本調査結果について2本に分けてレポートする。2本目の本レポートでは、「取り組み企業の特徴」や「人的資本開示の状況」について、フリーコメントを含めて紹介する。
<概要>
●「取り組み中/検討中」は大企業で8割以上、中小企業で7割近く
●検討開始から「2年以上」は大企業で4割以上、継続期間による組織力の違いも
●社外への人的資本開示、大企業での最多は「多様性」
●「人的資本の情報開示」に事業戦略タイプによる特徴
●取組みによる従業員の変化とは?革新型企業が得ているメリットの特徴
●人的資本開示は、転職先の検討でも影響を受けやすい傾向
●今後の人的資本経営への取組み、大企業の8割が「推進する」
「取り組み中/検討中」は大企業で8割以上、中小企業で7割近く
「人的資本経営」に対する重視度については、大企業の49%で「重要だと認識」しており、「やや重要だと認識している」(24%)と合わせると73%が「重視派」といる。同様に見ると、重視派の割合は中堅企業で65%、中小企業では77%と8割近くにも上っている。ただし、「重要だと認識している」については、それぞれ28%、32%と3割前後で大企業の5割より低く、重視派の中でも大企業の方が、中堅・中小企業より高い重視度であることがうかがえる(図表1-1)。
【図表1-1】企業規模別 「人的資本経営」に対する重視度(再掲)
実際の取り組み状況については、大企業では「安定的に取組みを継続中」と「取組みを開始した段階」がともに18%、これらを合計した「取り組み中」は36%、一方、「取り組む予定はない」は24%となっている。「取り組み中」の割合は中堅企業では21%、中小企業では29%となり、それぞれ大企業より15ポイント、6ポイント低く、重視しているものの具体的な取組みには至っていない企業の割合が多い傾向がうかがえる(図表1-2)。
【図表1-2】企業規模別 「人的資本経営」への取り組み状況(再掲)
検討開始から「2年以上」は大企業で4割以上、継続期間による組織力の違いも
人的資本経営への取組みについて検討を開始してからの期間を企業規模別で見てみる。
大企業では、「1年以上」(「1~1.5年以内」~「3年以上」の合計)の割合は63%で6割以上、「2年以上」(「2~3年以内」~「3年以上」の合計)の割合は42%と4割以上に上っている。中堅企業では「半年~1年以内」が最も多く33%、「1年以上」は44%、「2年以上」は22%と2割程度となっている。中小企業では「半年~1年以内」が最も多く32%、「1年以上」は48%、「2年以上」は28%と3割程度となっている(図表2-1)。
大企業では、中堅・中小企業より長期間にわたって検討・実践している企業の割合が高い。とはいえ、企業規模に関わらず、8割前後の企業で「半年以上」(「半年~1年以内」~「3年以上」の合計)は検討・実践していることがうかがえる。検討・取組み期間によって、企業組織への影響は異なる傾向が出てきているのだろうか。
【図表2-1】企業規模別 「人的資本経営」への取組みについて検討開始からの期間
検討・取組み期間を「半年以内」、「半年~2年以内」、「2年以上」の3段階に分類し、期間別に「イノベーションに積極的な組織風土の有無」の傾向を見てみる。
まず全体では、「どちらとも言えない」が最多で32%、次いで「ある程度ある」が31%、「あまりない」が19%などとなっている。「ある」(14%)と「ある程度ある」を合計した「ある派」の割合は45%で、半数近くとなっている。
検討・取組み期間別に見た「ある派」の割合について、「半年以内」の企業群では26%、「半年~2年以内」では43%、「2年以上」では60%となり、人的資本経営に関する検討・取組み期間が長いほど「イノベーションに積極的な組織風土」が醸成される傾向が見られている(図表2-2)。
また、「組織レジリエンスの有無」についても同様に見てみると、全体では「ある程度ある」が最多で43%、次いで「どちらとも言えない」が34%などで、「ある派」の割合は54%となっている。
検討・取組み期間別に見た「ある派」の割合については、「半年以内」の企業群では39%、「半年~2年以内」では54%、「2年以上」では63%となり、「組織レジリエンス」についても、人的資本経営に関する検討・取組み期間が長いほど、醸成されている傾向がうかがえる(図表2-3)。
【図表2-2】検討・取組み期間別 イノベーションに積極的な組織風土の有無
【図表2-3】検討・取組み期間別 組織レジリエンスの有無
社外への人的資本開示、大企業での最多は「多様性」
次に、人的資本経営の取組み状況に関する社内外への開示状況を確認するため、「ISO30414で扱う11領域(一部領域を分割)に関する情報」の開示状況を見てみる。
全体では、「社外に開示している」の割合が最も高い項目は「生産性」と「コンプライアンス・倫理」でともに13%、次いで「多様性」が10%などとなっており、高くても1割程度となっている。「社内で開示している」の割合が最も高いのは、社員の関心が集まりやすい「組織文化」(28%)や「組織の健全性・安全性」(24%)などが上位に挙がり、社外への開示情報として上位にある項目とは異なる傾向となっている。ただし、いずれの項目についても「社外/社内に開示している」割合は4割未満にとどまっており、積極的に情報開示している企業の割合は未だ低いことがうかがえる。また、「データで把握していない」割合が少なくても2割程度、多い項目では3割を超えるなど、開示以前の状態の企業が少なくないこともうかがえる(図表3-1)。
