本報告では、各設問の回答傾向について、2001年以降および2011年の特徴をご紹介します。
働き甲斐を求める
「給料や週休2日制も大切であるが、働き甲斐を求めることの方がより人間らしい生き方ができる」という設問では、 「そう思う」(正答)という回答が2009年61.8%、2010年62.7%、2011年65.8%とこの三年間上昇しています。また、 「自分のプラスにならないと思う仕事まで見つけて、やることは無意味である」という設問で「そう思わない」(正答) という回答は、2000年から一貫して増え続けています。「10のことをして、10報われることを考えるより、12のことを して、10の報酬に満足し残りの2を相手に貸しておくぐらいの考え方を持っている人間が最後に大きく報われる」と いう設問でも、「そう思う」(正答)の割合がほぼ一貫して上昇しています。
仕事に前向きに積極的に取り組もうという新入社員が多くなってきていると思われます。
また、働き甲斐の方向は「社会に役立つこと」になってきているようです。「会社の利益のために払う自分の努力は、 今の世の中で社会に役立っている」と「企業が存続している背景には、必ず社会に役立っているという事実がある」 という二つの設問は、多少の上下はありますが、「そう思う」という回答が増えています。
悪い意味で「大人」になっている
「建前と本音を使い分けなければならないという固定観念は、職場では通用しない」という設問では、この3年、「そう 思わない」という回答が増えています。(注:「そう思わない」は誤答)
また、「会社の実体を知るには、噂や横の情報だけには頼るのは間違いである。しかし、上司に直接聞いてみたとこ ろで、はっきり分かるものでもない」という設問で「そう思う」という回答も、2008年に67.4%まで下がったものが、2011年 には71.7%まで上昇しています。(注:「そう思う」は誤答)
厳しい就職環境を潜り抜けていく中で、世渡り上手な思考を持つ新入社員が増えているのではないでしょうか。
またこの二つの設問をクロス集計すると、「a:建前と本音を使い分けなければならないという固定観念は、職場では 通用しない」に「そう思う」(正答)と回答し、「b:会社の実体を知るには、噂や横の情報だけには頼るのは間違いで ある。しかし、上司に直接聞いてみたところで、はっきり分かるものでもない」に「そう思う」(誤答)と回答する、すな わち「職場では本音で話をするが、それでも会社の実態は上司に聞いてもわからないものだ」と考えている傾向は やや減ってきているものの、正答を上回り、常に一定の割合を占めています。
このあたりの回答には、新入社員のホンネが隠されているのではないかと思います。
「会社ではホンネの付き合いをしていかなければならないが、会社の実態はそうではないものだ」と、極めて現実的 に企業を見ているのではないでしょうか。
ある企業での複数年にわたる調査では、一年以内に離職した新入社員は、全員このような矛盾した意識傾向があ りました。私たちが新入社員のことを「会社に理想を求めすぎず、 現実的に見ることができるようだから、現場に適応 しやすいだろう」と見るのは誤りで、実際には、仕事に就いた後、しばらくすると理想と現実のギャップに悩み、乗り 越えられずに、離職してしまうようです。
男女で回答差がある
男女別で意識傾向に大きな差のある設問がいくつかあります。これらを俯瞰すると次のようなことが分かります。
1.男性の方が成果思考が比較的高い
とにかく数字を出そう、という思考は男性の方がやや高いようです。
2.女性の方が仕事そのものについて積極的の傾向
仕事に積極的で、個性を生かしてがんばろうという意識は、総じて女性の方が高いといえます。
3.人間関係や仕事への取り組み姿勢の違い
人間関係や仕事に取り組む姿勢に差のある項目がいくつかあります。
これらを俯瞰すると、新入社員では女性の方が、仕事や職場に対して不安感が強いのではないかと感じます。
仕事には積極的に取り組まなければならないと考える一方で、実態はくだらない仕事もあるし、ちゃんと仕事をしても 不安は消えないようです。ある意味、冒頭で取り上げた「良くない意味での大人」の側面をより強く持っているように 感じます。
2011年度新入社員の特徴――インストラクターの所感より
・まじめで向上心も高い。
・基本的な能力は高い。
・「社会に貢献したい」という志を持つ人が増えている。
・細かく質問してくる人が多い。自分で調べて答えを出すということができない。
・「失敗したくない」という本音が見えることがある。
