外部研修を “面倒なもの” と考える社員たち
社員教育の形態のひとつにOff-JTといわれるスタイルがある。これは「Off the Job Training」の略で、日常業務から離れた環境で教育研修を行うものである。日々の業務から離れた環境で行うため、特定のテーマについて集中的に教育研修を行うのに効果的な教育形態といえる。そのため「リーダーシップ研修」「論理的思考力研修」など、さまざまなテーマの外部研修を採用する企業が少なくない。ところが、外部研修を受講した社員が研修内容を業務に反映できているかというと、必ずしもそうとはいえない。企業側が高い教育研修費用を外部の教育研修機関に支払ってまで教育を施しているのにもかかわらず、成果がほとんど出ないケースもあるようである。成果が出ないのには複数の理由が考えられるが、大きな理由のひとつは社員自身にある。
外部研修を受講する社員に研修に対する印象を聞くと、次のような意見をよく耳にする。
「この忙しい時期に人事部が面倒な研修を企画した」
「外部研修に出席していては、通常業務に支障が出てしまう」
「研修内容はどうせ実務には役に立たない」
「今日は仕事をしなくて良い。息抜きができる」
これらの意見には、「研修内容を “何が何でも” 身に付けてやろう」という姿勢が見られない。つまり、教育研修に対するモチベーションが極めて低い状態といえる。このような意識で研修に参加していて、研修内容が身に付くわけがない。
外部研修に対する社員のこのような心理傾向を回避するために、「事前に上席者が研修の目的をよく説明する」等の取り組みを行う企業も存在する。しかしながら、それらの取り組みが成果を発揮しているかといえば、必ずしもそうとはいえないようである。
職業人としての “好ましい行動・考え方” を教育しているか
参加者のモチベーションが高まる教育研修は、次の3つの条件を満たすものが多い。① 自らが強い必要性を認識している教育研修であること
② 自らの意思で参加を決定した教育研修であること
③ 自らの時間・費用を投資した教育研修であること
の3点である。
たとえば、仕事帰りに資格取得等のスキルアップのために学校に通うビジネスパーソンがいる。この場合はスキルアップの必要性を自らが感じ、自らの意思で、自分の時間とお金を犠牲にして学習をしている。「モチベーションが高まる教育研修の条件」を満たしているため、本人の “本気度” が格段に高い。したがって、このような環境で学んだことは成果を生みやすい傾向にある。
これに対して、社命で受講する外部研修は、通常、社員にとっては「会社の意向」で「会社にやらされるもの」である。研修時間中も給与の支払い対象になるので、自らの時間を犠牲にすることはなく、費用は会社負担のため社員自身の懐が痛むこともない。「モチベーションが高まる教育研修の条件」を全く満たせないため、研修に参加する社員の “本気度” はなかなか上がらないようである。
では、どうすれば外部研修に対する社員の意識を向上させられるのだろうか。残念ながら、研修受講のときだけ意識を向上させる取り組みを行っても、高い効果は望めるものではない。重要なことは、入社直後からの徹底した『意識教育』を欠かさないことにある。
社員教育は『知識教育』と『意識教育』の2種類に大別できる。『知識教育』とは業務に必要な知識・技術を教えるものであり、『意識教育』とは職業人としての “好ましい行動” “好ましい考え方” を教えるものである。多くの企業は『知識教育』のみに重点を置いており、『意識教育』をなおざりにする傾向にある。
しかしながら、「職業人とはどうあるべきか」等を教育する『意識教育』を怠ると、「仕事を進める知識・技術はあるが、“考え方” は未熟なまま」という社員に育ってしまう。その結果、企業が外部研修を実施する意義を社員が理解できず、外部研修への参加の場面で職業人に求められる “好ましい行動” がとれなくなってしまうのである。
『意識教育』は研修の場だけで行うものではない。リーダーの日々の「発言」「行動」そのものが社員に対する重要な『意識教育』の役割を果たしている。組織構成員の一人ひとりが “自律した高い意識” を持つためには、リーダーの一挙一動による『意識教育』が極めて重要といえる。「職業人とはどうあるべきか」に対する “好ましい考え方” が身に付けば、「この忙しい時期に人事部が面倒な研修を企画した」などとは言えなくなるはずである。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀 信敬(中小企業診断士・特定社会保険労務士)