2024年問題による影響が「大いにマイナス」とした企業は2割に迫る
「働き方改革関連法」の改正により、2024年4月からトラックドライバーなどの自動車運転業務や建設業でも、時間外労働の上限規制が始まる。この「2024年問題」について、企業はどのような考えを持つのだろうか。はじめに東京商工リサーチは、「経営への影響はどの程度か」を尋ねた。すると、「大いにマイナス」が19.3%、「どちらかというとマイナス」が42.6%で合計61.9%と、6割以上の企業が「マイナスの影響を受ける」と予想していることがわかった。
「マイナスの影響がある」とした割合は大企業で約7割、中小企業で約6割に
次に同社は、「2024年問題による経営への影響度合い」を企業規模別に比較した。すると、「大いにマイナス」と「どちらかというとマイナス」の合計は、大企業で68%、中小企業で60.9%となり、大企業が中小企業を7.1ポイント上回ることが明らかとなった。「2024年問題」が経営に影響するとした産業は「卸売業」が最多
続いて同社は、「2024年問題による経営への影響度合い」を産業別に比較した。その結果、「大いにマイナス」と「どちらかというとマイナス」の合計が半数を超えたのは、「農・林・魚・鉱業」(57.9%)、「建設業」(69.3%)、「製造業」(68.9%)、「卸売業」(73%)、「小売業」(60.8%)「運輸業」(72.8%)の6つだった。中でも7割を超えて最多となった「卸売業」について、同社は「卸売業はメーカーと小売業をつなぎ、円滑な流通システムを構築する役割を担っている。運輸業の時間外労働の上限規制が適用されると、配送コスト上昇への対応や納品スケジュールの見直しなどが必要となり、流通の効率化に影響を及ぼしかねない」との見解を示している。
また、時間外労働の上限規制が行われる「運輸業」と「建設業」は、残業や休日出勤で受注をこなすケースが多く、規制適用後はこうした時間外労働時間を削減する必要がある。これを受け同社は、「工期や納期の遅れ解消には人員確保に動く必要があるものの、確保のための人件費の上昇も懸念される」とした上で、「特に、物流を担いあらゆる産業と密接な関係にある運輸業は、影響がさまざまな産業に波及する可能性が高いのではないか」と推察している。
食料品製造業の8割以上が「2024年問題で経営に影響あり」
続いて同社は、「2024年問題による経営への影響」を業種別に比較し、上位15位を示した。すると、「大いにマイナス」、「どちらかというとマイナス」の合計が最も多かった業種は「食料品製造業」(86.8%)だった。食料品は、人手のかかる“バラ積み貨物”が多く、荷待ち時間や荷役時間が比較長いという特徴がある。一方で、受注から納入までの期限が短く、ドライバーの1日あたりの労働時間が長くなりやすいのも実態だ。これを受け同社は、「時間外労働者の上限規制が適用されると、今まで残業で対応できていた配送量をさばくことが難しく、配送計画を見直す必要が出てくるだろう」との見解を示している。また、「マイナスの影響が出る」とした企業の割合が8割を超えた業種は、11業種に及んだ。さらに、上位15業種のうち、製造業が8業種と半数以上を占めていることもわかった。
具体的な影響として「物流・建設コスト増加による利益率の悪化」を懸念
最後に同社が、「具体的にどのようなマイナスの影響を受けそうか」と尋ねると、「物流・建設コスト増加による利益率の悪化」が67.9%で最多となった。以下、「稼働率の低下による納期の見直し」が28.5%、「稼働率の低下による利益率の悪化」が26.1%と続き、稼働率の低下で納品スケジュールに支障が出ることを懸念する企業が多く見受けられた。トップの「利益率の悪化」が次位と大差をつけたことに対して、同社は「ウクライナ情勢や円安などを背景に、エネルギーや原材料などさまざまなモノの価格が上昇し、企業の業績を圧迫している。2024年問題によって運賃や作業費などのコスト上昇も予想され、さらなる業績悪化が懸念されるだろう」との推察を示している。
時間外労働の上限規制の対象となる建設業・運輸業では、「稼働率の低下による利益率の悪化」が57.5%と半数を超えた。以下、「物流・建設コスト増加による利益率の悪化」が48%、「稼働率維持に向けた人員採用による人件費の増加」が44.4%と続いた。
この結果から、利益率の悪化のほか、すでに顕在化している「人手不足」がより深刻化し、人件費の上昇を懸念する企業が多いとわかる。また、「時間外手当の減少による従業員の離職」(22.7%)が全体(8.3%)よりも多いことから、時間外手当の減少によってドライバーの収入が減ることで、従業員の離職につながることを懸念する企業も少なくないようだ。