大きな社会的インパクトを与えた電通の事件を皮切りに、パワハラ・セクハラ・残業代未払い・長時間労働等の言葉が、相も変わらず世間を賑わせ続けている。また、つい先日、テレビドラマでも取り上げられたらしいが、「やりがい搾取」という言葉を聞いた。企業の労働者に対する姿勢を批判する言葉であるこの「やりがい搾取」について私見を述べたい。
「やりがい」だけでは……

「やりがい搾取」とは

「やりがい搾取」とは、事業主が従業員に「この仕事は賃金以上のやりがい・社会的意義がある」と(強く)押し付け、言葉や態度で支配し、不当に安い賃金での長時間労働や劣悪な環境で働かせる企業姿勢を非難した言葉である。つまり、価値観の強要と低賃金、そして長時間労働という要素が絡み合うと「やりがい搾取」と批判されかねないということだ。

「やりがい搾取」が起こるメカニズム

低賃金と長時間労働という現象は、業界の慣習や収益性の低さから起こる。徒弟制的考え方が残る業界(例えば、アニメ・美容業界)では「若い頃は修行」という価値観がある。また、収益性が低いビジネスモデルにおいては、利益が少ない分を労働時間で補填せざるをえず、長時間労働になりがちだ。長時間労働と低賃金の状況下において、企業が労働力を維持する目的で何らかの価値観の強要を施した時、「やりがい搾取」の状況が生まれるということだろう。

熱心な教育との境界線

熱心な従業員教育と「やりがい搾取」との境界線は、収益性と労務管理(特に過重労働)に問題があることを認め、企業がその改善に一生懸命取り組んでいるか否かにあるのではないか。収益性が低いビジネスを改善することから目を背けて、いたずらに夢や目標を説いてばかりいては、やりがい搾取と揶揄されても仕方ない。

従業員の性格が原因になることも

一方で、労働環境だけでなく従業員の性格が「やりがい搾取」の原因となることもある。例えば、スタートアップ企業の場合だと、ただでさえ抱え込む業務は膨大になりがちだ。そのような状況下において、自己犠牲志向が強い従業員は、自分の能力以上に仕事を抱え、結果として長時間労働で疲弊してしまうことが多々ある。したがって、企業は個別の社員の性格を考慮しながら、適宜ケアをしていく必要があるだろう。

人材の確保や育成に熱心になる気持ちも分かるが、企業が働く従業員の長時間労働を食い止め、業界の慣習より給与水準をあげる努力をしてはじめて「仕事のやりがい」を説くことができるのではないか。


社会保険労務士たきもと事務所
代表 瀧本 旭

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