公益通報者保護法を所管する消費者庁によって、内部通報制度に関する民間事業者向けガイドラインが約11年ぶりに改正され、平成28年12月9日に公表されました。文量が大幅に増え、相当詳細な内容となっています。
内部通報ガイドラインが大幅改正!企業がとるべき対応とは?

そもそも内部通報制度って?基本のおさらい

 内部通報制度とは、企業等が、内部の労働者等から法令違反等の不正行為の通報を受け付ける制度です。近年では、内部通報を契機として企業の不祥事が明るみにでることも多く、内部通報制度の重要性の理解が浸透しつつあります。
 関連する法律としては、公益通報者保護法があります。同法では、通報者に対する解雇等の不利益取扱いの禁止等が規定されていますが、内部通報制度の内容が詳細に定められているわけではありません。そのため、消費者庁は、民間事業者向けガイドラインを公表し、法の趣旨を踏まえた望ましい制度設計・運用のあり方を示しています。
*新ガイドラインを公表している消費者のHPはこちら


 消費者庁の平成28年度「民間事業者における内部通報制度の実態調査」によれば、内部通報制度を導入しているのは、大企業が99%であるのに対し、中小企業は40%にとどまり、中小企業においてはまだまだ制度の導入が進んでいないようです。
 しかし、上記実態調査によれば、内部通報窓口を設置したことにより、例えば従業員等による違法行為への抑止力として機能する等、一定の効果が得られていることも明らかとなっています。不正行為を抑止するとともに、有事の際に自浄作用を十分に発揮するために内部通報制度を設けることは、中小企業にとっても有用です。加えて、内部通報制度を整備することにより、いきなり外部に通報され、企業のレピュテーションが傷つくというリスクを減らすこともできます。

 また、公益通報者保護法は、企業の規模や業種による限定は設けておらず、中小企業も適用対象となります。よって、特に内部通報制度を設けていない中小企業であっても、同法の定める公益通報を受けた場合は、同法を遵守した対応をとる必要があります。予め法に沿った内部通報制度を設けておいた方が、いざ通報があった際に確実な対応をとることができ、安心です。

新ガイドラインのポイントは?

●窓口はわかりやすく
 通報窓口や受付方法は、内部規程等で明確に定め、「どこに」「どうやって」通報をすればよいのかわかりやすくしておくことが重要です。信頼性を高めるために、外部の法律事務所等に窓口業務を委託することも推奨されています。

 ●利用者の範囲は広めに
 不正行為を把握する機会を広げるため、窓口の利用者は、パート、アルバイト、取引先、退職者等も含めて幅広く設定することが適当とされています。

 ●経営幹部のあり方
 内部規程等において経営幹部の役割を明確にすることや、経営トップ自らが従業員等に向けて内部通報制度の重要性等について明確なメッセージを継続的に発信すること等が求められています。
 なお、経営幹部が不正に関与するケースや、通報により発覚した不正をもみ消すというケースも想定されますので、経営幹部からも独立した通報ルートを整備することが推奨されています。

 ●安心して通報できる環境をつくる
制度の整備・運用にあたっては、従業員の意見等を反映したり、制度についての質問・相談を受け付けたり、周知・研修を継続的に実施したりすること等が必要とされています。

 ●実効性の高い調査・是正措置を
 内部規程に従業員等の調査への協力義務を明記すること、通報対応状況につき第三者による検証等を行うこと、適切な担当者の設置・育成等が求められています。

 ●通報者を守る
 通報に係る秘密保持の徹底は、非常に重要です。匿名の通報を受け付けることが必要とされているほか、通報に係る資料を閲覧できる者を最小限にする、資料は施錠管理する、関係者の固有名詞を仮称表記にするといった対応例が挙げられています。
 また、通報者や調査協力者に対して、解雇その他不利益な取扱いをすることは、法律上の公益通報のみならず、内部規程の通報に関しても禁止されています(むしろ、経営トップ等から通報者等に感謝を伝えることや、組織への貢献を正当に評価すること等が適当とされています)。万が一、不利益取扱いがなされた場合は救済・回復措置をとること、不利益な取扱いを行った者に対して懲戒処分等を講じること等が求められています。

 ●丁寧なフォローをする
 通報への対応が一通り終了した後も、通報者等に対して何か不利益な取扱いを受けていないか確認する、不正行為が再発していないか確認するといったフォローアップや、内部通報制度の定期的な見直し・改善等が必要とされています。

 ガイドラインは、今回の改正で相当詳細かつ具体的になりましたので、これまで制度を設けていなかった企業は、ガイドラインを参照しながら制度を新設する良い機会だと思われます。また、一般的に、通報が全くない企業より、ある程度通報のある企業の方が健全性は高いと考えられています。制度を設けているものの、これまでほとんど通報がなかったという企業はガイドラインを参照しながら制度を見直してみるとよいでしょう。


角谷 美緒(かくたに みお)
奧野総合法律事務所・外国法共同事業 アソシエイト弁護士
事業再生・倒産、各種契約書の作成、コンプライアンス対応等の企業法務、一般民事・家事事件等に従事。

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