今回は、「健康経営」に関する調査の結果を報告する。
「健康経営」とは、従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践することである。労働力人口の減少や超高齢社会が進行する日本において、「企業の業績向上」と「医療費の適正化」を目的として国が推進する、企業の経営戦略の一つである。この健康経営は、日本の企業においてどの程度浸透しているのだろうか。
ここでは、健康経営の実践状況や実施体制、経営課題としての位置づけ、目的と具体的取組み、効果と課題など、主に健康経営を実践している企業の実態について調査した結果を、フリーコメントを含めて以下に紹介する。


<概要>

●「健康経営」の認知度は9割、実践企業(準備中含む)は5割
●社内で最も従業員の多い年齢層が「40歳以上」にある企業が半数以上
●「健康経営の経営課題への位置づけ」は大企業で8割、中小企業で4割
●実施統括責任者は中小企業では「社長」が最多、実施体制は「人事部内の専任部署」が4割
●最も重要な目的は「従業員の生産性維持向上」が8割
●従業員への健康支援対策は「メンタルヘルス対策」が最多、具体的な取組みは低予算でも可能
●実践期間は「3年未満」が半数以上
●健康経営を経営課題とする企業の9割以上は「積極的に取り組んでいる」、実践期間2~3年で“中だるみ”か
●特に積極的に参加している従業員のタイプは「健康意識の高い人」
●得られた効果は「従業員の生産性維持向上」が最多、最大の課題は「効果の見える化」
●外部サービスの利用は「ストレスチェックサーベイ」が最多で6割
●公的な認定や授賞実績は4割、「企業イメージの向上」に期待
●健康経営を実践していない理由は「投資予算の不足」が最多、中堅企業では7割
●今後の健康経営の導入予定は「検討する可能性がある」が半数以上

「健康経営」の認知度は9割、実践企業(準備中含む)は5割

まず、「健康経営」の認知度と実践状況について聞いてみた。「健康経営の認知度」については、大企業と中堅企業において8割が「以前から知っている」と回答しており、いずれの企業規模においても、「少なくとも名前だけは知っている」(「以前から知っている」と「以前から名前だけは知っている」の合計)が9割以上であり、「健康経営」の認知度は非常に高いことが分かる(図表1-1)。

【図表1-1】企業規模別「健康経営」の認知度

HR総研:「健康経営」に関するアンケート調査 結果報告

一方で、「健康経営の実践企業」については一気に割合が減少し、大企業が52%で最多であり、中堅企業は36%、中小企業は20%となっており、知ってはいるものの、自分事としての認識は薄い企業が未だ多いようである(図表1-2)。
ただし、「健康経営」は義務化されていない経営施策であるにも関わらず、「導入準備中」を含めると実践率が最も低い中小企業においても4割が実践しており、その必要性に対する理解が徐々に浸透してきていることがうかがえる。

【図表1-2】「健康経営」の導入状況

HR総研:「健康経営」に関するアンケート調査 結果報告

社内で最も従業員の多い年齢層が「40歳以上」にある企業が半数以上

「社内で最も従業員が多い年齢層」は、全体では「40~45歳未満」が28%で最多であり、次いで「35~40歳未満」が19%などとなっている。また、企業規模に関わらず、「40~45歳未満」が最多の年齢層であり、社内で従業員が最も多い年齢層が40歳以上にある企業が半数以上である(図表2)。
生活習慣病のリスクは年齢が上がるごとに高まると言われており、国の医療費(医科診療費)の3割を生活習慣病関連が占め、超高齢社会に突入する日本において、国の医療費は今後も膨らみ続けることが予測されている。このような状態を放置することは、企業にとっては従業員の医療保険料というコストの増大に繋がるだけでなく、疾病予備軍である従業員のプレゼンティーズム(病気や体調不良により労働生産性が低下している状態)やアブセンティーズム(病気により長期休業している状態)による企業の業績低下にも繋がる。したがって、企業はできるだけ早期に従業員の健康意識を高め行動変容を促し、医療費削減や従業員の労働生産性維持向上を図ることが喫緊の課題であり、「健康経営」は、経営トップのコミットメントが欠かせない企業の経営施策なのである。

【図表2】社内で最も従業員数が多い年齢層

HR総研:「健康経営」に関するアンケート調査 結果報告

「健康経営の経営課題への位置づけ」は大企業で8割、中小企業で4割

そこで、健康経営を導入している(する予定である)企業を対象に「健康経営を経営課題として位置づけられているか」について聞いてみると、全体で「位置づけられている」とする企業は58%、「位置づけられる予定である」が32%であり、これらを合計すると、90%の企業が健康経営を経営課題として位置づけることとなる(図表3)。
企業規模別に見ると、企業規模に比例して、健康経営を経営課題として位置づける割合が高く、従業員数が1,001名以上の大企業では76%がすでに位置づけており、「位置づけられる予定」まで合わせると98%となり、ほぼすべての大企業において健康経営は経営課題として認識されていることになる。一方、301~1,000名の中堅や300名以下の中小企業では大企業ほどではないが、8割以上の企業が経営課題として認識しており、健康経営を導入している企業は、経営課題の解決に向けた重要度の高い施策として実践していることがうかがえる。

