(1)派遣労働者X(女性は)派遣会社に登録していた
(2)派遣会社から派遣先へ派遣された
(3)派遣先の上司Aは、Xにセクハラをした
(4)Xは派遣先および派遣会社に苦情を言った
(5)派遣先は上司Aを一度は異動させたが、その後、元の職場に戻した
(6)(5)の際にXが職場にいると仕事がしづらいということで、Xの派遣契約を解約した
(7)Xは派遣会社の上司Bにも苦情を何度も伝えたが、特に何もしなかった
というケースである。この場合、派遣元が責任を問われることはあるのだろうか?
結論としては、派遣会社は50万円の支払いを命じられている。派遣元の責任が問われたわけだ。特に大事な点としては、派遣会社上司Bが相談を受けていたのに何もしていなかったことだ。やるべきことをやっていなかったと認定されたのである。同時に、派遣先会社は、一応は異動させたとして責任は問われなかった。
派遣会社は、契約上、派遣先の意向に背くことは困難な面もある。しかしながら、不当解雇に対する抗議など、やるべきことをやっていない場合、派遣元も責任を問われる可能性がある。派遣労働という特殊な雇用形態ではあるが、同じ職場で働く人は、同じように配慮が必要なのである。
また最近、パワハラ・セクハラという言葉の他に、マタハラという言葉を聞くことが多くなってきている。
マタハラとは、マタニティー・ハラスメントの略で、働く女性が妊娠・出産をきっかけに職場で精神的・肉体的な嫌がらせを受けたり、妊娠・出産を理由とした解雇や雇い止めで不利益を被ったりするなどの、不当な扱いを意味する言葉である。
では、職場でそのような目に遭っている(あるいは遭いそうな)労働者としては、どのように対処すればよいだろうか? それには以下の点がポイントとなってくる。
・正しい法律の知識・権利を知る
労働基準法や男女雇用機会均等法では妊産婦の権利が保障されている(休暇・休憩・妊娠を理由とした解雇の禁止等)。まずは、法律でどのような権利が保障されているのかを正しく理解する必要がある。
・権利を主張する前に自分でできることを率先してやる
権利だけを主張する人は、職場で軋轢を引き起こしがちである。正しい権利をきちんと理解したうえで、自身の体調と相談の上、できることは率先してやる(例えば、力仕事は配慮してもらうが、それ以外の作業は率先してやる)という姿勢が、周囲の協力を引き出しやすい。あくまでも職場なので、自分でできることは率先してやる、という姿勢が大切である。
ハラスメントに対処する際は、権利“だけ”を主張しすぎてはならない。言うまでもなく、職場というのは周囲の仲間との連携で成り立っている。それぞれがそれぞれの事情を抱えながら働いており、お互い気遣いし合える職場が、風通しもよく、明るく働きやすい職場なのではないだろう。
では、事業主としてはどのように対処すべきだろうか?
事業主としては、妊産婦の法律上の権利を守るのは当然のこと、全体的なバランスを点検することが重要である。
妊産婦だけでなく、職場にはさまざまな事情を抱えながら、多くの人が働いている。そのなかで、妊産婦だけピンポイントで社内の制度を手厚くすると、妊産婦以外の頑張っている人のやる気がなくなっていく、という逆効果が生じることもある。会社として良かれと思って導入した制度が、逆に、社員のやる気をそいでしまうのだ。
よって、会社として一つの理念、例えば「頑張る人がより頑張れる環境作り」等を定め、全体を見通してどのように人事制度等の設計を考えればよいのか、という視点を持つことが大切である。
koCoro健康経営株式会社 代表取締役
Office CPSR 臨床心理士・社会保険労務士事務所 代 表
一般社団法人 ウエルフルジャパン 理 事
産業能率大学兼任講師
植田 健太