株式会社東京商工リサーチは2023年10月16日、「2024年問題に関するアンケート調査」の結果を発表した。調査期間は2023年10月2日~10日で、大企業および中小企業の計5,151社より得た回答を集計・分析している。なお本調査では、資本金1億円以上を「大企業」、1億円未満(資本金がない法人・個人企業を含む)を「中小企業」と定義。本調査により、2024年問題が企業経営に与え得る影響や具体的な懸念点が明らかとなった。
【2024年問題】6割以上の企業が「マイナス影響」を懸念…建設・運輸業以外の業種にも影響は広がる見通し

2024年問題によって「マイナス影響を受ける」と予想した企業は6割を超える

「働き方改革関連法」の改正により、2024年4月から、これまで適用が猶予されていた建設業や運輸業などにおいても、時間外労働の上限規制が開始となる。この“2024年問題”について、企業はどのような影響があると見ているのだろうか。

最初に東京商工リサーチは、「経営への影響はどの程度か」を尋ねた。すると、「大いにマイナス」が19.3%(※)、「どちらかというとマイナス」が42.6%で、合計61.9%と6割以上の企業が「マイナスの影響を受ける」と予想していることがわかった。

※本文の数値は小数点第2位以下を四捨五入。以下同。
経営への影響はどの程度か

「マイナス影響がある」としたのは大企業で約7割、中小企業で約6割に

続いて同社は、「2024年問題による経営への影響度合い」を企業規模別に比較した。すると、「大いにマイナス」と「どちらかというとマイナス」の合計は、大企業で68.1%、中小企業で61%となり、大企業が中小企業を7.1ポイント上回った。
大企業・中小企業別の2024年問題による経営への影響度合い

“2024年問題”の影響度は「卸売業」が最多の7割超え

続いて同社は「2024年問題による経営への影響度合い」を産業別に比較した。その結果、「大いにマイナス」と「どちらかというとマイナス」の合計が半数を超えたのは、「農・林・魚・鉱業」(57.9%)、「小売業」(60.8%)、「製造業」(68.9%)、「建設業」(69.3%)、「運輸業」(72.8%)、「卸売業」(73%)の6つだった。

中でも7割を超えて最多となった「卸売業」について、同社は「卸売業はメーカーと小売業をつなぎ、円滑な流通システムを構築する役割を担っている。運輸業の時間外労働の上限規制が適用されると、配送コスト上昇への対応や納品スケジュールの見直しなどが必要となり、流通の効率化に影響を及ぼしかねない」との見解を示している。

また、時間外労働の上限規制が行われる「運輸業」と「建設業」は、残業や休日出勤で受注をこなすケースが多く、規制適用後はこうした時間外労働時間を削減する必要がある。これを受け同社は、「工期や納期の遅れ解消には人員確保に動く必要があるものの、確保のための人件費の上昇も懸念される」とした上で、「特に、物流を担いあらゆる産業と密接な関係にある運輸業は、影響がさまざまな産業に波及する可能性が高いのではないか」と推察している。
産業別の2024年問題による経営への影響度合い

食料品製造業の8.5割以上が「2024年問題で経営にマイナス影響あり」

さらに同社は「2024年問題による経営への影響」を業種別に比較し、上位15位を示した。すると、「大いにマイナス」、「どちらかというとマイナス」の合計が最も多かった業種は「食料品製造業」(86.8%)だった。食料品は、人手のかかる“バラ積み貨物”が多く、荷待ち時間や荷役時間が比較的長くなる一方で、受注から納入までの期限が短いという特徴があり、ドライバーの1日あたりの労働時間が長くなりやすいのが実態だ。これを受けて同社は、「時間外労働者の上限規制が適用されると、今まで残業で対応できていた配送量をさばくことが難しく、配送計画を見直す必要が出てくる」との見解を示している。

また、「マイナスの影響が出る」とした企業の割合が8割を超えた業種は、11業種に及んだ。さらに、上位15業種のうち、製造業が8業種と半数以上を占めることもわかった。
マイナス影響の業種

具体的な懸念点は「物流・建設コスト増加による利益率の悪化」など

最後に、同社が「具体的にどのようなマイナスの影響を受けそうか」を尋ねると、「物流・建設コスト増加による利益率の悪化」が67.9%で最も多かった。以下、「稼働率の低下による納期の見直し」が28.6%、「稼働率の低下による利益率の悪化」が26.1%と続き、稼働率の低下で納品スケジュールに支障が出ることを懸念する企業が多く見受けられた。

トップの「利益率の悪化」が次位と大差をつけたことに対して、同社は「ウクライナ情勢や円安などを背景に、エネルギーや原材料などさまざまなモノの価格が上昇し、企業の業績を圧迫している。2024年問題によって運賃や作業費などのコスト上昇も予想され、さらなる業績悪化が懸念されるだろう」と推察している。

時間外労働の上限規制の対象となる建設業・運輸業では、「稼働率の低下による利益率の悪化」が57.5%と半数を超えた。以下、「物流・建設コスト増加による利益率の悪化」が48.1%、「稼働率維持に向けた人員採用による人件費の増加」が44.5%と続いた。この結果から、利益率の悪化のほか、すでに顕在化している「人手不足」がより深刻化することによる人件費の上昇を懸念する企業が多いとわかる。また、「時間外手当の減少による従業員の離職」(22.7%)が全体の同回答比率(8.3%)よりも多いことから、時間外手当の減少によるドライバーの収入減が、従業員の離職につながると懸念する企業も少なくないようだ。
具体的にどのようなマイナスの影響を受けそうか
本調査結果から、“2024年問題”において「マイナスの影響が発生する」とした企業は6割に及ぶことがわかった。また、具体的な影響として「物流・建設コスト増加による利益率の悪化」を懸念する企業が多いことも示された。これまで一部の産業や企業にかかってきた負担を業界全体で共有し、軽減するためにはどのような取り組みを行うべきか、早急に考える必要がありそうだ。

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