2015年9月1日に改正労働者派遣法(以下、改正派遣法)が施行された。旧26職種区分を撤廃し「3年上限」の実質上の撤廃、派遣労働者の派遣先社員との均衡待遇の推進、雇用安定措置の義務化、派遣労働者のキャリアアップ推進の法令化、そしてすべての労働者派遣事業が許可制になった。HR総研では、改正後、企業ではどのような変化があるのか、また人事担当者はどのように考えているのかについてアンケート調査を実施した。その結果についてレポートする。

派遣労働者を活用している企業は3/4 企業規模が大きいほど活用割合は高まる

最初に派遣労働者を活用しているかどうかを聞いたところ、全体では75%が活用している。企業規模別に見ると、1001名以上の大企業では92%、301~1000名の中堅企業では86%、300名以下の中小企業では59%だった。企業規模が大きいほど、派遣社員を活用していると言える。業種別ではメーカーの方が非メーカーよりも派遣労働者の活用度合が高く、メーカーの大企業では100%となっている。

〔図表1〕派遣労働者を活用しているか

「改正労働者派遣法(平成27年9月1日施行)」に関する調査結果

派遣受け入れ期間「3年」制限の事実上の撤廃により、「派遣労働者を活用しやすくなった」は約2割

特定の業務について派遣労働者の受け入れは「3年」に制限されていたが、今回の改正で過半数労働組合等に意見聴取を行うことでこの期間を延長できるようになった。同一の派遣労働者が同一の業務で延長をすることはできないものの他業務であれば継続が可能になった今回の改正が、企業にどのように影響しているのかを調査した。「改正前より派遣労働者を活用しやすくなった」と全体では19%が回答した。「優秀な人材を長く雇用し続けることが可能になったから」(通信)という人材確保面での意見や、「これまでは派遣社員を受け入れている部署に、3年の途中で派遣人員を追加した際、最初の派遣社員の抵触日と同時に途中で受け入れた派遣社員も抵触日となり、不便だったが、個人単位となったことで臨機応変に増員することができ、派遣社員を活用しやすくなった」(医薬)といった管理面で負担減を評価する声があった。

一方で、「改正前より派遣労働者を活用しにくくなった」という回答も14%あった。理由としては「旧26職種の例外事項が撤廃されたので」という旧26職種での継続契約が不可となったことの影響や、「トレーニングをし、必要な能力・経験を積んだ労働者を継続して使えなくなる」「3年以上働く方が多いので」といった、派遣労働者を長期契約している実態からあがる声だ。今回の改正は「旧26職種」で長期的に同一の派遣労働者を使っていた企業には痛手となったようだ。

〔図表2〕今回の改正で派遣労働者を使いやすくなったか

「改正労働者派遣法(平成27年9月1日施行)」に関する調査結果

無期雇用されている派遣労働者の活用は「改正前と変わらない」が約8割

改正派遣法では、派遣元に無期雇用されている派遣労働者は事業所単位・個人単位いずれの期間制限も受けなくなった。そこで、派遣労働者を無期雇用している派遣会社の利用が改正後に変わるかを聞いたところ「改正前と変わらない」という回答が79%と大半で、無期雇用の派遣労働者への関心はあまり見られなかった。理由としては、「優秀な派遣労働者は、人材確保のため正社員化をこれまで行っており、今後もその方向は変更しない予定」といった派遣社員からの正社員化を推進しているためこうした影響を受けない企業や、「無期雇用していない派遣会社の対応に満足しているから」といった現状の派遣会社への満足度を示す回答もあった。

無期雇用されている派遣労働者を「より活用するようになった(する予定)」は15%で、「わずらわしい手続きが減る」「自社で個人の抵触を意識しなくてよい点は大きい」(情報処理・ソフトウェア)、「会社や業務に慣れた人材の勤務が継続可能となるため」(金融)という評価や、「パート・アルバイトといった非正規雇用者が採用しづらい状況であり、長期安定的な補完人材として派遣スタッフに期待したい」(運輸)という声もあった。時給単位で雇いたい労働力の不足の解消が無期雇用の派遣労働者へ向かっているようだ。

〔図表3〕派遣労働者を無期雇用している派遣会社の利用

「改正労働者派遣法(平成27年9月1日施行)」に関する調査結果

派遣労働者への教育訓練の対応強化についは「良い」が過半数

改正派遣法では、改正前は努力義務だった均等待遇推進措置が配慮義務となり、派遣元と派遣先での派遣労働者への教育訓練の対応が強化された。これについて人事担当者に考えを聞いたところ、「大変良いと思う」が14%、「まあ良いと思う」42%で、良いとの評価56%と過半数となった。理由としては、「労働者にとっては、特に製造業ではケガ等が減少するメリットがあり、企業側にとっても労働力確保という面でメリットがあるため」(鉄鋼関連)という意見や、「派遣元で教育している会社とそうでない会社に分かれていたので、派遣元の教育が強化されたことはいいことだと思う」(輸送機器・自動車)といった派遣元での教育の推進を評価する声があった。

