金沢大学の学内合同企業説明会も、3月1日からスタートしました。当日はものすごい風雨で、関西、中京方面の鉄道は全面運休になったほどの荒天でしたが、予想より多くの学生が参加してくれて、ホッと一息といったところでした。
第65回 2019就活スタート
しかし、この日が就活のスタートという学生が思ったより多いという状況が、動員増加につながった部分もあり(すでに就活を始めている学生は学内合説には参加せずに飛び回っている)、なかなか悩ましい部分もあります。企業側の動きはすでに1dayインターンシップに参加してくれている学生の囲い込みを中心としたステップに進んでいくと思われるので、仕掛かりの遅い学生は見劣りしてしまう懸念があります。売り手市場なので全般的にそれほど心配するような状況ではないと言えるのですが、それでも気苦労は絶えない状況です。

主催者側としては、せっかくお越しいただいた企業の皆さまの各ブースに、あまねく学生に座って欲しいと思いながら見て回っているのですが、少々気になる点があります。

それは、どの会社も説明の内容がここ数年、ほぼ変わっていないという事です。どの企業もプレゼンの資料や、話す内容は、明らかに洗練されてきています。しかしいずれも、事業紹介や会社のPRなど、いかに“魅力的な会社”であるかを伝えようとする内容ばかりです。本当にそれで良いのでしょうか?

2019年卒学生の就職先人気企業ランキングなどを見ていると、最近マスコミでも報道され始めているように、メガバンクの人気に陰りが出てきたり、就活エリート学生が大手に行かなくなっていたりと、世の中の変化に敏感に反応している学生が増えています。おそらくこれからの10年は、社会全体にかつてないほどのものすごい変化が押し寄せる時代になるでしょう。そんな中で自分の未来を託す企業を探さなければならないのが、2019卒の学生達です。採用氷河期や超売り手市場という直近の環境に惑わされて、浅い企業研究でもそれなりに内定をもらえる環境であるのも間違いないと思っていますが、そんな浅はかな就活しかしない学生を、“これからの激動期を迎える企業の未来を託す仲間”として迎え入れてよいのでしょうか?

プレゼン資料や話す内容として、「我々の企業、業界はこれからこんな変化に直面し、こんな課題に向き合わなければならない、我々はそれに対してこんな戦略を持って立ち向かおうとしているが、一方でこんな悩みを抱えている。決して楽な仕事ばかりではないが、ともにこの難局に立ち向かってくれる仲間を私たちは採用したい…」みたいな話は、どの企業からも現時点でほとんど聞いたことがありません。

就活を始めたばかりの時期にいきなりそんな話を聞いたら、大半の学生は引くと思います。しかし、本学でもあるレベル以上の学生が真面目に就活をすると、その業界を取り巻く環境や課題などの情報は入ってきます。学生たちは当然、そうした課題に立ち向かう思考や戦略などを知りたがると思うのですが、そうした気持ちにきちんと応える姿勢を持った企業がどれだけいるのか、個人として、加えて会社としての戦略方針を踏まえた、本当の意味で親身になった話が、採用の現場でどれだけできているのでしょうか?

一方で、ゲームチェンジを狙うようなベンチャー企業は、メッセージにブレがありません。その結果、就活をガッツリやる学生は大手に行かずに、このようなベンチャーに流れているように感じます。

時代の変化に対する感性は若者の方が優れているのは、いつの時代も変わらないと思います。とはいえ、自己肯定感が低く何かに依存しないと生きていけないような考え方も、一定数います。こうした学生は総じて働くことにネガティブで、お金を稼ぐことに嫌悪感を抱く者すらいます。これらは視野が狭く、また経験値が不足しているための思い込みに過ぎないことが多いのですが、そうした学生に、気づきと自己変革のきっかけを与え、経験を通して自己肯定感を高めてもらい、結果、意識と行動が変わるところまで導くのが、大学の使命です。その意味において就活は、ハマると学生が急激に成長するイベントでもあります。

しかし残念なことに、売り手市場の中で、働くことに対しネガティブな姿勢を持ったまま、内定を得、そこで就活を終えてしまう学生が年々増えています。意識と行動が変わらないままの学生が、その状態で本当に社会人としてやっていけるのか? そうした学生を採用した企業が今後、環境変化の激しい時代で生き残っていけるのか? 不安がつきません。

ですが、なかなか今の売り手市場の環境では、学生と企業の直接的な接点で、踏み込んだ話をするのは難しいかもしれません。そこで私たち大学側が、間に入ってそうした話をするようなイベントを開催したほうがいいのかと、目下、思案中です。
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