新卒者と転職者の両方の支援に関わっていることは双方の仕事にとってメリットだらけだったりするのですが、それでもやはり、転職市場における中高年の支援は難しいと言わざるを得ません。地方の場合は中高年の人材ニーズは絶対的に少ないですし、さらに中高年ともなると、子供の進学を控えていて希望年収が高いということもあるからです。
中でも特に苦労するのは、新卒で大手企業に入社してその会社でずっと勤務していて、中高年になって初めての転職活動を行う人達です。なぜこういう方々の支援が難しいのか、一言で言うと、「転職市場における自分の相対的な値付けに対する認識が持てない」ということに尽きると思います。能力の有無というより、気持ちの切り替えができず、現実的な選択肢の中で意思決定することができない方が多いように感じるのです。
「これまでこれだけもらっていたからこの金額は譲れない」とか、「新卒で今の会社に入ることができたのだからそれなりの条件で迎えてくれる企業があるはず」という思いをなかなか断ち切れません。例えて言うなら、MLBの世界でバリバリ活躍していた選手がNPBに移籍してきたものの、ベースボールと野球のギャップに対応しきれずにいる、といった感じです。
私の場合、30代早々に地方(北陸)で同業他社に転職し、それから39歳で再び東京の大手に転職したのですが、最初の転職はそれなりにきつかった印象があります。同業ではあったものの、大手企業の資本の入った比較的しっかりした考え方の会社から、いわゆるベンチャー企業で創業者の価値観の色濃く反映されている企業風土に馴染むのには、とても苦労しました。今まで白と思っていたものが黒とされるような、そんな大きな価値観の違いを実際にいくつか体験しております。
ちなみに、次に東京の大手企業に転職した際は、会社によって価値観に違いがあるということに、ある程度耐性ができていたので、割と冷静に対処できたように思います。また、そのように「相対化して物事をみる」という思考が、その大手企業に新卒から入社してきた方との差別化にもつながっていたと感じています。
さて、話を元に戻しましょう。名だたる有名企業であっても終身雇用の維持が難しいということは、今後、さらに企業側の余剰人員のリストラが進む可能性があるということだと思います。
自分の経験の延長線上でモノを見ることしかできていないとは思いますが、中高年になって初めて転職活動を行うことについては、上述したようなさまざまなリスクを抱えざるを得ないと思っています。
一方、若手の転職相談で最近増えていてちょっと困るのが、「もっと条件の良い会社に入りたい」という相談です。つまり、やりたいことがあるわけでなく、もっと良い条件を手に入れたいという話で相談に来るのです。そうすると、こちらとしても売り込みが難しいですし、本人も応募書類に志望動機がなかなか書けなかったりします。
こういう相談が増えている理由は明白です。今は言わずと知れた売り手市場ですから、あまりそのあたりについての自己理解がなくても、ちょっと就職活動をすると、すぐに内定がもらえます。他より条件の良い会社にさえ決まれば、面倒な就活などさっさとやめてしまおうと考えているのです。
6、7年前だとこのようなレベルではなかなか内定がもらえませんでした。就活を続ける中で少しずつ自己理解を深めていって、それにつれて応募する会社の選び方も変わっていき、そして最終的に何とか納得感の高い内定先を得るという感じでした。
さて、こうやって中高年と転職と、今の売り手市場の学生の就活を比べると、ある共通点があることに気づきます。それは、「転職先に最初に条件を求めること」です。
求人側は働いてくれる人を求めており、少なくともそれに対する意欲や経験、想いを期待しているのに、残念ながら求職者側は、中高年も若者も、そういう視点で会社を選んでいないということですね。これは「根っこの部分で仕事選びの考え方が成熟していない」と言えると思います。
とは言え、若者のほうは、少子高齢化の影響もあり、次の仕事を見つけることは比較的容易です。ただし、よりよい条件の会社に移ることはかなり難しいので、不満を持ちながら今の会社に残るか、もしくは良い条件を求めて転職活動を繰り返すかでしょう。言ってみれば、仕事にやりがいを求めない、あるいは求める考え方をしない、ということでしょうか?
これって実は、日本の労働社会のかなり深い問題にかかわっている気がします。
ちょっと長くなりそうなので、次回のコラムでこの話題をもう少し掘り下げるとともに、自分なりの改善案を考えてみます。
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