【図表3】「健康経営」の経営課題としての位置づけの有無

HR総研:「健康経営」に関するアンケート調査 結果報告

実施統括責任者は中小企業では「社長」が3割で最多、実施体制は「人事部内の専任部署」が4割

健康経営は従業員の健康増進・維持を経営的な視点で捉え、戦略的に実施することであるため、経営トップのコミットメントが欠かせない要素である。そこで、「健康経営の実施統括責任者」について実態を聞いてみると、全体で「社長」が25%で最多であり、「社長以外の役員」が24%などとなっている(図表4-1)。大企業と中堅企業においては「社長」「役員」「専任部署の所属長」「人事部長」で9割以上を占め、同程度の割合で分散している一方、中小企業では「専任部署」がなく、「社長」が3割を占め最多となっており、社長がリーダーシップを取りトップダウンの形で推進している企業が多いことがうかがえる。

【図表4-1】「健康経営」の実施統括責任者(予定される実施統括責任者)

HR総研:「健康経営」に関するアンケート調査 結果報告

「健康経営の実施体制」については、全体では「人事部内など専任の部署で統括している」が46%で最多であり、次いで「専任の部署は無いが、担当者を置いている」が32%などとなっている(図表4-2)。企業規模別に見ると、大企業では「独立した専門部署で統括している」が24%で中堅・中小企業より多い一方、中堅・中小企業では「専任の部署は無いが、担当者を置いている」がそれぞれ43%、35%と大企業より多くなっており、企業規模が小さいほど専任部署を作る必要性を感じていない、あるいはそれだけの人的余裕がないことが分かる。

【図表4-2】企業規模別 「健康経営」の実施体制(予定される実施体制)

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最も重要な目的は「従業員の生産性維持向上」が8割

国が企業に対して健康経営を推進する目的は、従業員の健康維保持・増進による「業績向上や企業価値向上」と「医療費の適正化(低減)」の実現である。一方で、実際に健康経営を実践する企業はどのような目的を持っているのだろうか。
「従業員の生産性維持向上」が76%で最多であり、次いで「企業全体の労働生産性向上」が65%、「従業員のモチベーション維持向上」が54%などとなっており、「業績向上や企業価値向上」を強く意識した項目の割合が高いことが分かる(図表5)。また、これらの項目は効果の可視化が難しいものでもあり、取組みの効果を定量評価するためにプレゼンティーズム等の評価指標を設ける必要性が感じられる。

【図表5】健康経営の実践において最も重要な目的

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従業員への健康支援対策は「メンタルヘルス対策」、具体的な取組みは低予算でも可能

次に、「健康経営としての従業員への健康支援対策」については、「メンタルヘルス対策」が78%で最多であり、次いで「自社の健康課題の把握」「健康増進・生活習慣病予防対策」「加重労働対策」がともに59%などとなっている(図表6-1)。企業に対して義務化された従業員のストレスチェック制度や健康診断の実施、働き方改革への対応を行いながら、自社の健康課題を把握して、具体的な取組みへと落とし込むようなイメージだろうか。

【図表6-1】健康経営における従業員への健康支援対策

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これに伴い「実践する取組み」については、「ストレスチェックの実施」が81%で最多であり、次いで「正社員の労働時間、休暇取得等の状況把握」が77%、「時間外労働の是正」が65%などとなっている(図表6-2)。

【図表6-2】健康経営で実践している(する予定である)取組み

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具体的な取組みの事例としては、「禁煙室の設置」「健康アプリの活用」「健康計測機器の貸出」などの他、「独自の健康イベントの開催」や「自治体等の無料セミナー参加」など低予算でできる取組みも多く見られる(図表6-3)。

【図表6-3】健康経営で実践している具体的な取組み事例(一部抜粋)

