先日、北陸自動車道で起きた高速乗合バスの事故を受け、労働基準局長は、日本バス協会に対してバス運転者の労働時間管理等の徹底を要請したとのことである。
 バス、タクシー、トラック等により、有償で旅客または貨物を輸送する自動車運送事業については、様々な法令の規制があり、その管理体制について厳しい目が向けられる。重大事故が起これば、企業の存続に関わるため、対策に力を入れている企業も多いであろう。
企業の存続を揺るがす自動車事故、その防止対策の必要性

 一方、自動車運送事業以外の業種であっても、自社商品の配達や営業業務において車両を使用している場合も多いのであるが、中には充分な対策を行えていない企業もある。
 しかし、交通事故は次のように広範囲な損害を発生させるのである。
(1) 被害者への賠償、見舞い・陳謝
(2) 負傷した従業員への補償、休業中の労働能力の喪失
(3) 積荷等財産の破損・滅失、車両の修理
(4) 警察・労働基準監督署・保険会社等への連絡・対応
(5) 自動車保険料の増加

 これらの損害に加え、何より安全を軽んじる姿勢は、企業の存続を脅かすこととなる。次の事項を参考に対策を実施していただきたい。

 まず、自動車を5台(乗車定員が11人以上の車両の場合は1台)以上使用している場合は、事業所ごとに安全運転管理者の選任・届出の義務がある。
 安全運転管理者は、点呼や日常点検をはじめとした安全運転指導等を行わなければならない。これらを怠っていたために事故が起きた場合、自動車保険や労災保険でカバーできない範囲の損害賠償義務が発生する恐れもある。
 よって、必要な書類を備え付けるとともに、事故が発生した場合には、その大小にかかわらず、発生状況や原因を記録しておきたい。そして、これらの記録をもとに安全教育を実施することが肝要である。朝礼の場において、当日の天候に応じた声掛けを行う等の意識づけも有効であろう。また、長時間労働等による体調の変化がないか、確認することも必要である。

 次に、車両の管理、点検に関する事項、遵守すべき事項について「車両管理規程」を作成する必要がある。車両が盗難に遭ったり、車内の機密書類が盗まれたりする事もあるため、これらのリスクも勘案して定めておきたい。
 そして、事故が発生した際に行うべき行動も規定し、周知しておくことが必要だ。事故を起こした時は誰でも冷静さを失うものであり、その行動により二次災害が発生してしまうことがある。いざという時、適切な行動を取るためには、平時の意識づけが重要である。

 さらに、マイカーを業務や通勤に使用している場合は、その取り扱いについても盛り込んでおきたい。免許証、車検証、任意保険証等のコピーは、毎年預かり、チェックしておくと良いであろう。

 運転業務を行う社員の採用や安全指導にあたっては、自動車安全運転センターが交付している「運転記録証明書」の活用をお勧めする。これは、最大過去5年間の交通違反、交通事故等の記録を証明する書類であり、違反の傾向から本人の特性を推し測ることができるものである。

 最後となるが、万が一に備えて自動車保険の確認を行っておきたい。対人賠償の保険金額は無制限とすることはもちろん、対物賠償の保険金額も無制限にすることが望ましい。過去にも電車との接触等により1億円を超える賠償が必要となった事例がある。

 交通事故は、管理者による直接的な管理がない中で発生する。一旦、車に乗務してしまえば、運転者が危険な行為を行っていたとしても、現認し、注意・指導を行うことができないため、安全管理が非常に難しいという特徴がある。
 この機会に自動車の安全管理について、今一度見直し、事故防止を徹底していただきたい。


山本社会保険労務士事務所 山本武志

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