イノベーションやデジタル・トランスフォーメーションが人事の課題となる中、ITエンジニア(ソフトウェアエンジニア)の採用・定着・育成・風土改革に関する、人事の取り組みについて、実態調査を行なった。
今回は「制度設計」と「カルチャー」についてレポートする。

<概要>
【制度設計】
●8割以上がITエンジニアに対応した人事制度なし
●マネジメントを免除されたスペシャリストの存在
●ITエンジニアの「役職定年あり」が半数近く
●ITエンジニアの役職定年をどのように考えるか
●ITエンジニアに対応した人事制度の運用課題 「公平性」と「客観性」
●専門人材育成のための教育支援施策ありは4割
【カルチャー】
●「エンジニアファースト」の認知度は5割
●ITエンジニアにとって働きやすい「風土」はあるか

8割以上がITエンジニアに対応した人事制度なし

ITエンジニアに対応した人事制度の有無について質問したところ、56%の企業が「しばらく設計の予定はない」と回答した。この傾向はメーカーに顕著で、69%を占める。
「現在設計中」(10%)、「今後、設計する方針」(18%)も含めると、現在、そのような人事制度が存在しない企業が84%を占めている。1,001名以上の非メーカーでは、39%が「ある」と回答しているが、ITベンダーの回答も含まれるため、入社後のITエンジニアにとって、一般企業においてはまだまだ就業環境の整備は進んでいないといわざるを得ない(図表1)。

【図表1】ITエンジニアに対応した人事制度の有無(N=169)

HR総研:ITエンジニアを取り巻く人事の取り組みに関するアンケート 結果報告【制度・カルチャー編】

マネジメントを免除されたスペシャリストの存在

ここからは、ITエンジニアに対応した人事制度を設置しているごく少数(16%)の企業に対して、どのような制度を運用しているかを質問した。
以下、N数は少ないが、参考としてご紹介したい。
まずは、「専門職制度」の一種である「マネジメントを免除されたスペシャリストの存在」について質問したところ、96.3%(26社)の企業から「存在する」という回答が得られた(図表2-1)。
ただし、管理職とスペシャリストの給与格差については、管理職優遇の企業が35%を占めている(図表2-2)。

【図表2-1】マネジメントを免除されたスペシャリストの有無(N=27)

HR総研:ITエンジニアを取り巻く人事の取り組みに関するアンケート 結果報告【制度・カルチャー編】

【図表2-2】管理職(マネジメント有)とスペシャリスト(マネジメント無)の給与体系の格差(N=27 )

HR総研:ITエンジニアを取り巻く人事の取り組みに関するアンケート 結果報告【制度・カルチャー編】

ITエンジニアの「役職定年あり」が半数近く

続いて、ITエンジニアの「役職定年」について、存在の有無を質問した。
こちらは「存在する」(44%)、「存在しない」(56%)となり、半数近い企業でITエンジニアにも役職定年が存在することが分かった(図表3)。

【図表3】ITエンジニアの役職定年(N=27 )

