「名ばかり管理職」とは、「偽装管理職」や「名前だけ管理職」とも呼ばれる名目上だけの管理職のことをいいます。管理職という役職に相応する権限や報酬が与えられないのに、管理職だからといって残業代を支給されない従業員のことを指します。

管理職のように高位な役職(参照:労働基準法第41条第2号「事業の種類にかかわらず監督もしくは管理の地位にある者(以下、「管理監督者」という)または、機密の事務を取扱う者」)は、残業時間や休日出勤といった時間的制約があると業務上支障が出てしまうことから、休日や休憩に関する規定の適用除外者とされています。本来であれば、残業代や休日出勤手当が支払われない代わりに、相応の役職手当等が支払われているはずの管理職ですが、広範囲の労働者を「管理監督者」と位置付けることで、無給での残業、休日出勤、休憩無しのシフトを強要することで人件費削減を行う企業が横行したことが問題となりました。

労働量に比較して低い賃金な上に、残業代が支払われないため役職の無い社員よりも給与総額が低くなる場合も多く、その上長時間にわたる労働で企業に酷使されるため、体調を崩す人が相次ぎました。酷い例では、IT業界の「チーム全員が名ばかり管理職だった」というジョークがある通り、社員全員に肩書を付けて管理職扱いにすることで労働基準法の規制を不当に逃れるケースも多々ありました。

名ばかり管理職の問題は訴訟に発展することも多く、中でも日本マクドナルド判決は社会的にもよく知られたケースです。平成20年1月、管理職とみなされ残業代を支払われなかった埼玉県の店長が、未払い残業代など約1350万円の支払いを求めました。「店長の職務内容から管理職とはいえない」と東京地裁は結論を出し、日本マクドナルド社に支払いを命じました。2カ月後の3月にも元店長4名が、在職中の残業代未払いを不当だと主張し、訴訟を起こしました。

社会的な批判を受けた日本マクドナルドは、同年8月から店長役2000人、エリア営業管理職数百人に対して残業代の支払いを開始すると発表。その代わり、店長手当はカットし、支払い給与総額は増やさず、過去分の残業代を遡って支払わないとも明言しました。

マクドナルド判決を受けて、同年4月1日付に「管理監督者の範囲の適正化について」と題する労働基準局監督課長発通達(基監発第0401001号)を厚生労働省が発表しました。都道府県労働局長に対し管理監督者の範囲の適正化について監督指導を行うよう要請したため、企業の多くも名ばかり管理職問題の是正に努めるようになり、少しずつ違法状態は解消されてきていると思われます。