マイナンバーを記入する「新様式」
2016年11月に「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律附則第三条の二の政令で定める日を定める政令(2016年政令第347号)」が公布・施行されたことに伴い、日本年金機構は、マイナンバーを利用して事務を行えるようになった。そのため、2017年1月からはマイナンバーカードを提示することで、日本年金機構での年金相談が可能になっている。さらに、2018年3月5日からは、これまで基礎年金番号で行っていた各種申請手続きについても、マイナンバーで行えるように変更された。この取り扱い変更に伴い、多くの手続き用紙が従来の「基礎年金番号を記入する形式」から「マイナンバーを記入する形式」に様式変更されている。これが「新様式」が使用されるようになった背景事情である。
書類に従業員のマイナンバーを記入して日本年金機構に提出すると、その情報は日本年金機構のデータベースに登録され、それ以降は従業員の住所変更、氏名変更の際に企業側の手続きが不要になるメリットがあるとのことである。
ただし、日本年金機構のこのような取り扱い変更に伴い、企業側は「マイナンバーの利用目的の明示」と「本人確認措置の実施」を行わなければならない。
個人情報保護法の規定に基づき、企業が従業員のマイナンバーを取得するときは「年金関係事務で利用する」という利用目的を従業員本人に通知または公表しなければならず、また、マイナンバーが正しい番号であることの確認、マイナンバーを提出する者がマイナンバーの正しい持ち主であることの確認が企業側に義務付けられるので、注意が必要である。
様式統合のメリット、デメリット
また、今回の様式変更に伴い、従来は別々の手続き用紙であったものが1つの様式に統合されたケースがある。たとえば、70歳以上の者を新規に雇用する場合、従来は、健康保険用として『資格取得届』を、厚生年金用として『70歳以上被用者該当届』を提出する必要があった。つまり、従業員1人の雇用に際して2枚の手続き用紙が必要になっていた。しかし2018年3月5日以降は「新様式」として、両者を統合した『資格取得届/70歳以上被用者該当届』という兼用の様式が用意された。そのため、1枚の用紙で手続きが済むようになり、その面では企業側の事務手続きが簡便化されたことになる。
ただし、1枚の手続き用紙を複数の用途で使用できるように変更した「新様式」の中には、記入項目が「旧様式」より増加しているものがある。その結果、「旧様式」に比べて、記入ルールが分かりづらいという問題も発生しているようである。
様式の種類が増え、使い分けを誤る場合も
また、このような例もある。従来、従業員の退職時に提出する『資格喪失届』は1種類であったが、様式変更に伴い『資格喪失届』という名称の様式が、『資格喪失届/70歳以上被用者該当届』『資格喪失届/70歳以上被用者不該当届』の2種類に増えた。前者は『~該当届』、後者は『~不該当届』となっており、名称に「不」という1文字が入るか入らないかだけの違いである。実は、名称に「不」の文字が入らない前者の『資格喪失届/70歳以上被用者該当届』は、『資格喪失届』という名称が入ってはいるものの、従業員の退職時に提出する手続き用紙ではない。70歳未満の従業員が70歳を迎えたときに提出が必要になるものである。
従業員の退職に伴い提出が必要になるのは、名称に「不」の文字が入る後者の『資格喪失届/70歳以上被用者不該当届』のほうである。極めて分かり辛く、多くの手続き誤りが懸念される「新様式」といえそうである。
また、『第3号被保険者関係届』という様式も「旧様式」では1種類であったが、「新様式」では2種類になったため、両者を正しく使い分けることが必要になる。
この「新様式」は、健康保険の種類が健康保険組合の管掌か、全国健康保険協会の管掌かで使い分ける仕組みなのだが、こうした分かり辛さから、誤った書類を提出するという手続きミスが懸念される。
今回の様式変更に伴い、企業の社会保険事務の軽減が期待できる事例もある。しかしながら、かえって事務負担が増えるケース、手続き誤りが懸念されるケースも散見されている。従って、社会保険事務の手続き時には、従来以上によく確認をする必要がありそうである。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)