「ディーセント・ワーク」とは、「働きがいのある人間らしい仕事」という意味です。ディーセント(Decent)とは適正、まともという意味になります。
1999年に、ILO(国際労働機関)のフアン・ソマビア事務局長が就任時に掲げたスローガンです。ILO憲章により与えられた使命達成のための主目標の今日的な表現であると位置付けています。厚生労働省によれば「ディーセント・ワークとは、人々が働きながら生活している間に抱く願望、すなわち、
(1)働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること
(2)労働三権などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること
(3)家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティーネットが確保され、自己の鍛錬もできること
(4)公正な扱い、男女平等な扱いを受けること、といった願望が集大成されたものである」としています。
ただ、これは法律や政府の行動を拘束するものではなく、それぞれの国の実情に応じた行動計画目標を立てるという原則になっています。
そもそも、この言葉が生まれた背景には、グローバル競争の加速化に関連します。グローバル化は各国の経済成長を進めるうえで、非常に重要な要素となり、また、実際に大きな利益と発展をもたらしました。しかし、一方で、激しい経済競争のため、労働者権利の軽視や、所得格差の拡大、失業率の増加など、労働者にとって深刻な問題を多く残す結果となってしまいました。この状況を改善すべく、ILOは、21世紀のILOの目標として、ディーセント・ワークを掲げました。
ディーセント・ワークは、労働者自身にも、労働者の家族にも良い環境の中での労働が継続的に営める条件を掲げ、さらにそれを保障する労働条件として、結社の自由・団体交渉権・失業保険・雇用差別の廃止・最低賃金などが確保されていることが求められます。
日本では、労働基準法を見ても、事実上労働時間の上限が定められていなく、最低賃金も先進国の中では少ない。また、有給休暇の未取得も多く、派遣労働などに見られるように、不安定かつ差別的な労働形態も存在するのため、ディーセント・ワークとは程遠い実情となっています。
しかし、政府は、「ディーセント・ワークの概念の普及に努めるとともに、様々な労働政策を推進することにより、ディーセント・ワークの実現に努めている」としています。
ここで世界的に注目されているのが「オランダ・モデル」です。オランダはもともと「家庭を大事にする国」と言われています。パート労働の地位や賃金を正社員と差のないものにし、家事や子育てをしながらお互いが働きに出やすい環境づくりに努める、「1.5社会」の確立を目指しました。男女平等の「2.0社会」では、男性も女性も競争して仕事をしてしまう結果、離婚などが増加したりと社会問題になっていました。オランダはお互いが0.75ずつという男女平等でかつ家庭も大切にできるというモデルの確立に努めています。