大企業ではコンプライアンスへの取り組みがより進む傾向に
昨今、企業のコンプライアンスに関する問題が表面化し、大きな話題となっている。そのような状況を受け、自社のコンプライアンス遵守について見直しを行う企業もあるだろう。実際に企業ではどのような取り組みが行われているのだろうか。はじめに東京商工リサーチは、「自社でコンプライアンス遵守に向けて、どのような取り組みを行っているか」を尋ねた。すると、何らかの取り組みを「行っている」とした企業は80.3%と8割を超えた。
具体的な取り組み内容を見ると、「社内規則、マニュアル等の改訂」が50%と最も多く、以下、「社内研修の開催やe-ラーニング受講環境の整備」が29.3%、「社内通報窓口の設置」が27.6%、「従業員への定期的なヒアリング」が27.3%と続いた。他方で、「特に取り組んでいない」は19.6%と、2割未満であることもわかった。
また、企業規模別に見ると、「取り組んでいる」とした大企業は704社中678社(96.3%)と、9割を超えた。対して、中小企業では4,471社中3,479社(77.8%)と、8割を下回り、大企業とは18.5ポイントの差が見られた。企業規模と取り組み内容を比較してみると、「社内通報窓口の設置」は大企業が66.1%であるのに対し、中小企業は21.6%で、その差は44.5ポイントと、企業規模による差が最も大きく開いた。
2020年6月施行の「改正公益通報者保護法」により、法人には内部通報制度の整備が義務付けられたが、従業員300人未満は努力義務となっている。同社は、「人的リソースの少ない中小企業は対応が遅れ、適切な運用が難しい可能性がある」との見解を示している。
3割以上の企業が「取引見直し基準」を設定。大企業や営業職への視線は厳しく
次に同社が、「取引先でコンプライアンス違反が発覚した場合、どのような対応を取るか」を尋ねたところ、計5,140社から回答が得られたという。その結果を見ると、「法令に違反していなくても自社の企業倫理や社会通念に反していたら、取引の打ち切りや縮小を検討する」が22.8%、「法令(法律や条例など)に違反している場合のみ、取引の打ち切りや縮小を検討する」が9.5%で、合計32.4%と、3割がコンプライアンス違反企業との取引方針に何らかの基準を定めていることがわかった。他方で、「案件ごとに対応を判断する」とした企業は67.5%と7割に迫った。取引先のコンプライアンス違反が判明した場合でも、取引額や扱い品によって簡単に取引の見直しを行えないケースもあると見られ、判断が分かれる結果となった。
企業規模別に見ると、「コンプライアンス違反企業との取引の打ち切りや縮小を検討する」とした大企業は37%なのに対し、中小企業は31.7%と、5.3ポイント下回った。また、そのうち「法令に違反していなくても自社の企業倫理や社会通念に反していたら」との回答のように、より厳しい自社基準で取引を見直すとした割合は、大企業が28.5%なのに対し、中小企業は22%と6.5ポイントの差が見られ、企業規模によって対応が異なることも明らかとなった。
大企業は中小企業よりコンプライアンス遵守への取り組みが進んでいることに加え、株主や取引先など、多くのステークホルダーを抱えていると考えられる。これを受け同社は、「大企業は自社に向けられる視線も厳しく、より厳格な対応を選択する企業が多いのではないか」と推察している。