HR総研にて2015年2月18日~3月4日に実施したアンケート調査より、「派遣法改正」、「短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大」、「高度プロフェッショナル制度」(ホワイトカラーエグゼンプション)に関連する調査結果をレポートする。
■派遣法改正について
まずは、2014年11月衆議院解散によって廃案になったが、骨格は維持する方針で本年度の通常国会に再々提案される派遣法改正について見てみよう。
「派遣社員」の活用状況を調査したところ、回答企業の7割強が「活用している」と回答している。特に従業員規模1001名以上の大手企業では活用率100%である。また中小企業(従業員300名以下)でも半数を超える56%の企業が活用をしており、派遣社員は企業にとって重要な戦力であることは間違いない。
〔図表1〕派遣社員の活用の有無
2015年4月施行予定であった派遣法の改正法案では「特定労働者派遣事業の在り方」「労働者派遣の期間制限の在り方」「派遣労働者の均衡待遇の確保・キャリアアップの推進の在り方」の変更がポイントであった。特に人事が注目するのは「労働者派遣の期間制限の在り方」の変更、現行制度では期間制限がない専門26業務の雇用期間も、その他業務と同様に期間制限(3年、※一定の場合には延長可)と変更される点であろう。
〔参照〕厚生労働省 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案の概要
「改正案の概要を知っている」と回答した人事担当者に、「派遣社員にメリットがある改正だと思うか」を調査したところ、「どちらとも言えない」(63%)が大きな割合を占める中、「思わない」は26%であり、「思う」(11%)の2倍強の回答比率となった。
〔図表2〕派遣法改正は「派遣社員」にとってメリットがあると思うか
フリーコメントでは、「我が社の方針通り、正社員化が加速するから安定した生活をおくる事が出来る。」と賛成する声もあるが、改正に対し懐疑的な意見も目立つ。
「本人がどう働いていきたいかによってメリットにもデメリットにもなる」「正社員を目指す派遣社員にはメリットがあるかもしれないが、派遣を選択したい社員にとっては、職場を転々とする必要もあり、デメリットとなる。」など、各個人の状況によって是非が分かれるといった意見や、
「社員として雇用したくない企業は派遣社員を切らざるをえないのではないか。」「『長期派遣は正社員雇用が前提』となると『コストは上がっても流動性を取る』という派遣のメリットが無くなるので、結果として派遣社員を使わなくなる会社が増えるのでは」など、企業にとって派遣社員を活用しづらくなるため、(結果として)派遣社員にとってもメリットにはつながらないという意見もあった。
また、「正直言って実態が分からない人が作っている法案」「世の中の変化がめまぐるしい為、法改正のメリットも一時的なものであり、いつまでも通用するメリットとは思えない」など、法改正自体へのコメントもあった。
■「短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大」について
次に2016年10月より施行される「短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大」について見てみよう。
「パート労働者」の全従業員数に占める割合を調査したところ「0%(活用していない)」と回答した企業は、大手企業で4%、中堅企業で18%、中小企業で28%にすぎない。またどの企業規模においても「~10%未満」と回答した比率は過半数を占めていることが分かった。多くの企業でパート労働者を雇用している状況だ。
〔図表3〕全従業員数におけるパート労働者の比率
現行では、厚生年金の適用は「所定労働時間が週30時間以上」とされていたが、2016年10月より「短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大」(パートタイマーへの社会保険適用拡大)が施行されれば、「所定労働時間が週20時間以上」に変更される。
〔参照〕厚生労働省 短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大について(社会保障審議会年金部会における議論の整理)
施行されることを知っているかを調査したところ、「概要を知っており、企業として対応すべき内容を理解している」と回答した企業は39%、「概要は知っているが、企業として対応すべき内容は把握していない」「聞いたことはあるが、概要はよく知らない」と回答した企業が半数を超えており(54%)、法改正の内容が浸透していない実態が分かった。
概要を知っていると回答した対象に、この改正は「パート労働者にメリットのあると思うか」を調査したところ、最多回答は「どちらとも言えない」(59%)であるが、「思う」(23%)、「思わない」(25%)は、同等数の回答があり、意見は分かれている。
〔図表4〕「短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大」は「パート労働者」にとってメリットになると思うか
フリーコメントでは、「パート労働者に支給される厚生年金は、老後の所得としてはメリットが大きい。」など賛成する声もあるが、「保険適用そのものはメリットであると思うが、一定額は本人負担となり、パート労働者は必ずしも歓迎しないことが想定される」「労働時間が短い労働者に社会保険を適用すると、手取り収入が減少するため、社会保険の適用を拒む人もいる」など、パート労働者の負担が一層増えることを懸念する声も目立った。
なお、「短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大」の施行にむけて、パート雇用に関して対応する可能性がある事項を聞いたところ、大多数の企業が「特にすることない」(82%)と回答している。しかしながら、「週20時間以上・週30時間未満のパート労働者を減らす」と回答した企業が11%あった。
多様な働き方を推進する為の法改正ではあるが、現行より費用負担が増加する人材の雇用を躊躇する動きが発生する可能性は否めない。
〔図表5〕法改正に向けてパート労働者に対応する可能性がある施策
■高度プロフェッショナル制度(ホワイトカラーエグゼンプション)について
2014年6月にまとまったアベノミクス成長戦略にて、年収1075万円以上の高収入の専門職に限って導入する方針が示され、政府は15年の通常国会で労働基準法の改正を目指している。この方針について人事担当者に賛否を調査した。
「どちらとも言えない」が最多回答(61%)ではあるが、「賛成である」(26%)が、「反対である」(13%)の2倍であることが分かった。
長時間労働や、残業代のコスト等が多くの企業にとって課題となっている中、企業としてはコスト低減につながる方針であるため、賛成票も多いのであろう。
〔図表6〕高度プロフェッショナル制度に対する賛否
フリーコメントでは「対象がいない」「(現状の制度内容においては)弊社管理職の収入ベースを上回っている」等、高度プロフェッショナル制度の対象が現状限られているゆえの関心の薄さも伺える。
賛成意見としては、「多様な働き方につながり、ワークライフバランスの改善につながる」「時間によらず成果によって報酬を考えることの契機になる。」といったコメントが寄せられるなか、「基本賛成だが、適用年収額は下げるべき。労働者人口のうち5%未満しか割合がない年収1075万円以上の人々だけホワイトカラーエグゼンプションを適用して労働者全体の生産性が上がるとは思わない。」と制度の効果を上げる為には、限定的な対象者に適応することに対して疑問を呈した意見もあった。
反対意見としては「対象者の枠組みを決めても、なし崩し的に拡大していくことが想定される」「働く人の健康管理とそれによって形作られる健康な生活という点について、国として国民を大事にするという考えが感じられない。」といった声が上がっている。
なお、今後制度に適応する年収下限値は変更すると思うかを聞いたところ、「1075万円以上に引き上がる」は5%、「変更されない」という回答は11%となったが、回答者の54%が「現状より引き下がる」と回答している。中でも多いのは「800万円程度に引き下がる」(18%)、「1000万円程度に引き下がる」(15%)。
なお、2%と回答比率は小さいが「500万円程度に引き下がる」という回答もあった。
〔図表7〕高度プロフェッショナル制度の対象者の年収下限額は今後どうなるか
【調査概要】
調査主体:HR総研(HRプロ株式会社)
調査対象:上場および未上場企業人事責任者・担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2015年2月18日~3月4日
有効回答:173件(1001名以上:32件、301~1000名:45件、300名以下:96件)
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