社員教育は 褒めたうえで率先垂範

良い仕事をさせたければ,その人物の良い側面をまず指摘して認め,「いい感じ」を持たせることだ。そのうえで「もっと良くなる」ためのアドバイスをすればよい。初めからやる気のない人間は別だが,たいていはどこかひとつくらい見どころはあるものだ。それを認めてからアドバイスをするのと,頭ごなしに命令するのとでは,受け手の心証もモチベーションも全く異なる。

 先の経営者は,自分の会社の社員を動機づけるのにも長じている。例えば時間管理の習慣を身につけさせるとき。彼は部下たちに,お客が来訪するときはビル1階の受付まで降りてお迎えしなさいと説いている。どういう間柄であれ,先方にご足労いただくのだから,そのようにして出迎えるのが作法だとして。午前10時の約束であれば,数分前には仕事を終えて1階に降りる。先方は気分を良くし,両者とも悪い気はしない。そのような習慣を通じて,社員は自然と時間意識を高め,タイム・マネジメントのコツを会得する。

 「○○会社の課長さんが喜んでいたよ。君が受付で出迎えてくれて,とても嬉しかったと」こんなふうに上の者から声をかけられると,社員の気持ちはさらに高揚する。何気ないことのようだが,ここには職場のコミュニケーションに関する重要なポイントがある。意識を高めたければ,自然にそれが身につくような仕掛けを施すということだ。「時間を守れ」とうるさく言うだけでは,時間意識はなかなか身につかない。時間を守らざるをえないような場面を作り,それを実行すれば自分も気持ちが良くなる,そんな機会を与えるのがベストなやり方だ。

 ちなみにこの経営者は,自身も来訪者を受付で出迎え,それの姿を部下への見本にしている。「なにせ小さな会社だから,上の者がやってみせないことには社員は動かない」とは本人の弁だ。しつけにせよ教育にせよ,すべて上の者が率先垂範することによって教えている。

 「やってみせ 言ってきかせてさせてみて 褒めてやらねば人は動かじ」とは,よく知られた山本五十六の言葉である。しかし,頻繁に引用される割には,職場でそれほど実践されていないように感じるのは,私の管見だろうか。

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