平成28年労働安全衛生調査(労働者調査)によると、現在の仕事や職業生活で、強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は、58.3%となっている。また、強いストレスの内容をみると、「仕事の質・量」が 62.6%と最も多く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」が 34.8%、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」が 30.6%となっている。多くの人のストレス要因として、職場の人間関係も対処すべき問題であることがわかる。
「社会不安障害」とは何か?

長い時間を過ごす職場だが、悩みがあったときに相談ができない、有給を取ろうと思っても非難される、仕事の調整を頼みにくい、といった人間関係では、どうしてもさまざまなストレスを生むだろう。しかし一方で人間関係は、ストレスの緩衝材料になるとも言われている。人間関係が良好でサポーティブな場合には、イキイキと仕事ができる要因にもなる。

自分の職場はどうだろうと思ったときに、まず確認していただきたいことは、朝の挨拶である。これまでの経験上、朝の挨拶が元気な職場は、職場の人間関係に問題が少ないように感じる。普段から風通しの良いコミュニケーションが成り立っているからだと思われる。あなたの職場は、社員が目を見て挨拶を交わしているだろうか。今一度確認していただきたい。

職場の人間関係について考えるにあたり、外せない要素がある。それは「社会不安障害」というものである。企業でメンタルヘルス対策をしていると、さまざまな診断名と出会うが、この「社会不安障害」も、「うつ病」に次いでよく出会う言葉だ。

社会不安障害とは、スピーチなど人前で話すことを過度に恐れ、次第にそのような場面を回避するようになり、社会生活に影響を及ぼしている状態で、昔は「対人恐怖症」とも言われていた障害である。

社会不安障害の方は、高い頻度で否定的な言葉を発し、不安に満ちた自己への注意が顕著である。(例えば、「私は馬鹿な真似をするだろう」と言ったり、常に自分が赤面していないかを注意したりしている。)あるいは、対人交流を避けることに全精力を注いでいるとも言える。

会社でプレゼンや対人交流を“過度に”避けている社員がいたら、その場合、この社会不安障害で悩まれている可能性がある。もし本当に社会不安障害であれば、それは場数をこなして慣れていくものではないし、努力や気力で何とかなるものでもない。ましてや、プレゼンのコツを教えてあげればどうにかなるというものでもない。むしろ、そのような声かけや対応は、本人の精神状態を悪化させ、休職へとつながりかねない。

日本人の特徴として、それほどプレゼンが大好き!という人は少ないのかもしれないが、社員の対人回避行動が顕著で、それが仕事に影響を及ぼしている場合は、専門家に一度相談をしてみるのも手であろう。実際に、自身の指導が悪いと思い込んでいた上司がそのようにして問題解決につなげたケースもある。
社会不安障害の治療には専門的なアプローチが必要であり、薬物療法と認知行動療法を組み合わせることでかなり効果があることが実証されている。もしそのような社員を見かけたら、専門家への早めの相談が大切である。


koCoro健康経営株式会社 代表取締役
Office CPSR 臨床心理士・社会保険労務士事務所 代 表
一般社団法人 ウエルフルジャパン 理 事
産業能率大学兼任講師
植田 健太

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