ここまで、DXイノベーション人材(以下、DX人材)をいかに効果的に育成するかを書いてきた。「育成」や「採用」とともに重要なのが、企業がDX人材に最高のパフォーマンスを発揮させることができる組織であることだ。今回は、どのような組織が、DX人材のパフォーマンスを最大化できるのか、そのために人事がとるべき手段とはどのようなものなのかについて、詳しく考えてみたい。
DX人材のパフォーマンスを最大化する組織とは?(第5回)

DX人材が活躍できる環境とは? 育成期間が終わっても成長は止めてはいけない

前回(「DXのトレンドは、非常事態下の今どうなっているのか?」第4回)では、閑話休題として「DXのトレンド」についてお話しした。その間に「DX検定」でエキスパートレベル認定されたので、ご紹介したいと思う。

【参考】DX検定(ITBT検定)とは?
これからの社会の発展・ビジネス全般に必要な、デジタル技術によるビジネスへの利活を 進める人財のために、毎日爆発的に増加するバズワードを確かな知識にする、先端IT技術 トレンドとビジネストレンドを幅広く問う知識検定。2018年7月に創設された。
DX人材のパフォーマンスを最大化する組織とは?(第5回)
この「DX検定」では、DXに関わる言葉を知っていること、そして、どのようなビジネスモデルなのか、どんな技術が使われているのかを幅広く理解していること、すなわちリテラシー(理解し活用できる力)が問われる。

DXスキルといっても、経験や実現する力をチェックするものではない。「それでは意味ないのでは?」と思う人がいるかもしれない。特に、現在DX関連業務に携わっている人は物足りないであろう。そのような人には、次のステップとして、それぞれの分野について詳しいアセスメント(レベル診断)を受診して欲しい。ただ、筆者個人としては、この検定は、既にDX関連業務に関わっている人こそ受けてみてほしいという気持ちもある。さまざまなDXソリューションのアイデアをどのぐらい繰り出せるかを一度チェックしてもらいたいからだ。

現在の日本企業で求められる技術は、応用の幅が狭く、多様なソリューションアイデアという面では弱いといえる。その理由は、日本はスペシャリスト指向が強く、幅広い知識で千手観音のように八面六臂の活躍する人材よりも、専門分野に詳しい学者肌を好む傾向にあるのではないだろうかと思っている。

日本においては、いきなり専門知識に詳しくなることで、スペシャリストとしてチヤホヤされてしまう。しかし、本来は、スペシャリストといえども、最低限の知識は幅広く持っているうえに、いくつかの専門分野を得意とする「T字型人材」を目指すことで、一人ひとりのカバレッジ(対応可能範囲)を上げていくことが、組織にとっては重要なはずだ。また、DXの最新トレンドは常に流動的に変化しており、幅広くかつ深く知ることは容易ではない。実際に、業務上すべて必要な人もそんなに多くはないだろう。
DX人材のパフォーマンスを最大化する組織とは?(第5回)
近年の事業の中心はソリューションビジネスであり、しかも、従来の方法だけでなく最新のデジタル技術を含めたDXに対応していかなければ、生き残れない。他社よりも効果的なビジネス戦略に対応することが必要なのである。経営・現場の両サイドのどちらにおいても、一定水準のDXに関する知識、リテラシーがなければ、会話やディスカッションが成り立たず、ビジネスが進まないのである。

どんな仕事も、DX、特に「デジタル化」と「AI活用」により、ビジネスを加速しなければならないことを考えれば、社員全員がDXについて興味関心を持つことは重要だ。まずはDXについて、具体的な事例を通じて理解を深め、DX検定でハイスコアを目指して重要なキーワードについて勉強する事で知識のベースを固める。これが、全社員に求められる、一番大切なことである。一通りトレンドキーワードを覚えていれば、知らなかったならスルーされていた言葉でも、日頃のテレビやネット、会議や会話の中でそのワードが出てくるたびに頭に入ってくる、という「自動学習システム」に変わるのだ。

DX検定を利用して、学生や新入社員は確実に学ぶべきである。さらに、実務として関わる人は、学ぶだけでなく一定以上の得点獲得を狙って欲しい。その水準とは、以下の通りだ。

・600点以上:スタンダードレベル
・700点以上:エキスパートレベル
・800点以上:プロフェッショナルレベル


これ以上の知識は、その都度ネットで調べればよいレベルとなる。このぐらいまでは、普通に仕事をこなすビジネスパーソンとしては、受験勉強と同様に使うかどうかにかかわらず丸暗記すべき最小限の内容といえるだろう。勉強すれば獲れるスコアレベルであるが、まずは、仕事外で勉強する時間を作る能力、つまり「タイムマネジメント力」が問われるので、その能力を養う意味でもチャレンジしてみてほしい。

また、各社の人事担当にとっては、最低限の必須知識のレベルと、社員の知識レベルの把握が可能になるので、活用してみるとよいだろう。

DX人材は「育成」だけでなく「活躍」しなければ意味がない

さて、本題に戻るが、冒頭の通り、ここまで、DXイノベーション人材の育成や採用について話してきたが、最も重要なことは「DXを推進する能力がある人が育ってくれること」だ。しかし、ここからが本番なのである。なぜなら、ほとんどの育成施策が、「育てる」だけで満足してしまうからである。多くの企業において、「育てる人(組織)」と「活躍させる人(組織)」が違うという点が原因のひとつであろう。わかりやすい例では、社員を海外留学させたのに、戻ってきたあと、グローバルな仕事に携われないような話である。これは、すべてのビジネスパーソンが常に気を配らねばならない大事な「考え方」である。

よくビジネスの世界で「プロフェッショナルとは?」という問いがあがる。あなたならば、どのように答えるだろうか? もちろん、「金を稼ぐ」という答えは正解には足りない。「貢献」して初めてプロフェッショナルと呼べるのである。

ところが実際はどうだろうか。例えば、すごい資格の保有者だと知ると、多くの人がそれだけでプロフェッショナルだと感じてしまうのだ。しかし、弁護したことがない弁護士や、医療の経験のない医師を、「ビジネスの観点」からはプロフェッショナルと呼んではいけないのである。DXについても同じことがいえよう。AIやデータサイエンスの最新事例をどれだけたくさん知っていて、どれだけ語れようとも、それだけではプロフェッショナルとは呼べない。顧客や組織に対する「貢献」があって、初めてプロフェッショナルなのである。

人材育成を担当していると、残念ながらこれが抜けてしまっている場面をよく目にする。もともと、人材育成の世界では「研修が好評」であれば満足してしまう傾向がある。研修は「手段」であって「目的」ではない。そもそも、受講者に好評かどうかは本質的な問題ではないのだ。

一番問題なのは、受講生に対するアンケートであろう。「時間は適当であったか?」、「講師はわかりやすかったか?」……など、研修仕様について評価を求めているものが多いが、受講生を「評論家」にしてはいけないのである。本来は、「何を理解できたか?」や「今後どう活かしていくか?」など、アンケートを通じて、本人が自身の成長のためにすべてのカリキュラムを活かせるよう最終確認をして、「歯止め」をかけることでようやく成長につながる。評論家にしてしまうと他人事になり、成長につながらないリスクが高いのである。

人の成長を促して、貢献できるプロフェッショナルにすることが、本当のゴール。DX人材を苦労して育成しても、その人が活躍しないならば意味がないのである。

DX人材が「活躍」するための条件

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