「どちらともいえない」は38%で、「努力義務を配慮義務にしても、実態は変わらない。3年限度のある派遣先では教育は積極的にできない。派遣元でもコストを考えると、積極的に教育訓練が行われるとは思われない」(電子)と配慮義務の実効性に疑問を呈する声もあった。
「あまりよくないと思う」は5%と少なかったものの、「管理が煩雑。何をやるか具体的方針がなく現場が戸惑う」(建設・設備・プラント)、「費用の増加が懸念される」(フードサービス)という意見がでており、派遣労働者への教育については人事担当者としては対応に困ることが想定されるようだ。

〔図表4〕均等待遇推進措置が配慮義務(派遣元・派遣先での教育強化)について

「改正労働者派遣法(平成27年9月1日施行)」に関する調査結果

改正派遣法により派遣労働者の正社員化が進むと思うのは3割

改正派遣法により派遣労働者の正社員化が進むと思うかについて、人事の考えを聞いた。「大変進むと思う」は回答がゼロだった。「少しは進むと思う」が31%、「どちらとも言えない」が33%、「あまり進まないと思う」が29%、「全く進まないと思う」が7%だった。
「少しは進むと思う」では、「正社員化を実際に進めている」(メーカー)という企業がある一方で、「派遣元で直接雇用されている者の需要が増えると思われる。派遣先での直接雇用ではなく、派遣会社における正社員化が多少進むと考える」という意見も見られた。
「どちらとも言えない」理由としては、「派遣の働き方がよくて派遣になっている方もいるから」(建築)、「今後の派遣労働者に対するニーズ推移に左右されると思う。派遣先が常用化を求めれば正社員化が進むが、派遣先が一時的な役割を求めれば正社員化は進まないだろう」(医療・福祉関係)など、派遣労働者自身の考えや企業のニーズによるとの声が多かった。

「あまり進まないと思う」「全く進まないと思う」では、「派遣元も派遣先も正社員化を本音としては望んでいないので、お互いにとって都合のよい抜け穴を探すと思います」(人材サービス)という派遣元企業からの意見や、「企業として派遣社員と正社員では、育成やキャリアといった考え方がまったく違うため、法改正では変化しないと思う」(機械)とそもそもの違いを上げるものもあった。

〔図表5〕改正派遣法により、派遣労働者の正社員化が進むと思うか

「改正労働者派遣法(平成27年9月1日施行)」に関する調査結果

デメリットがあると思うのは「旧26職種の派遣労働者」の回答が約4割

改正派遣法は、誰にとってデメリットがあったのだろうか。人事担当者に意見を聞いたところ、「旧26職種の派遣労働者」との回答が38%で最多、続いて、「派遣元・派遣会社」34%、「派遣先・派遣受け入れ企業」が29%となった。

旧26職種は例外措置として3年の制限を受けずに派遣が可能だったのが、他の職種と同一に扱われることになって同一事業所で3年までの制限を受けることになったため、これまで派遣の専門職として仕事をしたきた派遣労働者が従来のように長期に働くことができず、もっともデメリットがあるだろうと感じているわけである。「今まであればほぼ無期のように契約更新されていた派遣労働者が契約を切られるリスクが高いのではないかと思われる。(その時点での正社員化は想定される程には進まないのではないか。)」(メーカー)というように、同じ部署・職種で安定的に派遣労働者として働けていたメリットが無くなって、だからといって正社員化ということも難しい、ということのようだ。

「派遣元・派遣会社」については、「派遣先企業からの派遣料金に対する値下げ要求、派遣労働者からの常用化、定期的な仕事斡旋、給与・労働条件是正の要求がともに強くなることが予想されるから」(医療・福祉関連)と、派遣会社の窮状を想定している。
「派遣先・派遣受け入れ企業」についてはコメントは少なかったが、「どこにとっても管理が面倒になった」(建築・土木・設計)というのが実感値のようだ。

〔図表6〕改正派遣法は、誰にとってデメリットがあると思うか

「改正労働者派遣法(平成27年9月1日施行)」に関する調査結果

改正派遣法が労働者の安定雇用に貢献するかは疑問

改正派遣法について自由意見を求めたところ、「政権により派遣法がころころ変わり、関係者が振り回される状況が課題であり、結果、非生産性業務に多くの時間を費やす事になる」(メーカー)という管理面での不満が上がっている。企業の雇用と運営を預かる人事担当者としては、派遣の活用はやむを得ないという事情があるが、日本の社会を見た時に今回の改正に対しては良い評価はできないようだ。

というのは、枝葉末節を見栄え良く調整しているに過ぎない今回の改正派遣法は、国が求めている雇用の安定につながるとは考えにくいからである。「派遣法により正社員化を図るのではなく、別の支援方法により正社員化を促すべき。法改正により派遣労働を志向している人材まで悪影響を及ぼす」(情報・通信)、「同一労働、同一賃金の考えを徹底しないと、ワーキングプアーの問題は解決しない」(サービス)といった意見が、多くの人事担当者の考えを代表していると言えるだろう。

【調査概要】
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査対象:上場および未上場企業人事責任者・担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2016年1月28日~2月5日
有効回答:182社(1001名以上:49 社、301~1000名:51社、300名以下:82社)

  • 1