第1回目の今回は、「雇用率対象企業になったときに、はじめに知っておきたい3つのポイント」についてお伝えします。
「障害者雇用率2.3%」の引き上げで変わること
令和3年3月1日から、障がい者の「法定雇用率」が引き上げられます。これにより、民間企業が達成しなければならない「障害者雇用率」は、2.2%から2.3%へと、0.1%上昇します。これにともない、障がい者雇用の対象事業所は、今まで「従業員45.5人」でしたが、「従業員43.5人以上」に広がります。そして、障がい者を雇用しなければならない事業主には、次の義務が生じます。
・毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告する必要がある
障がい者雇用対象企業には、毎年6月1日時点の雇用している障がい者の状況(障害者雇用状況報告書)を本社の所在地を管轄するハローワークに報告する必要があります。この報告は、「ロクイチ調査」と呼ばれており、企業ごとに集められた情報をまとめ、厚生労働省が「障害者雇用状況の集計結果」として発表します。
・ 障がい者の雇用の促進と継続を図るための「障害者雇用推進者」を選任するよう努めることが求められる
「障害者雇用推進者」とは、国との連絡窓口として雇用管理や雇入れ計画の作成、届け出などの手続きをする責任者のことです。事業主には選任の努力義務があります。
自社が「障害者雇用率」の該当企業になったら知っておきたい「3つのポイント」
障がい者雇用は、人事労務の中でも、法律や制度についての知識や、企業の中で実務的に推進していくスキル、そして、福祉や教育機関との連携など、幅広い知識や実務能力が求められるものです。これらをスムーズに進めるために、知っておきたい「3つのポイント」についてお伝えしていきます。(1)障がい者雇用の法律や制度について知る
障がい者雇用の基本は、「障害者雇用促進法」という法律です。この法律で覚えておきたい点は、「雇用率制度」と「障害者雇用納付金制度」、「障害者雇用達成指導」についてです。
「雇用率制度」とは、事業主が雇用している全従業員のうち、一定以上の割合で障がい者を雇用する必要がある、ということです。今回、この法定雇用率が、民間企業にとって2.2%から2.3%に引き上げとなりました。なお、雇用率制度は、基本的に5年ごとに見直されることになっています。
「障害者雇用納付金制度」は、障がい者の雇用にともなう事業主の経済的負担の調整のためにあるものです。障がい者雇用は、設備や施設の充実を図ったり、雇用管理にリソースが必要になったりと、一般の雇用よりもコストがかかることが多く、このような事業主の負担を社会で連帯して負っていくという考えのもとに成り立っています。
そのため、障がい者雇用が未達成の企業は、「障害者雇用納付金」を納める必要があります。雇用すべき障がい者の人数のうち、不足1人につき、月額5万円の雇用納付金が徴収されます。なお、徴収された納付金は、以下のような使い道で活用されます。
・事業主が障がい者雇用を促進するための作業設備や職場環境を改善する
・雇用管理や能力開発をおこなうなどの各種助成金
・雇用を多くしている事業主への調整金
「障害者雇用率」が達成できない場合には、障害者雇用納付金を納めることになりますが、納付金を支払ったからといって、該当企業は、障がい者雇用を免除されるわけではありません。
法定雇用率が大幅に未達の場合には、その企業を管轄するハローワークから「障害者の雇入れ計画書」の作成命令が出されます。さらに、それでも計画通りに進まない場合には、「行政指導」がおこなわれ、場合によっては「社名公表」となることもありますので、注意が必要です。
(2)障がい者雇用について組織の方針を決め、進め方を検討する
障がい者雇用は、単に障がい者を採用し、雇い入れるだけではうまくいきません。障がい者雇用を進めるためには、「組織としての方針」を決めて、「どのように障がい者雇用を進めるべきなのか」を検討する必要があります。
それぞれの企業によって、障がい者雇用への考え方は異なります。例えば、「障がい者が担当する業務」というひとつを取ってみてもそう言えます。ある企業では、障がいの有無に関係なく、一般従業員と同じように勤務して、仕事のスキルアップや専門性を磨くことを求めるかもしれません。また、他の企業では、「障害者雇用率の達成」が優先で、「業務内容は定型的なものにしたい」と考えるかもしれません。
そして、同じような業種や従業員数の企業であっても、社風や、一般社員の考え方、障がい者雇用の受け入れ方は、それぞれ異なります。こういったことを総合的に考慮し、自社ではどのように障がい者雇用を進めていくかを考えていくことが大切です。
