「マタハラ(マタニティハラスメント)」は新しい。「女性が輝く日本」を成長戦略として掲げる安倍政権が登場してから「マタハラ」が問題視されるようになった。
そして2014年10月23日に最高裁判所第三小法廷は、妊娠を理由にした降格について「業務上の必要性など特段の事情がある場合以外は、原則として男女雇用機会均等法違反(マタニティハラスメント)に当たる」との初判断を示した。そして2014年新語・流行語大賞の候補50語に「マタハラ」が選出された。
2015年11月には厚生労働省がマタハラに関するアンケート結果を発表している。マタハラを経験したことがある女性の割合は、正社員で21.8%、派遣社員で48.7%、契約社員13.3%、パート5.8%とかなり多い。
このような動きを踏まえて2016年3月、男女雇用機会均等法が改正されて、2017年1月1日から雇用主にいわゆるマタハラ防止措置が義務付けらた。
さてこのような状況を受け、企業人事はどのような考えを持っているのか? 会社としてではなく、個人の意識を探ってみる。
※セクシュアルハラスメント(sexual harassment)は海外で通用する英語だが、マタニティハラスメントは和製英語。英語圏では妊娠に対する差別を「Pregnancy discrimination」と言う。
規模が小さいほど男女の差別は少ない
まず「社員の評価や昇進は、男女の差別なく、育児中・妊娠中を問わず、平等に行われている」かどうかについての設問だが、全体の65%は「そう思う」と回答している。
企業規模別の違いがあり、「300名以下」では「とてもそう思う」23%、「まあそう思う」50%で計73%だ。しかし「301名~1000名」になると、「とてもそう思う」17%、「まあそう思う」43%、計60%と減少する。そして「1001名以上」では「とてもそう思う」12%、「まあそう思う」44%、計56%と少ない。
このアンケートから見ると、規模が小さいほど男女の差別は少ない。
【図表1】社員の評価や昇進は、男女の差別なく、育児中・妊娠中を問わず、平等に行われていると思うか
「妊娠中や育児中の仕事量」が「他の社員と同じ」とするのは2割にとどまる
今回の調査でもっとも多い内容は、妊娠や育児に対する「ふだんの考え方」で14項目ある。14項目のすべてで業種別の違いが見られなかったので、(全体・規模別)のグラフで紹介する。規模別の違いもわずかである。
まず「妊娠中や育児中の仕事量」だ。「他の社員と同じ仕事量で働くことが当然である」という問いに対し「そう思う」のはどの企業規模でも2割であり、「全くそう思わない」もほぼ同数を占めている。そして過半数は「あまりそう思わない」と回答している。たぶんその意味は「ケースバイケース」だろう。
【図表2】妊娠中や育児中でも、他の社員と同じ仕事量で働くことが当然であると思うか
女性が出産・育児しながら働くことを9割が支持
夫の収入があれば、妊娠した女性は仕事をやめ、出産・育児に専念すべきだという考え方がある。高齢世代では常識だったかもしれない。しかし現代では少数派である。「妊娠後は仕事をやめたほうが良い」と考えるのは1割程度にとどまっており、約9割はそのように考えていない。
「残業や夜間勤務ができない妊娠・育児中の女性は、できれば辞めてくれたほうがいい」という意識もほとんど根絶されている。「辞めてくれたほうがいい」と思うのは、どの企業規模でも1割に満たない。9割以上は「そう思わない」と回答している。
そして「女性が出産・育児をしながら働くことについて、本人の自由意思が尊重されるべきだと思う」企業は9割を超え、「そう思わない」企業は1割以下だ。
「妊娠中の女性は、通院や体調不良を理由に休みが取れるので、得だなと思う」企業は1割以下で、「そう思わない」は9割以上。
この4つの項目に関しては、どの企業規模でも9対1という比率になっている。
【図表3】夫の収入があれば、女性は妊娠後、仕事をやめたほうが良いと思うか
【図表4】残業や夜間勤務ができない妊娠・育児中の女性は、できれば辞めてくれたほうがいいと思うか
