褒めて信頼関係を築き 馴染みの客になる人
続いては,店に入る側のエピソードだ。筆者の友人に,客としてのマナーがとても良い経営者がいる。行きつけの料理屋へ誘ったとき,こんなことがあった。湯豆腐を注文したところ,間違えて揚げ出し豆腐が出てきた。その旨を注意して取り替えてもらおうとすると,「ぼくは揚げ出し豆腐も好きだから,これ,いただくよ」とのこと。すぐに店主が現れて頭を下げたが,「間違いはしょうがない。でもこの揚げ出し豆腐,うまいねえ。なかなかのものだ」と友人は褒める。続いて魚の煮物をオーダーすると,明らかにふだんより大きなものが出てきた。一事が万事,寿司屋に立ち寄っても,「ここのマグロはうまいねえ。今どき,こんな立派なマグロを食べられるとは嬉しい」などと板前に声をかける。言われたほうも悪い気はしない。次にマグロを頼むと,気のせいか,さっきより良いネタになっているという寸法だ。
うまいものを食べたければ「うまい」と言うに如くはない。作り手は気を良くして,さらにうまいものを作ろうとする。理屈では分かることだが,実行するのはけっこう難しい。
同じようなことは人材育成に関してもいえる。