【図表3-1】「ISO30414で扱う11領域(一部領域を分割)に関する情報」の開示状況(全体)
大企業における「ISO30414で扱う11領域(一部領域を分割)に関する情報」の開示状況を見てみると、「社外に開示している」項目については、「多様性」が25%、次いで「生産性」と「組織の健全性・安全性」がともに22%、「コンプライアンス・倫理」が20%などと上位4項目は2割を超えている。「社内で開示している」項目については、「組織文化」が33%、「異動・離職」が29%、「コンプライアンス・倫理」が27%などで、全体と同様に社外への開示情報の傾向とは異なることが分かる。「社外/社内に開示している」割合を見ると、上位7項目は4割程度以上となっており、中堅・中小企業を含めた全体での割合より人的資本情報を社内外に開示している企業の割合が高いことがうかがえる(図表3-2)。
株主や機関投資家に対する情報開示の必要性、社会的責任の大きさや企業ブランディングの影響力などを考慮すると、中堅・中小企業より大企業の方が人的資本の情報開示に積極的な傾向があるのは自然な流れと受け止められる。ただし、上場企業の割合が多い大企業においても、社外への情報開示の割合は人的資本経営への取り組み状況を踏まえると全般的に低い状態にある。現状としては人的資本経営への取り組み段階であり、それらの取り組み状況や成果に関する情報開示は次のステップとなる企業が多いのだろう。
【図表3-2】大企業における「ISO30414で扱う11領域(一部領域を分割)に関する情報」の開示状況
「人的資本の情報開示」に事業戦略タイプによる特徴
本調査への回答企業について、主要事業に関する現在の経営戦略タイプ(以降、事業戦略タイプ)を4種類に分けて聞いてみた。
4種類の事業戦略タイプの中で最も多いのは「バランス型」で49%と約半数、次いで「保守型」が25%、「革新型」と「自然型」がともに13%となっている(図表4-1)。
【図表4-1】主要事業に関する現在の経営戦略タイプ
事業戦略タイプ別に海外展開の状況を見ると、「海外拠点を持ち、海外取引している」の割合が最も高いのは「革新型」の企業群で58%、次いで「バランス型」で40%などとなっている。「海外拠点はないが、海外取引している」の割合まで含めると、「革新型」の企業群では66%と7割近い企業が事業を海外展開していることが分かる。一方、「自然型」では22%と2割程度にとどまっており、事業戦略タイプにより海外展開の傾向も大きく異なっている(図表4-2)。
【図表4-2】事業戦略タイプ別 海外展開の状況
そして、人的資本の社外への情報開示状況を事業戦略タイプ別に見ると、「革新型」の企業群が、他タイプの企業群より顕著に社外への開示をしている割合が高いことが分かる。特に「コンプライアンス・倫理」と「生産性」はともに33%で最多となり、次いで「労働力の利用可能性」が29%など3割程度となっている(図表4-3)。
このように、「革新型」の企業群は、人的資本開示に対して他タイプの企業群より積極的であることがうかがえる。「革新型」に次いで海外展開の割合が高い「バランス型」が、人的資本の社外への情報開示状況においても残り3タイプの企業群の中では比較的高い割合となっており、海外展開の度合いが情報開示に影響していそうである。
【図表4-3】事業戦略タイプ別 「ISO30414で扱う11領域(一部領域を分割)に関する情報」を社外開示している企業の割合
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【調査概要】
アンケート名称:人事向け:【HR総研】「人的資本経営への取組み状況」に関するアンケート
従業員向け:【HR総研】「自主的なキャリア形成への考え方と人的資本経営」に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2022年4月18~27日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:人事向け:企業の人事責任者・担当者
従業員向け:企業に勤務する会社員
有効回答:人事向け:179件
従業員向け:179件
※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照いただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
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Eメール:souken@hrpro.co.jp
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詳細につきましては、上記メールアドレスまでお問合せください。
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