障がい者雇用を効果的に進めていく企業を見ていると、多くの場合、次のようなステップを踏んでいます。
step1:社内の障がい者雇用の「方針」を決める
step2:自社に合った障がい者雇用の「理解促進」をおこなう
step3:障がい者が従事する業務の抽出と切り出しをおこなう
step4:採用活動をおこない、入社前に現場の受け入れ体制を整備する
step5:採用した障がい者が職場定着できるフォロー体制をつくる
「障がい者雇用をしなければいけないから」と、性急に採用活動をはじめるのではなく、まずは、障がい者雇用の「方針」を決め、障がい者を受け入れる体制づくりとして「社内理解」や「業務の切り出し」などの事前準備をしていくことが大切です。
(3)障がい者雇用を支援する機関があることを知る
障がい者雇用は、企業が取り組むべきものですが、障がい者雇用を推進するための「サポート機関」がたくさんあります。
障がい者雇用を支援する機関は、以下の2つに分けることができます。
・障がい者雇用についての相談ができる機関
・障がい者が訓練する機関
これらを活用することによって、障がい者雇用を進めやすくすることができます。以下で、「相談機関」と「訓練機関」のそれぞれを詳しく見ていきましょう。
新雇用率を達成するために活用できる「相談機関」と「訓練機関」
●障がい者雇用について「相談」ができる機関
・ハローワーク障がい者をこれから雇用しようとする企業や、すでに雇用した企業に対して、「雇用管理上の配慮」についてのアドバイスや、必要に応じて地域の障がい者機関の紹介、各種助成金の案内もおこなっています。障がい者求人の登録や、助成金の窓口にもなっています。
【さらに詳しく】HRプロ:障がい者雇用の悩みと解決のヒント「企業が障がい者雇用で活用できるサポート機関とは【2】ハローワークを活用する」
・地域障害者職業センター
「障害者職業カウンセラー」や「配置型ジョブコーチ」などが配置されており、障がい者雇用の専門的な役割を担っている機関です。ジョブコーチを活用したいときに、依頼をすることができます。
・障害者就業・生活支援センター
障がい者の就業と生活の両方をサポートする機関です。「就労支援員」と「生活支援員」がいて、企業で働くことに加えて、生活に関わる住まいや、役所への手続き、家族支援なども含めて、さまざまな日常生活の支援をおこないます。
【さらに詳しく】HRプロ:障がい者雇用の悩みと解決のヒント「企業が障がい者雇用で活用できるサポート機関とは【4】『障害者職業センター』、『障害者就業・生活支援センター』を活用する」
●障がい者を採用するときに活用できる「訓練機関」や「学校」
・就労移行支援事業所就職を希望する障がい者に、仕事をするうえで必要なスキルや職業訓練、面接対策などを通して、就職活動のサポートをしている機関です。また、就職後も、雇用した障がい者がその企業に定着できるよう、一定期間、事業所を訪問したり、相談にのったりするサポートをおこないます。
【さらに詳しく】HRプロ:障がい者雇用の悩みと解決のヒント「企業が障がい者雇用で活用できるサポート機関とは【3】就労移行支援事業所を活用する」
・障害者職業能力開発校、国立リハビリテーションセンター
「障害者職業能力開発校」は、障がい者の適性に合った職業訓練や高度職業訓練をおこなうための「公共職業能力開発施設」です。全国に19校(国立が13校、都道府県立が6校)が設置されています。国立13校のうち2校は「国立リハビリテーションセンター」として、独立行政法人高齢・障害者・求職者雇用支援機構が運営しています。
学べる内容としては、ITを活用する専門的な技術や、事務職に必要なスキル、パンやお菓子作り、園芸、機械・建築関係など、さまざまなコースが設置されています。
・特別支援学校
障がいのある子どもたちの自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援する教育がおこなわれている学校です。高等部からの就職率は3割ほどになります。
学校生活の中で就職に向けた準備をおこなっており、学校内の実習や作業訓練、企業での現場実習などを通して、社会に出るための支援をしています。
例えば、知的障がいの特別支援学校高等部では、ビルメンテナンス・清掃、流通サービス、食品加工、介護、情報処理やパソコン使用のスキルを学ぶコースなどを設置しており、「就職を意識した実習や授業」がおこなわれています。
【さらに詳しく】HRプロ:障がい者雇用の悩みと解決のヒント「企業が障がい者雇用で活用できるサポート機関とは【5】障害者職業能力開発校、特別支援学校を活用する」
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