「じゃあ、浮気しないタイプなの?」
「予算通ったら浮気するか?」
上記発言等によって、世間を騒がせた財務省のセクハラ問題は記憶に新しいが、発端はこのような音声データが公開されたことだ。これについては、そもそも、取材相手との会話を無断録音し、しかもそれを他の報道機関へ提供したことを問題視する意見がある。しかし一般的に、職場でのハラスメント対策としては、上司や同僚の言動を秘密で録音・録画することは、やはり重要な手段の一つである。以下、無断で録音・録画する行為の是非について、労務管理の観点から考察する。
音声等のデータはどんな「情報」か
無断記録の是非は、そのデータの内容を考慮して判断しなければならない。個人が特定できる音声等は「個人情報」であり、プライバシーの問題に係わってくる。内容に私生活の事柄が含まれていれば、その情報公開は、プライバシー権の侵害や名誉毀損になる可能性もある。一方、営業上の秘密情報が含まれていれば、無断で記録すること自体が、守秘義務違反として労務管理上の処分対象となり得る。
・個人が特定できる声等→個人情報
・個人の私生活情報→プライバシー権/名誉棄損
・営業秘密情報→守秘義務
正当防衛?
プライバシー権は、憲法に保障されている国民の権利だが、同時に、民法第720条では「他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない(正当防衛及び緊急避難)」と定められている。このため、ハラスメントの当事者が自らを守るために行った録音・録画行為であれば、正当防衛として責任を免れることになるだろう。
労務管理上のポイント
無断での録音・録画等に関する労務管理上のポイントとしては、次の2つが挙げられる。1. 無断の録音に対する懲戒処分
社員が無断で録音・録画等をする行為に対して、主に下記2つの場合は懲戒処分をすることが可能である。
・録音された情報に営業上の秘密情報が含まれている場合(※公益通報者保護法に定める公益通報の場合等の例外あり)
・正当防衛の範囲を超えて録音を行い、他者のプライバシーを侵害し、または会社の秩序を乱した場合
2. 記録が提出された時の対応
現に財務省の事件では、被害にあったとされる記者が会社に報告したにも関わらず、そのような訴えを握り潰してなお取材に行かせた会社を批判する向きもある。ハラスメントの証拠として音声等が提出された時、会社として事実確認や危険回避の対処を行わなければ、会社が安全配慮義務違反を問われることになる。
以上のように、ハラスメント対策の録音・録画に関しては、誤った対応をすると当事者のみならず周囲へさらなる悪影響を及ぼしかねない。前述のプライバシーにも十分配慮し、迅速かつ慎重に対応すべきである。
社会保険労務士たきもと事務所
代表 瀧本 旭