「人事デュー・デリジェンス」とは、投資やM&Aなどの取引を検討する段階で、特に、組織・人材面でのコスト、リスクの洗い出しと買収後の経営を調査・検証する作業のことで、海外企業を対象としたM&Aで行われる事が多く、人事DDと省略される事もあります。
そもそも、デューデリジェンスとは、不動産取引に置いて、対象不動産の取引履歴、紛争の有無などを買主において確認する行為が一般化されたもので、M&Aにおいては、経営の実態や内在するリスクなどを調査し、統合後のマネジメントの方向性までをも精査するものです。
その中でも、人材に焦点を当てた、人事デュー・デリジェンスは、財務面と非財務面という2つの視点が重要であり、人件費削減機会の特定などの財務的な問題に偏りがちですが、定量的ではないリスクを把握し、回避策を練ることも重要なポイントとなります。
財務面においては、単なる報酬だけではなく、福利厚生や退職給付の適切性なども含めた総合的な報酬を調査し、現在の人事体制が、企業の財務面にどのように影響しているのかを把握する必要があります。これは、統合される企業間での報酬などの格差による対立やモチベーション低下を防ぐ意味でも重要なポイントとなります。
一方、非財政面は、人事方針や人事制度、組織の状態や組織文化まで調査します。経営戦略や制度はもちろん、モチベーションや志向性なども調べることにより、どんな人材がどこにいるかを把握するのです。特に、幹部クラスの社員の情報を細かく得ることが重要であり、査定される側の企業は、細かい人材情報の提供を求められる事も多くあります。
ここで、詳細な個人データを同意を得ずに提出していいのだろうか、という疑問が出てきますが、2009年10月に経済産業省が改正および告示した「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン」によると、「当該データの利用目的および取扱方法、漏えい等が発生した場合の措置、事業承継の交渉が不調となった場合の措置等、相手会社に安全管理措置を遵守させるため必要な契約をすることにより、本人の同意等がなくとも個人データを提供することができる」とされています。
M&Aの成功のポイントは、戦略や期待されるシナジー効果の実現などがありますが、統合後の幹部間の意見の相違や企業間の文化の違いなどによるリスクの回避も重要とされています。欧米では、企業の将来は人材次第であり、人材に投資するという考え方が強くあります。大型の投資案件では、人事コンサルタントによってHR担当者などにインタビューを行い、人材の評価などを行う事もあるほどです。そのため、人材のマネジメントが最も重要視され、人事デューデリジェンスを行う企業が増えてきているのです。