HR総研:ITエンジニアを取り巻く人事の取り組みに関するアンケート 結果報告【制度・カルチャー編】

ITエンジニアの役職定年をどのように考えるか

技術職は経験年数が求められることも多い中、ITエンジニアの役職定年について、企業人事がどのように考えているか、フリーコメントを抜粋して紹介する。

【図表4】ITエンジニアの役職定年に関するフリーコメント

ITエンジニアの役職定年に関するコメント従業員規模業種
一律ではなく、個々人のキャリアについての考え方次第。それを役職に関わらず、若いうちからどう捉えているかを会社が把握し、各々に合ったキャリア提案、面談を行えば良い1,001名以上情報・通信
不要でもいいのかという反面、他の職種とのバランスからも制度として必要と割り切っている1,001名以上情報・通信
スキルがあったとしても他の職種と同じように必要だと思う300名以下情報・通信
他の職種と同じ扱いです300名以下メーカー
社内の活性化に向けては必要であると考える300名以下情報・通信
中小企業では個人の能力を年齢で測る意味はない300名以下情報・通信
スキルとやる気、ポストまたは仕事があれば役職定年させることはない。また再雇用でも現役同様会社に貢献してもらえばよい300名以下メーカー
能力があれば役職定年は必要ない300名以下サービス
必要なし300名以下メーカー
ITスキルやエンジニアの能力は、年齢で一定に定まるものではなく、人によって差があるため、個人的には役職定年は設けないほうがよいと考えている300名以下情報・通信

HR総研:ITエンジニアを取り巻く人事の取り組みに関するアンケート 結果報告【制度・カルチャー編】

ITエンジニアに対応した人事制度の運用課題 「公平性」と「客観性」

ITエンジニアに対応した人事制度の運用課題について、フリーコメントを求めたところ、「公平性」と「客観性」が大きな課題であるというコメントが多い。これらは通常の評価制度でも課題として挙げられる項目だが、ITエンジニアなどの高度専門職では、より一層難しい課題であることがうかがえる。

【図表5】ITエンジニアに対応した人事制度の運用課題に関するフリーコメント

運用上の課題従業員規模業種
浸透性1,001名以上メーカー
スキルを含めたミッションの難易度とその達成度合いをどう客観的に測るか1,001名以上情報・通信
特殊スキルの評価が難しい300名以下メーカー
社内の他部署との公平性300名以下メーカー
組織の硬直化により、マンネリしている感がある300名以下情報・通信
持っているスキルや役割の違い、また参画しているプロジェクトの違いで、どう評価していくかが難しい300名以下情報・通信
弊社は目標管理で人事評価を行っているが、外部要因が達成度合いに影響するため、公平性が低いと感じている300名以下情報・通信

専門人材育成のための教育支援施策ありは4割

ITエンジニアを始めとする高度専門人材の育成について、「会社として企画設定した研修以外に、教育支援制度があるか」を質問した。
41%の企業が「ある」と回答し、「現在設計中」(9%)、「今後、設計する方針」(20%)という結果が得られた(図表6-1)。
具体的には、「外部研修費補助(参加費、受講費など)」が最も多く、84%を占める。以下、「資格手当」(58%)、「書籍購入補助」(36%)が続く(図表6-2)。
人材開発の分野では、「リスキリング」や「キャリア自律」という言葉がトレンドとなっているが、ITエンジニアが関わる領域は、技術革新が目まぐるしい。さらなるスキルアップやパフォーマンス向上を望むエンジニアに対して、学習環境を整えることも、会社にとって意義のあるものと思われる。

【図表6-1】会社として企画設定した研修以外の教育支援制度の有無(N=169 )

HR総研:ITエンジニアを取り巻く人事の取り組みに関するアンケート 結果報告【制度・カルチャー編】

【図表6-2】実施している教育支援施策(N=69)

HR総研:ITエンジニアを取り巻く人事の取り組みに関するアンケート 結果報告【制度・カルチャー編】

「エンジニアファースト」の認知度は5割

「人事変革」という言葉とともに、近年「カルチャー変革」という言葉が広まっている。個別の人事施策や戦略は他社の真似が出来るが、企業文化は各社固有のもので、一朝一夕では真似が出来ない。ゆえに、「カルチャー変革」こそ本質的な課題である、という考え方である。
「ITを駆使したイノベーション」や「デジタル・トランスフォーメーション」を目指す企業は、優秀なITエンジニアに好まれる企業に脱皮することが求められている。その考え方を最も端的に表した言葉が「エンジニアファースト」である。
この言葉の認知について質問したところ、「説明できる」と回答した企業はわずか5%にとどまり、「知らない」と回答した企業は49%にも及んだ(図表7)。

【図表7】「エンジニアファースト」という言葉を知っているか(N=169)

