HR総合調査研究所(HRプロ)が実施した「人事システム・BPOに関する調査」をもとに、人事システムとBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の導入状況を探る第2回目。今回はタレントマネジメントシステムとBPOにフォーカスし、現状と今後の動向をみてみたい。

「タレントマネジメントシステム」導入企業の高い満足度

「人事システム・BPOに関する調査」結果報告【2】

「研修受講管理システム」よりもさらに少ないのが、各人事系システムを統合した「タレントマネジメントシステム」の導入だ。導入済みの企業はわずかに6%だ。導入を検討中の企業も8%と少ない。企業規模別で見ると、「1001名以上」で12%とやや多いが、48%は導入予定がない。「301名~1000名」や「300名以下」は7割以上で導入予定がない。

図表1 タレントマネジメントシステム導入状況

「人事システム・BPOに関する調査」結果報告【2】

「タレントマネジメントシステム」を導入している企業に開発形態を訊ねたところ、パッケージが52%とやや多いが、自社オリジナル開発も44%とほぼ拮抗している。
 また利用環境では自社サーバが74%と多く、PCは4%と少ない。クラウドは18%だが、今後は増えてくるだろう。そして「タレントマネジメントシステム」の満足度は高く、満足と回答した企業は8割に達している。満足の理由をフリーコメントから紹介しよう。
「抜擢人事等、多角的・効率的に進めることが可能」「人事情報を一元管理できる」「必要な情報の抽出や選択がしやすい」。また「検索やシミュレーション作業を行うため、習熟度を要する」との声もある。

図表2 タレントマネジメントシステムの満足度

「人事システム・BPOに関する調査」結果報告【2】

「タレントマネジメントシステム」をまだ導入されていない企業に対して、個別のシステムについての満足度を聞いたところ、「どちらでもない」との回答が57%と最も多い。「満足」とした企業が19%だったのに対し、「不満」とした企業が24%とやや多くなっている。
 不満の理由を見てみると、「個別システムでは、汎用性・柔軟性が不足する」「DBが増えて管理が煩雑」「データの追加・修正・削除などを複数回入力する必要があり、その確認に手間がかかる」「社員個々人の能力を把握するのが難しい」などの声が多い。タレントマネジメントシステム導入企業では、「不満」との回答は1社もなく、対照的な結果となっている。

図表3 個別システムの満足度

人事系システムベンダーの選定基準は、カスタマイズ対応力と人事業務への精通度

「人事システム・BPOに関する調査」結果報告【2】

人事系システムを提供する多数のベンダーから1社を選ぶ基準は何か? 今回の調査では「カスタマイズ対応力」55%と「人事部門の業務への精通度」53%の2項目が過半数を占めた。続いて「価格競争力」44%、「画面の操作性」42%が4割を超えている。「情報提供力」や「コンサルティング力」はそれほど期待していない。
 そして人事系システムベンダーに対する要望として挙げられているのは、「業務効率化」30%、「統合管理」18%、「コスト削減」15%、「操作性・GUIの改善」15%、「システムメンテナンス対応」12%などの項目だ。

図表4 人事系システムベンダー選定基準

BPOを利用している企業は全体の2割

「人事システム・BPOに関する調査」結果報告【2】

人事部門の業務を外部の専門業者に任せるBPOの利用状況について聞いたところ、BPOを利用しているのは全体の2割に留まった。検討中の企業は8%に過ぎず、6割が利用する意思を持っていなかった。そして「BPOがよくわからない」と回答した企業が12%あり、日本では人事業務のBPOがまだまだ普及していないことがわかる。
 規模別に見ると、「1001名以上」は「利用」(30%)+「検討」(18%)=48%と半数近くになるが、「301名~1000名」では「利用」(21%)+「検討」(6%)=27%と激減し、「300名以下」では「利用」(16%)+「検討」(4%)=20%になる。規模による差が大きいようだ。
 BPOを利用しない理由だが、いろいろある。最も多いのは「社内スタッフで対応できている」が67%と3分の2を占めている。他の理由はぐんと少なくなり、「外部に委託することが不安」が33%、「コストが高そう」が32%、「柔軟な対応ができなそう」が21%だ。これらの理由を見ると、人事のBPOに関する理解が進んでいないように見える。