・言われれば、きちんと行動できる。しかし、見ていないとやらない、やり続けない。
・会社に対する「依頼心」が強くなってきている。組織に属する安心感を得たいと思っているのではないか。
まとめ
近年の新入社員は、「ゆとり世代」といわれているようです。過去には、「新人類」だとか「バブル社員」など、様々な レッテルで新入社員を呼んできました。新入社員は、その時々の社会情勢や教育体制などの影響を受けているわけ ですし、ネーミングが表すような行動傾向は確かに見られるでしょう。
今年度の新入社員は、「仕事には前向きながら、世渡り上手な傾向」があると思われます。
理想(あるべき姿・ありたい姿)をわかっていて、そうしたいと前向きでありつつ、企業の現実もわかっていて組織に 順応しやすい、世渡り上手に見られるかもしれません。が、理想と現実のギャップに対して実体験を通して自分の 中で折り合いをつけていくという過程がないまま、世渡り上手なフリを続けていると、そこにねじれが生じます。優秀に 見える社員ほど悩み、早期に転職を考え始めることも多いようです。
このような新入社員に対して、どの時代でも基本ですが、周りの方々が、早期に深いコミュニケーションを取っていく ことが重要です。
新入社員は、働き甲斐を求めているようだと書きましたが、「働き甲斐」には、「働くことによって得られる効果や満足 感。働くに値するだけの価値」(日本国語大辞典)といった意味があります。今年度は、研修冒頭の自己紹介で 「社会に貢献したい」と発言する新入社員が多く見られたことを踏まえると、「働くに値するだけの価値を感じることが できる=社会貢献」と考える社員が増加しているとも考えられます(東日本大震災の影響ということも考えられますが、 この傾向はここ数年徐々に高まってきています)。
この「働き甲斐≒社会貢献」を求めるあまり、目の前の業務に取り組むことが働き甲斐と結び付かないと感じると、 モチベーションが下がってしまうことが懸念されます。
新入社員それぞれの、モチベーションの源泉は何か、何が働き甲斐になりそうか、をコミュニケーションを通して掴み、 日々の仕事の中で社会へのお役立ち実感を持たせることがさらに重要になっています。
加えて、新入社員は基本的な能力・意欲は高いものの、マネジャー(上司)の方の中には、その能力を十分引き出す ことがなかなかできないとお悩みの声も聞きます。
新入社員を成長させるには、
・日々、自社の商品やサービスがどのようにお客様のお役に立っているのか、毎日のように話をする
・「この仕事をしたら、どういう能力が身に付くのか」「それが次の仕事にどう役に立つのか」をきちんと伝える
・一人ひとりの入社動機、仕事への期待を管理者で共有、折に触れ日常業務と結び付ける
・間接部門でも、可能な限り顧客接点に立つ機会を与えたり、エンドユーザーの生の声をフィードバックする
といった対策をとることが有効です。
「社員意識調査」について
1976年に開発。以来、ジェック主催「新入社員基本能力体得コース」およびジェックインストラクターが担当した各社 新入社員研修で本意識調査を実施。設問数50。結果を5つの意識に分類。各25点満点。データは2000年以降。
5つの意識の強弱やバランスによって、個々の意識傾向、該当年度の新入社員の意識傾向をつかみます。
ご受講者はこの結果を持ち帰り、現場配属後の成長目標として活用していただいています。
ジェック主催公開コース(3日間)では、研修の冒頭および終了時に実施し、5つの意識の成長をご受講者が自覚 することができます。
なお、本調査は、ジェックが考える“企業人としてもつべき考え方・意識”の傾向を調査するものであり、若者の 意識傾向全般を調査するものではありません。
企業人として重要な 「5つの意識」とは
1 職業人の意識・・・地道な努力を大切にし、言われた通りにまずやってみようとする意識
2 自己実現の意識・・・能力や個性を思う存分発揮しようとする意識
3 貢献・報酬の意識・・・百の知識よりも、一つの成果、業績を重んじようとする意識
4 組織活動の意識・・・規則に従い、連絡を密にしようとする意識
5 人間関係の意識・・・相手を尊重し、礼儀作法を配慮しようとする意識
「5つの意識」経年変化
【調査概要】
調査主体:株式会社ジェック
調査対象:ジェック主催「新入社員基本能力体得コース」およびジェックインストラクターが担当した各社新入社員研修受講者
調査方法:調査用紙
調査期間:2011年3月~2011年5月
回答者数:1,485名
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