1.罪刑法定主義の原則
「懲戒処分を行うにあたっては、処分の対象となる行為、処分の種類・内容を明らかにしておかねばならない。」
懲戒(制裁)の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項を就業規則に記載しなければならないとされている(労働基準法第89条)。経営者の主観で処分を実施することは許されず、その根拠の周知が必要とされるのである。
2.適正手続の原則
「事実関係の充分な調査と、本人への弁明の機会付与等、適正な手続きを踏まなければならない。」
証言や先入観だけで重要な処分を決めてしまわぬよう、客観的な証拠を収集することにより、充分に調査しなければならない。また、本人へ弁明の機会を与える等、公平な手続きにも留意したい。就業規則に懲罰委員会の設置等行う旨定められていれば、その手続きも遵守しなければならない。
3.合理性・相当性の原則
「事案の背景や経緯、情状酌量の余地等を考慮して、必要のない処分や、重すぎる処分であってはならない。」
例えば、短時間の遅刻で懲戒解雇とする処分は無効と判断される可能性が高い。これは極端な例であるが、「一般的にどう考えるか」との観点を持ち合わせ、適切な処分を慎重に検討したい。
「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする。」(労働契約法第15条)とされているため、充分に注意したい。
4.平等取り扱いの原則
「以前に同様の事案があった場合は、当時の処分との均衡を考慮しなければならない。」
成果を挙げている社員の問題行動を「これくらいいいだろう」と見逃していると、後々、他の者が同様の問題行動を起こした場合、処分することが難しくなる。常に毅然とした対応をとることが重要である。
5.個人責任の原則
「個人の行為に対して、連帯責任を負わせることはできない。」
例えば、飲食店や美容室等において、現金不足が生じた場合、原因不明のまま、全員に連帯責任を負わせるような処分はできない。
6.二重処分禁止の原則
「同一の事由に対して、2回以上の処分を科すことはできない。」
事実調査のために無給で自宅待機を命じると、それ自体が懲戒と解釈され、その後行った懲戒解雇が無効となる可能性がある等、注意が必要である。
7.効力不遡及の原則
「新たに処分の対象となる行為を定めた場合、その規定は制定後に発生した事案にのみ効力を有する。」
問題が発生した後に、それを対象とした処分規定を設けても、効力を有しない。社会情勢の変化により、懲戒処分の対象とするべき行為は多様化しているため、定期的に懲戒事項を見直すことが肝要である。
懲戒処分は、人が人を罰する行為であり、慎重な運用を行う必要がある。しかし、本来処分すべき場合に放置してしまうことは、企業秩序を乱すこととなり、避けなければならない。
問題行動が発生した際には、上記「7つの原則」を充分に勘案の上、社外専門家の意見を聞きながら、適正に判断・運用することが重要であろう。また、採用や社員教育を改善することにより、問題が発生しない社風を目指すことにも力を入れていきたいものである。
山本社会保険労務士事務所 山本武志