コメント従業員規模業種
健康経営宣言の提唱、喫煙所減少と利用制限、メンタルヘルス講習、ストレスチェックeラーニングなど1,001名以上メーカー
健康推進室のような組織を作った。ストレスチェックをしている。健康診断で、数値がよくなかった人に、計測機器を貸出して指導している。喫煙室をつくり、分煙している1,001名以上メーカー
健康アプリを活用した健康増進1,001名以上運輸・不動産・エネルギー
健康に関する指標に具体的な数値目標を導入している301~1,000名メーカー
大人のスポーツから命名した「オトスポ」という体力測定を実施。世界禁煙週間に合わせ、全社禁煙デーを設定301~1,000名メーカー
就業時間中の全面禁煙301~1,000名メーカー
手始めは、パソコンの定時シャットダウンから実施した301~1,000名商社・流通
ストレスチェック、スポーツジム会費の補助金、レクリエーション(テニス、フットサル、マラソン等)イベントへの奨励金、肩こり・腰痛予防法の講習、時間外労働、年休取得状況のチェック300名以下情報・通信
毎月社内報で健康管理の啓蒙記事を掲載。インフルエンザ予防接種の補助奨励。従来の喫煙スペースから喫煙ブースへシフト予定300名以下サービス
女性の健康問題、ストレス対策、喫煙者の指導については、自治体等々の無料セミナーに全社員交替で参加させている300名以下サービス

実践期間は「3年未満」が半数以上

企業それぞれの工夫により様々な取組みが行われており、このような「健康経営の実践期間」については、「2~3年未満」が28%で最多であり、次いで「1~2年未満」「3~5年未満」がともに22%などとなっており、実践開始してから3年未満である企業が半数以上であることが分かる(図表7)。経済産業省が健康経営に係る各種顕彰制度として、「健康経営銘柄」の選定を行い始めたのが2014年度、「健康経営優良法人認定制度」を創設したのが2016年度であり、この頃から健康経営の考え方が徐々に広がり始めたといえる。
このように健康経営を実践し始めて間もない企業が多い中、その取り組み状況はどのような状態なのだろうか。

【図表7】健康経営の実践期間

HR総研:「健康経営」に関するアンケート調査 結果報告

健康経営を経営課題とする企業の取り組み状況は「積極的に取り組んでいる」が9割以上、実践期間2~3年で“中だるみ”か

「健康経営に対する従業員の取り組み状況」については、全体では「まあまあ積極的に取り組んでいる」が78%で、「非常に積極的に取り組んでいる」が13%などとなっており、これらの合計である「取り組んでいる」グループは91%となり、従業員の積極的な取組みがなされている企業が多いことが分かる(図表8-1)。企業規模別に見ると、中堅・中小企業では「非常に積極的に取り組んでいる」企業が2割前後であり、大企業より活発な状態にあることがうかがえる。

【図表8-1】企業規模別 健康経営に対する従業員の取り組み状況

HR総研:「健康経営」に関するアンケート調査 結果報告

また、「経営課題への位置づけ」と「従業員の取り組み状況」の関係を見ると、「(経営課題として)位置づけられている」企業での積極的な取組みは95%であり、「位置づけられる予定である」企業では83%、「位置づけられていない」企業では60%であり、経営課題の位置づけが明確である方が従業員の取り組み状況は積極的であるという傾向が見られる(図表8-2)。経営課題として「位置づけられていない」企業においては、「取り組んでいない」グループ(「あまり取り組んでいない」と「全く取り組んでいない」の合計)が40%であり、健康経営に対する企業としての組織的な推進力が十分でないことがうかがえる。

【図表8-2】経営課題への位置づけ別 健康経営に対する従業員の取り組み状況

HR総研:「健康経営」に関するアンケート調査 結果報告

さらに、「実践期間」と「従業員の取り組み状況」の関係を見ると、「1年未満」の企業ではすべて「まあまあ積極的」な取組みであり、「1~2年未満」と「2~3年未満」では「取り組んでいない」グループが2割近くに増加し、一次的な中だるみが生じやすいようである(図表8-3)。「3~5年未満」以降の企業では再び「取り組んでいる」グループの割合が増加し、企業の中で健康経営の文化が定着し始めることが推測される。

【図表8-3】実践期間別 健康経営に対する従業員の取り組み状況

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特に積極的に参加している従業員のタイプは「健康意識の高い人」

健康経営の取組みに従業員が積極的に参加している企業が多いようだが、「特に積極的に参加している従業員のタイプ」について聞いてみると、「普段から健康意識の高い人」が58%で最多であり、次いで「全員」が29%などとなっている(図表9)。
「健康意識の高い人」は元々健康である確率が高いため、疾病のハイリスク層となりやすい「健康意識が低い人」の積極的な参加による行動変容を促すことで、医療費コスト削減や労働生産性向上について、より高い効果を出すことが期待される。一方、実情としては6割近くの企業において、普段から健康意識の高い人による積極的な参加が目立っており、なかなか健康経営の実践効果に繋がりにくい取組み状況であることが分かる。
では、企業が感じている効果としては、どのようなものがあるのだろうか。

【図表9】健康経営に対して特に積極的に参加している従業員のタイプ

HR総研:「健康経営」に関するアンケート調査 結果報告

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HRプロとは

【調査概要】

アンケート名称:【HR総研】「健康経営」に関するアンケート調査
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2019年11月29日~12月6日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:企業の人事責任者・健康経営担当者
有効回答:221件

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