で人事業務を行います。違う言い方をすれば前者は“人材消費型”,後者は“人財主義型”です。残念なことに私の見てきた企業の8 割は前者でした。いかに多くの経営者や人事担当者が「人事のミッション」を履き違えているか痛感させられます。会社という組織は人の集合体です。いくら経営者や人事が優秀だったとしても,商品を開発し製造し販売し納品する人たちがいなければ成り立ちません。人事は,そうした多くの人が活動するための重要な根幹を担うポジションです。もとより,原材料や資源の乏しい日本にとって財産は「人」しかありません。企業であれば,商品を開発するのも製造するのも販売するのもすべて「人」「人」「人」です。書いて字の通り「人事」は,唯一「人」の「事」を司る大切な部門です。人事は,決して「他人事(たにんごと)」であってはなりません。
ある“人材消費型”の組織は数年間で売上を10倍へ急成長させたものの,「組織のための人」という方針から極端な能力主義や競争原理を導入しました。私は幾度となく方針転換を促しましたが,人事責任者は「今が重要なときだから」と耳を貸しませんでした。結果的に業績の伸びとは裏腹に年々辞める社員が相次ぎ,退職率20%,メンタル不調者10%以上という状況に陥りました。短期的な利益を追い過ぎたために,せっかく採用費をかけて入社してもらった社員を退職に追い込み,メンタル休職者への休業補償という代償も負うことになったのです。その後,その組織が衰退へ向かったことは言うまでもありません。
人が成長するから 組織も持続する
第1回の「持続する組織人事の共通点」は,プロローグとして人事のスタンスやマインドである「人事のミッション」と「人のための組織」について触れさせていただきました。身近な業務に置き換えれば,採用では「一生一緒に働く家族」という想いを持って選考しているか? 教育では「自分の子供が成長するために必要なこと」と同様に考え尽くした計画か? 評価では「面談シートではなく相手の目を見て」この1 年間の良かったこと悪かったことを伝えているか? といったことになるでしょう。持続可能な組織とは,“そこで働く人が成長し続けているから組織が持続可能な成長を続けている”のであって,組織が成長しているから人が成長しているわけではありません。次回からは具体的な人事業務を取り上げ,事例を交えながらお話をしていきたいと思います。安定的に成長し続ける 組織の共通点とは?
最後に,弊社が今まで支援してきた組織と10万人以上の個人へリサーチした結果から,個人が安定的に成長し持続して組織成果を収めている共通項を紹介させていただきます(図表)。景気・業界・規模・立地などに関わらず,好業績の個人はこれらのポイントが高いレベルを示しており,組織的にも仕組み化されていることが実証されています。人事の皆様には,これらの項目を自社に置き換えて個人や組織の状況をご確認いただければ幸いです。- 1