HR総研:ITエンジニアを取り巻く人事の取り組みに関するアンケート 結果報告【制度・カルチャー編】

ITエンジニアにとって働きやすい「風土」はあるか

では、こうしたワードにとらわれず、ITエンジニアにとって働きやすい「風土」があるか、と質問したところ、「5(とてもそう思う)」「4」を選択した企業は27%、「1(まったくそう思わない)」「2」を選択した企業は29%となり、ほぼ同数となった(図表8-1)。

【図表8-1】ITエンジニアにとって働きやすい「風土」があるか(N=169 )

HR総研:ITエンジニアを取り巻く人事の取り組みに関するアンケート 結果報告【制度・カルチャー編】

回答理由についてフリーコメントを求めたので、以下に抜粋して紹介する(図表8-2)。

【図表8-2】ITエンジニアにとって働きやすい「風土」に関するフリーコメント

ITエンジニアにとって働きやすい「風土」があると思うかコメント従業員規模業種
1(まったくそう思わない)明確にジョブ定義されていないので1,001名以上サービス
1(まったくそう思わない)冷遇されている1,001名以上メーカー
1(まったくそう思わない)経営陣の理解がうすい301~1,000名メーカー
1(まったくそう思わない)居着かないから300名以下商社・流通
1(まったくそう思わない)重要なポジションとして捉えられていない300名以下メーカー
2社員に対しての割合が低く、例外的な評価や育成扱いが多い1,001名以上メーカー
2専門職としての能力を評価する仕組みがない1,001名以上情報・通信
2ITエンジニアの必要性自体が経営層・上位管理職層にあまり理解されていない。現場層でもシステム部門の業務イメージ自体が不明瞭301~1,000名メーカー
2エンジニアを適切にマネジメントできるディレクターがいないから301~1,000名サービス
2離職が多いから301~1,000名情報・通信
3エンジニアだけに特化したような社風ではないから301~1,000名メーカー
3長く勤めている人が多い301~1,000名メーカー
3ITエンジニアといっても様々な方がおり、働きやすさを一律で定義するのは難しいと感じたため300名以下金融
3ITではないが技術者は多数在籍しており、エンジニアに対する理解があると考える300名以下商社・流通
3長所と仕事を結びつけるようにしており定着・活躍に結び付けられているため300名以下サービス
3部署内である程度自由にできる制度があるため300名以下マスコミ・コンサル
4勤務時間や時間外労働の申請等、ホワイトな企業だと感じているため、うやむやにしない風土がある点で、働きやすいのではないかと思う。また、社長や部門長がITに詳しいため、話が通じないといったことはなく、提案が通る風土もあるように感じるため301~1,000名情報・通信
4裁量制としているからワークライフバランスを保てる300名以下メーカー
4時間や場所が完全に本人に委ねられている。 自社開発のため、自分で内容、スケジュールをコントロールできる300名以下情報・通信
4自律とチャレンジを促し、しっかりと管理しながら活かしているから300名以下メーカー
4当社がそのような風土を目指しているため。ただ一部は完全ではないと感じている300名以下情報・通信
4能力を上げる環境、個人にまかされる責任と業務のバランスがとれている300名以下情報・通信
5(とてもそう思う)ほとんどの人がエンジニアの会社であるため300名以下情報・通信
5(とてもそう思う)社員の95%がエンジニアで、エンジニアが働きやすい環境を第一とした制度や社風があるから300名以下情報・通信
5(とてもそう思う)代表もエンジニア、要望もエンジニアから随時受付、反映している300名以下情報・通信

【調査概要】

アンケート名称:【HR総研】「ITエンジニアを取り巻く人事の取り組み」に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2022年12月26日~2023年1月18日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:企業の人事責任者・担当者
有効回答:244件

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1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
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  ・引用元名称(調査レポートURL) と引用項目(図表No)
  ・目的
Eメール:souken@hrpro.co.jp

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