図表5 人事業務でのBPO利用状況

利用するサービスは「年末調整」、「給与管理」、「社会保険管理」

「人事システム・BPOに関する調査」結果報告【2】

BPOで利用しているサービスだが、全体で多い順番は「年末調整」18%、「給与管理(給与・手当・賞与・税金・振込)」17%、「社会保険管理(資格取得/喪失・給付・納付等)」15%だ。
 他の「勤怠管理」「福利厚生管理(社宅/寮・財形・生保・慶弔・融資)」「人事システム保守」「採用管理(新卒・中途・アルバイト)」「人事システム運用」「人事記録(考課・職務履歴)」「人事制度運用(昇格・考課管理)」「要員管理(入社・異動・出向・退職)」「退職者支援(アウトプレースメント)」などの業務は10%を切っており、とても低い。
 ただ規模別に見ると、「1001名以上」ではサービスによって利用率が4割近い項目もある。

図表6 利用しているBPO

「人事システム・BPOに関する調査」結果報告【2】

今回の調査では「今後利用したいBPOサービス」も合わせて質問している。「現在利用しているBPOサービス」と合算したグラフを紹介する。10%以上の項目は、「給与管理(給与・手当・賞与・税金・振込)」28%、「社会保険管理(資格取得/喪失・給付・納付等)」28%、「年末調整」26%、「勤怠管理」15%、「福利厚生管理(社宅/寮・財形・生保・慶弔・融資)」15%だ。これらの業務は定型的で外部にアウトソーシングしやすいということだろう。
 10%を切っている項目は、人事制度や採用、考課に関するものだ。大手企業では、新卒採用で何らかのアウトソーシングを利用していない企業の方が珍しく、企業規模による差は大きそうである。

図表7 利用しているBPOと、今後利用したいBPOの合算

問題になるのはBPOベンダーの信頼性

「人事システム・BPOに関する調査」結果報告【2】

BPOベンダーの選定基準では、「人事部門の業務への精通度」が58%と唯一過半数の企業が選択している。次いで、「価格競争力」「法令改正対応力」を挙げる企業が多い。
 最後にBPO普及のための課題を紹介したい。人事担当者のフリーコメントを整理すると、下記のような課題から利用が進んでいないようだ。
 まず問題になるのはBPOベンダーの信頼性だ。その企業が倒産すれば、社内にノウハウが蓄積されていないので人事業務が滞ってしまう。データ流出の恐れもあるが、リスク管理を自社で完結できない。
 ところがBPOベンダーの信頼性を担保する評価法がない。評価ができなければ、ガバナンスができない。だからBPOベンダーを使えないという理屈だ。
 またBPOを利用するなら、なるべく多くの業務のアウトソーシングが望ましいが、社員との”つなぎ役”という役割を外注化できないので、中途半端なBPOならやらない方がいいという意見もある。
 コスト増も利用が進まない原因。「いったん依頼してしまうと費用が固定化する」という声がある。コスト増と関連して、社内の無理解もBPO利用を妨げており、「社内説明などの調整の難しさ」を挙げる声もある。
 BPOベンダーの努力不足もある。「“他社では対応していない”という理由でベンダーに対応してもらえない」という意見がある。
 日本でのBPOの普及には、まだ時間がかかりそうである。

図表8 BPOベンダー選定基準

【調査概要】

調査主体:HR総合調査研究所(HRプロ株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の人事担当者
調査方法:WEBアンケート
調査期間:2012年4月13日~25日
回答者数:163社(メーカー69社、非メーカー94社)

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