【図表5】女性が出産・育児をしながら働くことについては、本人の自由意思が尊重されるべきだと思うか
【図表6】妊娠中の女性は、通院や体調不良を理由に休みが取れるので、得だなと思う、または羨ましく感じるか
4割が「いくらでも残業できる社員と一緒に仕事をする方が働きやすい」
「妊娠した女性社員は、出産後も自社に戻って仕事をしてほしい」という設問でも9対1の比率になっている。どの企業規模でも9割以上が「戻って仕事をして欲しい」と考えている。
ただ「時間的制約がなく、いくらでも残業できる社員と一緒に仕事をする方が働きやすい」という設問に対しては「そう思わない」が6割以上を占めているが、「そう思う」も4割前後と多い。
【図表7】妊娠した女性社員は、出産後も自社に戻って仕事をしてほしいと思うか
【図表8】時間的制約がなく、いくらでも残業できる社員と一緒に仕事をする方が働きやすいと思うか
産休・育休を取得する社員がでると、周囲の社員の負担になる
産休・育休に関する意識は労働環境によって変わってくる。「産休・育休を取得する社員がでると、その社員の業務は周囲の社員が負うことになる労働環境」かどうかを問うたところ、すべての企業規模で「そう思う」が6割を超え、「300名以下」では75%に達している。
ただ、だから産休・育休を取りづらいかというとそうではない。「取りづらい風土がある」という回答は少なく、「1001名以上」では9割が「そう思わない」と回答している。ただし「300名以下」では「取りづらい」という企業が17%とやや多い。
【図表9】産休・育休を取得する社員がでると、その社員の業務は周囲の社員が負うことになる労働環境だと思うか
【図表10】自社には、産休または育休の制度を取りづらい風土があると思うか
長時間働く社員が「評価されるべき」と考える企業は1割にとどまる
日本的経営の特徴を「三種の神器」と呼ぶことがある。企業別組合、終身雇用、年功制を指しているのだが、「長時間労働」も日本的経営の特徴だった。しかし今回の調査で「長時間働く社員が、評価されるべきだと思う」という設問に対し、「そう思わない」が約9割、「そう思う」は1割だった。
企業規模による違いは小さいが、中小の方が少しだけ「長時間」を支持している傾向が見える。
【図表11】長時間働く社員が評価されるべきだと思うか
「残業しない妊婦・子育て中の女性」に対する「不公平感」
「妊婦・子育て中の女性は、残業しないのは周囲の社員からみると不公平だと思う」という設問では業種の違いが大きい。メーカー系では「不公平」と思っているのは5%と少ないが、非メーカー系では11%もある。非メーカー系が多い理由は勤務シフトにある可能性が高い。
勤務シフトの公平性はむずかしい問題だ。昨年11月にNHK「おはよう日本」が「“資生堂ショック”改革のねらいとは」という特集を組んでいる。
資生堂の販売現場を支えているのは美容部員だ。資生堂は2007年に美容部員が育児をしながらも仕事を続けられる時短勤務制度を導入した。その結果、時短勤務の美容部員は約3倍となった。時短勤務者は夕方以降、また土日のシフトに入らない。しかし誰かがシフトに入る必要がある。そこで支える側(シフトに入る者)と支えられる側(子育て・時短勤務者)の不公平感が拡大した。
そこで資生堂は時短勤務制度の見直しを2014年に行った。資生堂が直面した「現場の不公平感」はどの企業にとっても大きな課題だろう。
【図表12】妊婦・子育て中の女性は、残業しないのは周囲の社員からみると不公平だと思うか
調査概要
アンケート名称:【HR総研×NPO法人マタハラNet共同調査】企業におけるマタハラ意識調査
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)、NPO法人マタハラNet
調査期間:2016年2月3日~2月10日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:上場及び未上場企業の人事担当者
有効回答:300社
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